大分県農協に排除措置、差別取扱について (2018/3/2 企業法務ナビ)
はじめに
公正取引委員会は2月23日、大分県農協に対し、こねぎの出荷に関して差別的な取扱いがあったとして排除措置命令を出した旨発表しました。こねぎの生産業者5者はいずれも大分県農協への出荷を取りやめているとのことです。今回は独禁法が規制する差別的取扱について見ていきます。
事案の概要
公取委の発表によりますと、大分県内5市で「こねぎ」生産を行っている組合員を構成員とする大分県農協の事業推進組織である「味一ねぎ部会」は、平成26年4月、農協以外の業者にこねぎを個人出荷したとしてこねぎ生産業者5者を除名処分としたとされます。同生産業者5者は「味一ねぎ」の販売価格の下落により農協から支払われる対価が減少し、会社経営上採算がとれなくなり、やむなく農協以外にも個人出荷を始めたとのことです。
これに対し味一ねぎ部会は個人出荷を取りやめなければ除名の対象となる旨通知し、なお出荷を続ける5者を除名としました。大分県農協は除名となった5者に対し、「味一ねぎ」以外の銘柄で販売するよう求め、また従来のパッケージセンターから他の施設に出荷先を変更することを通知したとのことです。これにより「味一ねぎ」銘柄で販売ができなくなった5者は採算が取れなくなったことからすでに出荷を取りやめているとされます。
差別的取扱とは
独禁法2条9項2号では「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給すること」、また一般指定3項では、法2条9項2号に規定するもの以外で「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給をうけること」が不公正な取引方法の一つである差別対価として規定されております。
そして一般指定4項では「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすること」が差別取扱として規定されております。価格等の対価における差別が前者で、それらも含む包括的な差別行為が後者ということです。
行為要件
差別対価の行為要件としては、地域による差別と相手方による差別に分けられます。たとえば特定の地域における競争者を排除するため、その地域だけ低い対価を設定する行為はいわゆるダンピングと呼ばれ差別対価の典型例となります。また競争者と取引している業者に対してのみ高い価格で供給したり、低い価格で買い受けるといった行為も差別対価となります。
そして対価以外、たとえば配送の順序や商品の陳列、市場情報の提供など取引条件や実施で差を設けることが差別取扱いに該当することになります。対価も一種の取引条件に当たるので、価格を15%に引き上げた上、配送回数を減らした事例ではまとめて4項の差別取扱いが適用された例もあります(オートグラス事件審決平成12年2月2日)。
効果要件
上記行為要件を満たした上で、その行為に公正競争阻害性が認められなければなりません。具体的には競争事業者の事業活動を困難にし自由競争を減殺する効果があるかで判断されます。その判断には行為者の市場におけるシェアなどの地位や、市場における新規参入の難易度、価格の低廉性や価格競争の実情などを総合的に考慮して判断されるとされます。
違反の効果
これらの要件を満たし、独禁法違反となった場合にはいずれの場合でも排除措置命令の対象となります(20条1項)。また差別対価行為のうち法定類型である2条9項2号に規定されているもの、すなわち「継続」して差別的対価で「供給」した場合には課徴金納付命令の対象となります(20条の3)。
コメント
本件で大分県農協は、納入業者が他の業者に個人出荷を行っていることを理由に除名処分とし、「味一ねぎ」銘柄の使用と出荷施設の使用を拒否しました。他の銘柄を使用することを条件として商品を取り扱っていること、また出荷施設を別にしていることから、取引条件や実施において差別取扱があるものと言えます。
また農協は農産物取扱での市場におけるシェアや地位は圧倒的なものであり、自由競争への影響も大きいと判断されたものと思われます。本来、他の業者との取引を制限する場合は排他条件付取引や拘束条件付取引が適用される事例が多いですが、今回のように差別取扱が適用されたことはめずらしいものと思われます。
市場で独占的地位を占める事業者団体等は他社との取引を嫌う傾向にあります。どのような行為が独禁法に抵触するかを正確に把握し、違法とならないよう、また逆に違法な取扱を受けないよう対策を講じることが重要と言えるでしょう。
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