JPホールディングス創業者が株主提案、役員の任期と解任要件について (2017/11/14 企業法務ナビ)
はじめに
日経新聞電子版は9日、JPホールディングスが22日に開催予定の臨時株主総会で、元代表取締役で創業者の山口洋氏が株主提案として取締役の任期短縮と解任要件を緩和を議題に上げている旨報じました。これらの案に対し元取締役会は反対の意向をしめしております。今回は役員の任期と選任・解任について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、JPホールディングスは元代表取締役で創業者の山口氏からの臨時株主総会の招集請求により、今月22日に臨時株主総会を開催する予定となっております。その際に同氏から提案されている議題はまず取締役の任期を「選任後2年以内」から「選任後1年以内」に短縮すること、そして定款28条に定められている取締役の解任についての規定の廃止および現取締役の1名の解任についてです。これに対し取締役会は解任要件と解任については反対しており、任期の短縮についても来年の定時株主総会終結時に効力が生じる旨の経過措置を追加するべきとの議案を出しております。
役員等の任期について
(1)取締役
会社法322条1項によりますと、取締役の任期は「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とされております。これは2年間という期間を定めているわけではなく、厳密には選任時から2年以内で終わる年度の株主総会までということです。たとえば事業年度が3月31日までとなっていて、4月1日に選任された場合は2年後の4月1日までに終了する最後の年度の総会終了時までとなります。この場合任期は実質的に2年と3ヶ月程度となります。逆に3月30日に選任された場合は2年後の3月30日より前に終わる事業年度を基準としますので1年後の事業年度に関する総会までとなり、実質任期は1年と3ヶ月程度となります。この2年という任期は短縮することができ(同但書)、非公開会社の場合は逆に10年を限度として伸長することができます(同2項)。なお監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の場合は1年に限定されます(同3項、6項)。
(2)監査役
監査役の場合は「選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」となっております(336条1項)。非公開会社の場合は取締役と同様に10年まで伸長することができますが(同2項)、短縮することはできません。非公開会社は株主の変動が少なく、頻繁に株主の信任を問う必要性が低いため伸長を認めています。一方短縮については監査役の地位と独立性の確保の趣旨から短縮は認められておりません。
(3)会計監査人
会計監査人の場合は「選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」となっております(338条1項)。会計監査人については任期を短縮することも、伸長することも認められておらず例外なく1年となります。しかし会計監査人については再任みなし規定があり、定時株主総会で別段の決議、たとえば会計監査人◯◯を解任するといった決議がなければ自動的に再任されることになります(同2項)。
役員等の選任・解任
取締役や監査役、会計監査人等の役員の選任と解任は株主総会の決議によって行ないます(329条1項)。そして決議の要件として議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、その議決権の過半数の賛成で可決となります(341条)。この定足数については定款で定めることによって3分の1まで下げることができます。また可決要件については定款で加重することはできますが、過半数よりも下げることはできません。なお、この決議要件については例外があり、監査役と累積投票によって選任された取締役の解任については特別決議(3分の2以上の賛成)を要します(343条4項、309条2項7号)。
コメント
本件でJPホールディングスの定款を見ますと、取締役の任期は「選任後2年以内」となっております。また28条では取締役の解任について定足数は3分の1、可決数については出席議決権の3分の2以上と定められております。これに対し山口氏は株主提案で任期を「選任後1年以内」に短縮し、28条の解任要件を廃止することを提案しております。役員の信任を1年毎に株主総会で諮り、解任もしやすくし、より経営に株主の意向を反映しやすくしようとする趣旨であると考えられます。
このように役員の任期や選任・解任については会社法はある程度会社ごとに柔軟に定められるよう規定しております。任期を短くすれば、株主の意向を反映しやすくなる反面、手続やコスト面で負担が大きくなります。小規模で非公開な会社の場合は頻繁に株主の意向を確認する必要が乏しいことから任期を長く設定することもできます。なお「正当な理由」なく解任する場合、残りの任期分の報酬を賠償する必要が生じてきます(339条2項)。ここで任期を長く設定していた場合は賠償額の負担が大きくなることに注意が必要です。
会社の規模やガバナンス体制、コンプライアンス体制によって適切な任期を設定していくことが重要と言えるでしょう。