会社は社員をどこまで縛るのが適切なのか (2018/2/15 瓦版)
第4回GOOD ACTION受賞企業が示した職場最適化の重要度
会社に縛りは必要なのか…。職場の多様化が求められる昨今、従業員を縛るルールや規制を柔軟化する動きも目立つ。ルール緩和は企業にとって、不安が拭えない一方、働く個人の多くは、こうした動きを好意的に受け止めている。では実際、現場至上主義といえるこうした職場柔軟化は、本当に会社、そして働く個人を幸せにするのか…。職場を盛り上げる取り組みに光をあてるグッドアクション。そこで受賞した各企業の取り組みには、その解というにふさわしいエビデンスがつまっていた。
出退勤から休みまで完全自由な会社
会社にはルールがある。社員は、会社をうまく回すためにそれに従うのが当然だ。会社員なら基本、誰もがうなずける話だろう。ところが、この“常識”を真逆の仕組みで、完全に覆した企業がある。船凍天然エビ加工販売の(株)パプアニューギニア海産だ。
同社ではなんと出退勤が完全自由制。つまり、いつ、何時間働き、そして休もうが自由。会社への事前連絡さえいらない。加えて、「嫌いな作業をやってはいけない」というルールまである。縛りゼロどころか、働き手にとっては、不満の起こり様がない、まさに究極の現場至上主義といっていいだろう。
一体どうしてこんなことが可能なのか。仕組みをつくった同社工場長の武藤北斗氏が説明する。「どんなにいい商品をつくり、信念をもっていても、人が離れてしまうような会社に価値はあるのか…。そこに向き合うことから仕組みを考え始めた。どうやっても不満やねたみは発生する。その上で、どうすれば問題が起こらず、誰もが気持ちよく働けるかを考えた」。その結果辿り着いたのが、このワークスタイルというわけだ。
もっとも、ルールをなくすだけならそれほど難しくはない。だが、同社では、それでも発生する不平等や妬みを排除するため、細かいところにまで仕組みを設計。正真正銘、各スタッフが自分のペースで働けることに配慮している。そのため、良くも悪くも現場での会話は少なく、全員が雑念に惑わされることなく作業に没頭。そこに和気藹々とした交流こそほとんどないが、誰もが満足し、求人をすれば応募が殺到。縛りゼロの完全フラット組織の驚異のチカラが実証されている。
武藤氏が続ける。「全く同じことではないが、これを他の会社にもトライして欲しい。もちろん、やり方は各社各様だが、ポイントは利益や先のことは考えないこと。経営目線だとどうしても利益を先に考えがちだが、順番が逆なんです。誰もが働きやすい職場が出来れば、必ず成果はついてきます」。そう力説する言葉には、説得力とともに働き方改革への使命感がずっしりと詰まっていた。
ヒエラルキーをなくすことで増すスピード感と主体性
理想的といえる現場至上主義のカタチは、Fringe81のピアボーナス制度だ。社員が、相互に感謝の気持ちと一緒に週1200円の成果給を送りあえる仕組みだが、そこにはなんと上層部のチェックはない。まさに現場が現場のために報酬をやり取りできる画期的なシステムだ。なにより、普段なかなか日の当たらない地味な貢献にもどんどん成果給が分配され、職場はみるみる活性化。3年9か月もエンジニアの退職ゼロという驚異的な定着率で、その効能が実証されている。
UZUZの社内通貨も、上層部を経由せず、“資金調達”できるシステムだ。Fringe81の制度よりその使用目的は能動的で、社内コミュニケーションの活性化に加え、新規事業立ち上げなど、社員のやる気アップにも連動。運営コストは月間30万円程度ながら、コスト以上のリターンを産み出している。
その他の受賞企業もヒエラルキーや組織の枠を超えた横のつながりが、現場を中心とするアクションとして発生。まさに上層部を介さない、職場発のグッドなアクションが、上からの押しつけや形だけの制度に勝る施策として機能し、結果、社員の主体性醸成につながり、企業の発展に貢献する価値を生み出している。
職場至上主義をスムーズに取り入れるポイントとは
職場至上主義こそが、これからの働き方のスタンダード。そう言いたくなるような結果だが、どんな会社でも実現可能かといえば、決して簡単でないのが実状だろう。その点について、同イベントの主催で審査委員も務める転職情報サイト・リクナビNEXT編集長の藤井薫氏が次のように助言する。
「確かに、いずれも簡単にできる事例ではないかもしれません。しかし、まず小さなことから初め、試行錯誤しながら実績を積み重ねていくことは可能だと思います。まず現場から一歩を踏み出すことが重要です」。その上で「企業の側もそうしたアクションとしっかり向き合い、社員を会社でなく、仕事に向き合えるよう考えをシフトしていかないと、これからの人口減少時代に自分の首を絞めることになりかねないでしょう」と企業に対し、現場至上主義へのシフトを提言した。
企業と社員の関係性は、着実に対等へ向かっている。人口減少時代の必然といえばそうなのかもしれない。だが、それ以上に社員が個々の能力を最大限に発揮して初めて、企業もその目的を最大化できる――。そうした当たり前の事実に、ようやく企業も気付き始めたというのが実状だろう。利益の追求は最低限必要だとしても、その源泉となる職場最適化に妥協しては、もはや生き残れない。働き方改革の本丸はまさにそこにある。
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