副業と法律:第10回 副業と雇用保険との関係  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   副業と法律:第10回 副業と雇用保険との関係

副業と法律:第10回 副業と雇用保険との関係 (2017/10/30 nomad journal

関連ワード : 働き方改革 労働・雇用 

知り合いの社会保険労務士さんの事務所を訪問したときの話です。ひとりの女性が険しい顔つきで、社会保険労務士さんの話を聞いていました。

「でも先生、雇用保険って失業したときのためのものではないんですか? 私は雇用保険に入っていたし、会社を辞めたのに失業手当がもらえないなんて・・・たしかにアルバイトはしていますけど会社でもらっていた給料の半分にもなりません。それでもダメなんですか?」

女性が相談していたのは失業給付に関する内容でした。どうやら会社を辞めたのに失業給付がもらえない事態に陥っているようです。アルバイトしていることが影響していると思われます。いったいどういうことなのでしょうか。

仕事する女性

1.副業先では加入できない? 労災保険とは異なる雇用保険の加入基準

常勤の正社員は原則として雇用保険への加入が義務付けられています。一方、派遣社員やパートタイマーなどの非正規雇用労働者は、以下の基準を満たした場合のみ加入することになります。

(1)1週間の所定労働時間が20時間以上ある。
(2)31日以上継続して雇用される見込みがある。
(3)勤務先が雇用保険の適用事業所である。

ところが、雇用保険は複数の会社で加入することはできません。たとえば、A社とB社で働き、どちらも(1)~(3)の基準を満たしていたとしても、双方の会社で雇用保険に加入することはできないのです。

複数の会社で働く場合、労災保険はそれぞれの会社で加入することになっています。業務上の災害に遭った場合、その業務と関連した会社の労災保険を適用する関係上、就業先のすべての会社で加入しておかなければならないからです。

これに対し雇用保険は、原則として本業先においてのみ加入することになります。本業先以外で副業している場合、雇用保険は本業先で加入することになります。給付額の算定にあたっては副業先の収入は合算されません。副業先の賃金や労働条件が本業先に影響を与えるということもありません。

2.失業しても失業じゃない? 給付を受けるにあたり気を付けるべきこと

自己都合による退職で雇用保険から失業給付を受けるには、退職時、過去2年間の間に12カ月以上の雇用保険加入実績を必要とします。会社都合の退職の場合は、過去1年間の間に6ヶ月以上の加入期間が必要です。

では、上記の条件を満たしていれば、本業先を退職後、副業を継続している場合でも失業給付を受け取ることはできるのでしょうか。

失業給付は文字通り失業して収入がなくなった場合に支給されるものです。本業先を辞めても副業を続けているなら収入はあります。ということは、失業給付は支給されない、となりそうです。

しかし、実際には以下のルールに従い副業の状況も加味して失業給付が支給されます。

副業先で1日4時間以上働いたらその日の分は支給されない。
4時間未満でも賃金の額によって給付は減らされる。
4時間以上働くと就労とみなされ、その日の失業給付はありません。4時間未満であれば失業給付が支給されますが、賃金が高いと失業給付が減額されます。

このように副業を続けていても、失業給付を受け取ることができる場合があります。ただし、副業先で雇用保険に加入すると失業給付を受け取ることはできなくなります。

3.退職理由は自己都合か会社都合か? 辞め方で変わる給付の実態

失業給付を受けるにあたり、もうひとつ注意しなければならないことがあります。それは失業給付には7日間の待機期間があるということです。待機期間とは、失業給付の申請者が本当に働いていないかどうかを確認するための期間です。待機期間に働いていることがわかれば、失業給付を受け取ることはできません。

つまり、待機期間は完全失業状態でなければなりません。この期間に就労実態が確認されると、また最初から7日間の待機期間を繰り返すことになります。本業先を退職しても副業先での就労を続けていれば、完全失業状態とはいえないので失業給付を受け取ることができないというわけです。

さらに、待機期間経過後すぐに失業給付が支給されるかといえば、そうではありません。自己都合退職か会社都合退職かで失業給付の開始時期は異なります。自己都合で退職した場合には3カ月の給付制限があり、失業保険を受け取るには待機期間経過後、さらに3カ月間の期間を置いての支給となります。これに対し会社都合や自己都合でもやむを得ない理由での退職では、7日間の待機期間を超える給付制限はありません。

自己都合退職した場合、3カ月の給付制限期間中に副業で収入を得ることは認められています。ただし、雇用保険の加入資格を取得できるような就労をすると失業給付は受けられなくなります。

4.まとめ

社会保険労務士さんに相談していた女性は、本業先を辞めた後、副業先の労働時間を週20時間以上に増やしていたとのことでした。これまで働いてきた人が、働きたいけど働けない状況にあることが失業給付の受給条件です。この女性の場合、雇用保険の加入資格があるような就労をしていることから、もはや働きたいけど働けない状況にあるとはいえないのです。

もし副業していたことを申告せずに後でわかってしまったら、そのときは受け取った失業給付を返還するだけでなく、さらに2倍のペナルティーを支払うことになります。

本業先を辞めて失業給付を受けようとする際には、ハローワークに副業の状況を正直に申告し、適切な対応をしてもらうようにしましょう。くれぐれも違法な失業給付の受給とならないよう注意してください。

記事制作/白井龍

提供:nomad journal

関連記事
副業と法律:第1回 収入アップと副業禁止規定の間で苦悩する会社員
副業と法律:第9回 労働者災害補償保険法との関係
8割超が「実感していない」と回答した働き方改革の問題点
育児休業期間が延長!?~平成29年法改正~
エンタメ業界と労災保険
関連ワード : 働き方改革 労働・雇用