ICT活用した地域医療連携ネットで、医療者の「人と人のつながり」も拡大―日医総研 (2017/8/31 メディ・ウォッチ)
2012年度から16年度までの5年間で、地域医療連携ネットワークの4割が停止・廃止・他ネットワークとの統合をしており、継続のためには「運用費用も見込んだ長期計画の策定」や「行政・地域医師会・保険者との協力」などが重要である。またICTを活用したネットワーク構築は、「人的ネットワークの拡大」に最も大きな効果がある―。
日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が30日に公表したワーキングペーパー「ICTを利用した全国地域医療連携の概況(2016年度版)」から、こういった状況が明らかになりました。
複数都道府県対象から市町村対象まで、ネットワークの地理的範囲は多様
日医総研では2012年度から「ICTを利用した地域医療連携」の状況を、2014年度から「ICTを利用した医療・介護分野の多職種連携」の状況を継続調査しており、2016年度にはさらに「行政の計画への記載」なども含めた調査を実施しました。ここでは「ICTを利用した地域医療連携」に焦点を合わせてみましょう。
「ICTを利用した地域医療連携」(地域医療連携ネットワーク)は全国309か所で構築され、うち270か所が調査に協力しています。このうち113か所・42%では一般を対象とした公開WEBサイトがありますが、157か所・58%は関係者のみのクローズドな運営となっています。
地域ブロック別に見ると、中部ブロックで63か所の地域医療連携ネットワークが設置され、近畿43か所、関東38か所と続きます。運営主体を見ると病院が85か所・31.5%が最多となり、医師会50か所・18.5%、行政37か所・13.7%と続きます。企業が運営主体となっているネットワークも9か所・3.3%あります。また、自治体が参画していないネットワークが98か所・36.3%もある点が気になります。後述するように、自治体参画はネットワーク継続の重要な鍵であり、今からでも参画を求めるべきでしょう。
連携の地理的範囲を見ると、二次医療圏単位が65か所・24.1%と最も多く、都道府県単位63か所・23.3%、市町村単位56か所・20.7%と続き、複数都道府県にまたがるネットワークも22か所・8.1%あります。「連携の地理的範囲」と「事務局体制」との関係を見ると、複数都道府県にまたがるネットワークでは担当者数が多いものの、▽都道府県単位▽二次医療圏単位▽市町村単位―のネットワークでは担当者数に大きな違いはありません。
医療連携など目的にネットワーク構築、画像診断の迅速化などの副次的効果も
ネットワーク導入の目的を見ると、9割が「医療連携」、半数が「在宅医療連携」、3割が「救急医療対策」と答えています(複数回答)が、自由回答を見ると「病院の空床情報や当直体制に関する情報収集」「画像診断の迅速化、読影医の偏在を補う」「重複検査・投薬の回避」「高額医療機器の共同利用」といった声も聞かれます。
参加施設数は2万2412施設で、その内訳は▼病院3090か所▼医科診療所1万870か所▼歯科診療所1072か所▼薬局3074か所▼介護施設2882か所―などとなっており、1ネットワーク当たりの平均参加施設数は95.0施設となっています。病院について詳しく見てみると、83地域で246の地域医療支援病院が、40地域で48の特定機能病院が参加していることも分かりました。
また運営主体別の1ネットワーク当たり参加施設数を見ると、医師会主導のネットワークがもっとも多く128施設で、病院主導では50施設、企業主導では48施設となっています。またネットワーク運営のために一般社団法人・財団法人を設置しているケースでは、参加施設数は228と非常に多い点が注目されます。
さらに参加患者数は全国では181万2278人にのぼり、うち144万1591人(参加患者の79.5%)の患者情報を共有しています(共有患者数)。地域ブロック別に見ると人口の多い関東・近畿で参加患者数が多いのですが、近畿ブロックでは共有患者が参加患者の半数に満たない(48.8%)点が気になります。
また患者がどのようにネットワークでの情報共有などに同意しているのかを見ると、▼患者が受診する施設ごとに同意する(96か所)▼患者の同意があれば参加施設すべてで連携する(84か所)▼参加施設リストなどをもとに患者が指定する(78か所)▼患者が受診する医師ごとに同意する(45か所)―とさまざまですが、同意取得方法としては、9割弱で「同意書」を使用しており、「黙示の同意」(掲示板やホームページなどでの周知)は8.5%、「口頭」は1.4%にとどまっています。改正個人情報保護法を踏まえて、書面による同意の取得が多くなっていると伺えます。
