【CTOインタビュー】日本のヤフーがグローバルで勝負できるように、ここで頑張り続けたい――ヤフー株式会社・藤門千明さん (2017/12/15 nomad journal)
日本最大級のインターネットサービスとして100以上のサービスを運営し、膨大なユーザーデータを保有するヤフー。藤門千明さんはエンジニアとして新卒入社し、現在はCTOとして、巨大なエンジニアリング組織を束ねています。エンジニアに求められる力やキャリア支援、先進的な働き方など、「ヤフーの今とこれから」をじっくりうかがいました。
藤門千明さん
ヤフー株式会社 上級執行役員 CTO。筑波大学大学院を卒業後、2005年にヤフーへ新卒入社。エンジニアとして「Yahoo! JAPAN ID」や「Yahoo!ショッピング」、「ヤフオク!」の決済システム構築などに関わる。決済金融部門のテクニカルディレクターやYahoo! JAPANを支えるプラットフォームの責任者を経て、CTOに就任。
何千万人もの相手にリーチしてフィードバックをもらえる面白さ
まずは、現在のヤフーのエンジニアリング体制について教えてください。
藤門 千明さん(以下、藤門):ヤフーではエンジニアとデザイナーをあわせて「クリエイター」と呼んでいます。現在のところクリエイター職にあたる人は約3000名で、全社員の半分近く。安定したサービス運営のため、データセンターの建屋を作るところから自分たちで責任を持ってやってきました。
アメリカのYahoo!とは別会社であって、向こうと日本ではユーザーが違うし、技術的にも別システムで運用されています。日本のヤフーには自前主義でやってきた歴史があり、クリエイターは非常に重要な役割を担っています。
藤門さんはCTOとしてどのような管掌範囲を担っているのでしょうか?
藤門:ヤフーはカンパニー制を敷いており、10のカンパニーと統括本部に分かれています。それぞれに技術責任者がいて、私はそのラインを束ねるライン長の役割が1つ。そしてヤフーの強みや弱みを整理し、今後の技術戦略をどう描くか、どのようにリソースを割いていくかといった技術部門トップの仕事を任されています。
2005年の入社以来、一貫してヤフーで技術キャリアを積んできたとうかがいました。
藤門:はい。私は新卒でヤフーに入社し、オンライン決済サービス「Yahoo!ウォレット」のバックエンドエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。4年目からは「SWAT」(スワット)という、いわば何でもやる部隊に所属して、さまざまなプロダクトで発生する問題の火消し役のようなことをやっていました。そこに所属していた3年間で、社内の強み・弱みを広く深く理解できたように思います。
その後はID部門や決済金融部門の技術責任者、全社のプラットフォームの技術責任者などを務めました。ヤフーが展開するほとんどのサービスに関わってきました。
ずっとヤフー一筋でやってきたのはどうしてですか?
藤門:「自分の手がけた仕事でたくさんの人に影響を与えたい」という思いが強いんですよね。何千万人もの相手にリーチして、「いいね」「よくないね」というフィードバックをもらえる。それがエキサイティングなので、ずっとやってきたという感じです。
日本では一定の地位を築いていますが、GoogleやAmazonなどの素晴らしいグローバル企業から見れば我々も挑戦者です。しかしヤフーは、広告も検索もECもフィンテックも持っている。その裏側で多岐にわたるビッグデータを持っているので、AIなど、新たな領域にもいろいろなチャンスがある会社です。それも大きな魅力ですね。
ヤフーは人財輩出企業としても知られています。多くのヤフー出身者が他社のCTOとして活躍していますね。
藤門:CTOとしては、もちろん優秀な人に残ってほしいとは思うのですが……。ヤフーだけが成長しても、日本のインターネット産業は発展しません。だから卒業生が頑張っているのは率直にうれしいですし、負けたくないという気持ちも持っています。
大規模な既存事業から新規事業まで
ヤフーが求める人財のことについてもお聞かせください。藤門さんはCTOとして、どんな若手が面白いと思いますか?
