著作権侵害で初判決、店舗使用BGMについて (2018/3/20 企業法務ナビ)
はじめに
札幌市内の理容店が店舗内で音楽をBGMとして使用していたのに対し、JASRAC日本音楽著作権協会が著作権侵害を理由に音楽の使用停止と損害賠償を求めていた訴訟で19日、札幌地裁は店側の著作権侵害を認めました。店舗BGMを巡る著作権訴訟では全国初の判決とのことです。今回は店舗BGMと著作権について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、札幌市内の理容店は2014年5月から昨年6月にかけて、JASRACが管理する楽曲を音楽著作物の利用許諾契約を締結せずに店舗BGMとして使用していたとされます。JASRACは使用料の支払いを求め民事調停申立を行っていましたが、調停不成立となり7月に提訴に踏み切ったとのことです。店舗使用BGMを巡って音楽の使用停止と賠償を求め提訴がなされたのは本件が全国初とされます。
著作権と著作隣接権
著作権法によりますと、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物とし(2条1項1号)、著作者が著作物を創作した時点で著作権が発生します(51条1項)。そしてその著作権は作者の死後50年経過するまで存続します(同2項)。そして著作権とは別に、楽曲の実演家やレコード製作者、放送事業者などに認められる著作隣接権が存在します。自分の演奏を録音し、レコード会社がCDを販売し、テレビ局が放送するといった権利です。
店舗でのBGM利用と管理の経緯
以前はCDやレコードなど、音楽の録音物を使用して店舗内にBGMを流すことは著作権者の許諾無く行うことができていました。旧著作権法の昭和45年改正で新設された著作権法附則14条により、一定の例外を除いて経過措置として許容されていたということです。しかしこの条項がWTOやECから著作権に関する国際条約であるベルヌ条約に反すると指摘され1999年改正で廃止されました。これを受けJASRACは2002年4月から店舗使用BGM等の管理を開始したとのことです。
著作権手続きの不要な楽曲
原則的に楽曲を店舗で使用する場合には著作権者の許諾等が必要となってきます。しかしそれらが不要となる著作権の無い楽曲も存在します。たとえば上でも触れたように著作権者が死亡して50年を経過した楽曲、著作権者によって著作権フリーとされている楽曲、古い民謡など作者が不明か存在しない楽曲、国際条約未加盟の国の楽曲などが該当すると言われております。これらの楽曲は許諾料を支払わなくてもBGMとして使用することが可能です。
コメント
本件で札幌地裁は、BGMはJASRACが管理する著作権を侵害しており、被告側は利用許諾契約締結も拒否していることから今後も侵害するおそれがあるとして、約3万1000円の支払いを命じました。以前はこのような店舗では有線放送が一般的に利用されており、利用許諾料は有線事業者が支払っていたため問題にはなりませんでした。しかし昨今、音楽はネット配信などデジタル化が進み、MP3プレイヤーやタブレット端末などからも利用され、店舗ごとに利用形態が異なり、個別に利用許諾が必要となりました。本件はその点を裁判所が認めた最初の裁判例となります。
店舗BGMには上記のように著作権フリーなものや著作権が消滅しているものを使用することもできますが、著作隣接権に触れる場合も多くあります。クラシックなどは著作権は無くとも、演奏者やレコード会社の権利は存在します。店舗でBGMを使用する、あるいは既に使用している場合は以上の点を踏まえて著作権侵害となっていないかに注意は払うことが重要と言えるでしょう。
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