連携している疾病の状況については、「脳血管障害」(84か所)がもっとも多く、「胃・大腸がん」(67か所)、「大腿骨頸部骨折」(62か所)と続きます(複数回答)。2016年度診療報酬改定前の地域連携パスの対象疾患などに由来するところが大きいと言えるでしょう
提供サービスについては、▼画像情報の共有(200か所)▼在宅医療連携」(138か所)▼退院時サマリ」(135か所)▼診療情報の連携」(133か所)―などが多くなっています。
また共有できる情報としては、▼患者基本情報(214か所)▼病名情報(176か所)▼画像(172か所)▼検体検査結果(160か所)―などが多く、逆に▼その他文章(32か所)▼食事オーダ(56か所)―などが少なくなっています。
なお、情報連携方式としては「クラウド型」の増加が著しく、「今後、ネットワーク構築を予定している」地域でも、クラウド型が多くなっています。
システム構築費は平均1億7000万円、運用費は年間平均1000万円
サービス利用に当たっての料金を見ると、病院については開示側では有料34%・無料66%、閲覧側では有料22%・無料78%という状況です。有料の場合の平均利用月額(病院)は2万6311円となっています。
システム構築費用については、「有料のみ」のネットワークでは平均1億7000万円、「無料を含む」ネットワークでは平均1億4000万円ですが、100万円から10億円以上と大きなバラつきがあります。参加患者数の多い一般社団法人・財団法人が運営するネットワークで、また地理的範囲が広いネットワークで、システム構築費用が高くなっています。システム構築費用の負担者は、▼参加施設(101か所)▼自治体(97か所)▼厚生労働省(91か所)―などで、国や自治体の公的資金の活用が目立ちます(複数回答)。
一方、システム運用費用(年額)は、平均で957万8000円、うち752万2000円は保守費用となっています。こちらも、一般社団法人・財団法人が運営するネットワークで、また地理的範囲が広いネットワークで、システム運用費用が高くなっています。運用費用の負担者は、▼参加施設(140か所)▼自治体(87か所)▼医療関係団体(医師会など、66か所)―などで、利用者側が多くを負担しているようです(複数回答)。この「運用費利用者」という点が、ネットワーク継続の可否を決める最重要ポイントとも言えます。この点は後述します。
なお、2016年度に新設された【検査・画像情報提供加算】(B009診療情報提供料Iの加算、退院患者情報の提供は200点、入院患者以外の患者の情報提供は30点)、【電子的診療情報評価料】(B009-2、他院からの診療情報を電子的に閲覧・受信し活用した場合に30点)の算定状況を、地域ブロック別に見ると、いずれも「中部」ブロックで多くなっています。
ICTネットワークの構築で、医療機関間の人的ネットワークが拡充
また地域医療連携ネットワークの導入によってどのような効果が出たのかを見ると、▼医療機関間の人的ネットワーク拡大(139か所)▼患者紹介の円滑化(127か所)▼従事者間の情報共有向上(125か所)▼患者サービスの向上(125か所)―をあげる声が多く、逆に「医師偏在の是正」や「職員の負担軽減」への効果は小さいようです。ICTを活用したネットワークで、人的ネットワークも拡大する点はきわめて注目に値する項目と言えるでしょう。
また地域医療連携ネットワークで蓄積された患者情報の活用については、大半の地域で「実施・予定なし」と回答していますが、▼学術研究▼地域の医療費適正化―に活用している地域もあります。厚労省が進める保健・医療・介護のビッグデータ活用にも関連し、こうした情報を医療・介護の質向上に活用することが求められます。
さらに、「今後、地域医療連携ネットワークを普及していくための施策」については、▼医療機関などへの訪問(108か所)▼医師会を通じた周知(100か所)▼説明会の開催(94か所)―などが効果的と考える声が多くなっています(複数回答)。過去の実績に照らした意見であり、説得力があります。
地域医療連携ネットワークの継続、長期契約や医師会との連携などが重要
ところで2012年度に設置されていた地域医療連携ネットワークのうち、4割は2016年度までに▼他のネットワークとの統合▼変更▼停止▼運用終了―となっています。日医総研はこの背景に(1)費用が続かない(2)行政・地域医師会の関わりが薄い(3)地域ニーズと規模がマッチしていない―などの要因があると分析。
ネットワーク継続のために、「初期費用だけでなく、運用費用も念頭に置いた長期的な計画を立てる」「補助金、税制、診療報酬などによる支援」「行政・地域医師会・保険者を交えた取り組み」「適切なシステム構築・運用会社の選定」などを行うようアドバイスしています。
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