藤門:我々はウェブサービスの世界ではベンチャーではなく老舗の会社だと思っています。今のヤフーが持っている組織や資金をきっちり生かして「こんな風にサービスを進化させられるんじゃないか」と提案できるエンジニアが成長しやすい。個人的には、そんな人財が集まることを期待しています。
既存の成熟したサービスにメスを入れられるような人財、ということでしょうか。
藤門:大規模な事業は、少し改善するだけでもサービス全体に大きな好影響を与えることができます。単純に機能を改善したり、デザインを改善したり、マーケティングを改善したりするだけではない。人がやってきたことをAIなどでドラスティックに変えていくことにも挑戦できます。
例えばヤフーのトップページにしても、ディープラーニングを用いて「見る人に応じて出現するニュースが違う」といった仕掛けを施しているんです。こうした仕事を経験できるのは、ヤフーならではだと思います。
Q.大規模な事業に関わる一方で、新規事業に挑戦する機会もあるのですか?
藤門:あります。一例としてはソフトバンクとともに「SBドライブ株式会社」を立ち上げ、自動車の自動運転技術による新たなモビリティサービスの開発を進めています。
スマートフォン向けリッチ広告などを扱う「リッチラボ株式会社」も新規事業の一環です。広告を面白く見せるための研究・開発を続けていますが、ここは社長も社員も、みんなエンジニアやデザイナーで構成されています。
広告やメディアの事業が成熟しつつある中で、新たな柱を作っていくことはヤフーにとっても大きなテーマとなっています。新規事業への野望を持つ人もどんどんジョインしているので、まもなく新しいヤフーを見せられると思っています。
バリューに基づいた評価と、技術力向上のための大胆な支援
クリエイター組織が拡大していく中、評価やコミュニケーションのあり方ではどのような工夫を行っていますか?
藤門:評価制度としてはMBO(目標管理制度)をずっと運用しています。大きな変化としては、2012年の経営執行体制の刷新に伴って導入した「バリュー」、いわゆる行動規範に基づいた評価基準があります。
バリューは「チーム」と「個」「実行」という柱で、社員がどのような価値を大切にして行動すべきかを示したものです。チームでは「All Yahoo! JAPAN」、個では「個のチカラ」、実行では「発見・提案・改善」「圧倒的当事者意識」「やりぬく」といった形で、5つのヤフーバリューを掲げています。
バリューに基づいた評価は、どのような方法で進めているのでしょうか?
藤門:360度評価を行い、バリューに則った行動を取れる人がマネジメントの立場で活躍できるようにしました。人間的にきちんとしている人が人をマネジメントする、ということですね。
バリューは全体マネジメントにも良い影響を与えていて、意思決定にかける人数や時間は以前と比べて大幅に削減されました。達成したいゴールを見据えて、逆算して物事を考えるようになった。この変化は大きかったと思います。
エンジニアだけの評価基準もあるのでしょうか?
藤門:それはありません。エンジニアだからといって、ビジネスの指標を追わないのはおかしいというのが基本的な考えです。もちろんテクニカルな部分で、スキルや知識をユーザーのためになるプロダクト開発に生かしてくれた場合は評価しています。
一方では、スキルベースの成長をよりこまかく支援していくことも大切だと思っています。
スキル支援に向けた取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか?
藤門:2017年10月に、クリエイターの活動を支援するための新たな制度として「My Polaris」(マイポラリス)を導入しました。技術力向上を目的とした書籍やアプリ、PCデバイスなどの購入、さらにセミナーや勉強会参加、英語学習などを応援するために、クリエイター1人あたり月額1万円までの費用を補助しています。
他にもアーキテクチャー設計の技術伝承やサービス横断のレビューを行う開発合宿プログラムを実施しています。また、ヤフーが戦略的に採用しているOSSに対して開発者を認定し、対象OSSの開発時間を業務時間に認定したり、関連する活動について年間100万円までの予算を付与したりといった試みを始めました。
かなり太っ腹で大胆な支援を行っているのですね。
藤門:そうですね。東京だけでなく大阪や福岡でも採用を始め、多くのエンジニアにヤフーでチャレンジしてほしいと思っています。こうした制度をきっかけにして向上心のある方に集まってほしいと考えています。
「100人に1人」の割合で認定される「黒帯」
ヤフーでは、優秀なエンジニアを認定する「黒帯制度」を実施しています。藤門さんも黒帯に認定されていますが、これはどのような背景で始まった取り組みなのでしょうか?
