【新しい働き方はどのように生まれた?・海外編】第20回:オーストラリアの消えゆく産業、伸びる産業 (2018/1/29 nomad journal)
グローバル化、IT化、はたまたAI化と、ここオーストラリアにも経済的および技術的な変化の波が押し寄せて来ています。そしてこれまであった産業のいくつかは消えていこうとしています。
製造部門の衰退にも負けない経済成長
2017年はオーストラリアにとって一つのマイルストーンとなる年でした。それはそれまでオーストラリアの製造業を支えていた3つの大手自動車会社が2017年11月までにそれぞれの製造部門を閉鎖したからです。自動車産業は裾野が広いと言われているように関連する企業が多く、この3社の大手企業の製造部門閉鎖によって、関連企業も閉鎖もしくは経営方向の転換を迫られたわけです。
ところが、2017年12月にオーストラリアのターンブル首相が発表した内容では、同年11月には61,600人が新たに仕事を見つけているというのです。この内フルタイムの仕事を見つけた人は41,900人で、残りの19,700人がパートタイムです(ただし、こうした人達が自動車産業で仕事を失った人なのかどうかは不明です)。
しかもオーストラリアのGDPはこの26年間マイナスになったことがなく、自動車産業が閉鎖に追い込まれた後も引き続き成長していることが報じられています。
一見矛盾するような出来事が起こっているわけですが、では、製造業の衰退にも関わらずオーストラリアが経済的に成長を続けられているのはなぜなのでしょうか。
オーストラリアの産業の変化
オーストラリアはもともと農業や鉱業により発展してきた国です。農業の中でも盛んなのは家畜業で、今でも牛肉の主要輸出国になっています。また、鉱業では金の採掘に始まり、石炭、鉄鉱石など鉱山資源に恵まれたオーストラリアでは鉱業は主要産業として発展してきました。
1800年代になると世界的な工業の発達に伴い、オーストラリアにも様々な工場が建てられるようになり、また1950年代からはアメリカや日本などの海外の製造業者が進出し工場を建て操業を開始したため、オーストラリアの産業は第1次産業から第2次産業へと大きく変化しました。
ところが1980年代から本格化したグローバル化に伴い、製造業が徐々に衰退していきました。一番大きな原因は、オーストラリア労働者が受け取る賃金が中国や東南アジアなどの新興国の労働者の賃金と比べてずっと高いことでした。
実際オーストラリアには1980年代には自動車製造業者が5社あったのですが、そのうち1社は1992年、そして次の1社が2008年に製造部門を閉鎖し、残りの3社が2016年と2017年に閉鎖したと言うわけです。
消えゆく産業、伸びる産業
では、オーストラリアで製造業が減った分、他のどんな分野が成長してきているのでしょうか。
少し前のデータですが、2016年にクィーンズランド大学の経済研究所のデビッド・アダムソン博士が「Predicting future jobs is amug’s game(将来の仕事を予想するのは無駄な骨折り)」という記事を発表しました。この記事の中で博士は「無駄な骨折り」と言ってはいますが、ある意味茶化した言い方をしているのあって、実際にはデータに基づいて将来の仕事を予測しているのです。
まず、出されたデータを見てみましょう。このデータは労働人口の増減を10年前、5年前、3年前、1年前で比べたものです。この内、変化の違いが良く分かるように、10年前と1年前の増減を表にまとめてみました。
データから読み取れることは?
この表では次の3つのことが明白になっています。
- 10年前に伸びていた鉱業が1年前には大きく減少しています。つまり10年前は中国を初めとする諸外国からの鉄鉱石などの需要によりその資源ブームがあったのですが、1年前にはそのブームが勢いを失ってきていることがわかります。
- 福利厚生においては10年前も1年前も需要が多いことがわかります。アダムソン博士はこれは高齢化に伴う需要であると分析しています。
- 製造業は10年前からすでに減少していましたが、1年前にはさらに大幅に減少し衰退していることがわかります。
この中で、2.の福利厚生分野に関し、博士は、ここで必要とされているのは単なる高齢者のケアだけでなく、どうすれば、健康な状態で長生きできるか、そのためには今後は人工臓器の研究開発などの仕事も増えていくだろうと予測しています。
第3次産業の時代が始まった
2017年に3つの大手自動車会社の製造部門が閉鎖になるというニュースが発表されたのは実際の閉鎖から3年前でしたが、それから閉鎖までの3年間、様々な角度から閉鎖に関連した諸事情が報道がされました。ところが、社会全体として悲壮感があまり漂わないというのが実感でした。
いったいオーストラリア人はどこまで楽天的なのかと思ったほどですが、今回、クィーンズランド大学が発表した上述の記事を読んで、政府や業界の関係者は、すでに第2次産業の時代が終わり、サービス業を中心とする第3次産業の新しい時代が始まっていたことを察知し、スムーズに移行できるように動いていたのだろうと強く感じさせられました。
そしてこうした準備のおかげで、オーストラリアの経済は、製造部門の閉鎖があっても、低成長ながら安定した状態を保っているのではないでしょうか。
記事制作/setsukotruong
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