藤門:エンジニアの評価は、そもそも難しいところがあります。技術のスキルが高くても、事業のコンディションによっては、常に高いパフォーマンスを発揮できるとは限らない。この前提を踏まえて、エンジニアのスキルをきちんと評価・認定できる制度を作ろうと前CTOが発案し、形となりました。
現在黒帯認定されているのは全体で20人前後。エンジニアの中では、100人に1人くらいしか認定されないという狭き門です。しかも認定期間は1年間だけ。連続して認定されることもありますが、その場合はさらに基準が厳しくなります。
認定基準について、もう少し詳しくお聞きしたいです。
社内での実績と社外での実績、両方を見ます。「社外のモノサシで見たときにどうか」、つまり、その人が社外の第一線でも本当に活躍できる人なのかどうかという観点は大切にしていますね。
認定に際しては各事業の技術責任者による喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が行われ、私も最終的なジャッジに関わります。じっくり時間をかけて決定しています。
黒帯に認定されると、エンジニアにはどのような特典があるのですか?
藤門:認定者は国内外のカンファレンスで登壇するようなレベルのエンジニアです。そのため、軍資金として会社から海外に行く費用を出したり、本を出版する際の費用を出したりしています。また、年に1回「黒帯認定式」を開催し認定者を賞賛しています。社内での盛り上がりも大きいですね。
黒帯認定者には社内の研修プログラムを監修してもらうなど、技術の伝播についても力を発揮してもらっています。
エンジニアだからこそ「働き方を自分で選ぶ」ようにしたい
育児・介護を抱える社員に対し「週休3日制」を導入するなど、ヤフーは先進的な働き方においても注目されています。
藤門:働き方においては、フレキシビリティをどんどん高めていきたいと考えています。「どこでもオフィス」というテレワーク制度を運用していますが、エンジニアも含め社員に対して「月に5日は、いつでも連絡がつく環境なら働く場所は問わない」と言っています。
仕事上、遠隔のコミュニケーションでデメリットが出てしまうことは事実としてあると思います。とは言え、子育てや介護により時間を割けるようにしたり、地方で働けるようにしたりといった将来像を考えたときに、働き方のバリエーションを増やしていくことは避けては通れません。
特にエンジニアの場合は、「働き方を自分で選ぶ」ことが大事だと思うんです。社長の宮坂も「エンジニアがそうした動きを率先垂範していけたらいいね」と話していました。
藤門さん個人としては、世の中全体のリモートワーク推進の流れをどうとらえていますか?
藤門:私は究極的には、個人のパフォーマンスさえ落ちなければ何でもいいと思っています。
ヤフーにおいては、各自の生産性を高めつつ、遠隔でも無理のない体制で業務を進めるためのツールも今以上に整備していくつもりです。場所を問わずに働ける環境があり、パフォーマンスを発揮していけばきっちり評価されるという状況なら、みんな安心して働き方を選べるはず。労働時間で評価する傾向がまだまだ世の中には残っていると思いますが、先陣を切って変えていけるのはエンジニアだと思うので、力を入れていきたいですね。
最後に、藤門さんの今後の展望を教えてください。
藤門:ヤフーは100を超えるサービスを動かし、膨大なデータを保有しています。これだけのサービスとデータを持つ企業は、日本には他にないと考えています。海外でも戦える可能性もまだまだ秘めています。日本のヤフーとして、まずグローバルで勝負するステージにたどり着くため、引き続き頑張っていきます。
小さな子を持つ親としては、社会課題の解決にも取り組んでいきたいですね。大学は頑張れば入れるのに、保育園は地域によってはどう頑張っても入れないって、おかしいと思うんですよ。そんな状況を改善するような事業をヤフーでやれたら、という夢も持っています。
取材・記事作成:多田 慎介
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