NHK受信料訴訟、東横インに全部屋分の支払い命令 理不尽ではないか? (2017/4/1 JIJICO)
NHK受信料訴訟 ホテル全客室分の支払い命令
NHKが全国にビジネスホテルを展開している大手チェーンホテルに対し未払受信料約20億円の支払を求めた裁判で、平成29年3月29日、東京地裁はほぼこれを認める判決を出した模様です。ホテルの客室にテレビが設置してあるだけでNHK受信料の支払義務が生じるものなのか、このあたりを解説してみます。
テレビを設置しているだけでNHK受信料の支払義務は生じるのか
放送法64条1項は、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。…」と定めており、契約をしなかった場合はどうなるのかについて、法律上の明示的な規定は見当たりません。
同条3項が、「協会は、第1項の契約の条項については、あらかじめ、総務大臣の認可を受けなければならない。…」と定めており、この3項による総務大臣の認可を受けたものが日本放送協会放送受信規約なのですが、この規約4条1項が、「放送受信契約は、受信機の設置の日に成立するものとする。」と定めているため、テレビを設置した段階で自動的に受信契約が成立したことになるようにも思われます。
しかしながら、放送法64条3項で総務大臣の認可を受けなければならないと定めているのは、「契約の条項」ですから、当事者間に成立した契約の内容についてであって、契約の成立時期そのものについては総務大臣の認可の対象外であり、「放送受信契約は、受信機の設置の日に成立するものとする。」との規約は、NHKの一方的な定めに過ぎないともいい得るところです。
高裁レベルでは判断が分かれている状況
この点、受信機があるのに受信契約を拒否し、受信料の支払いを拒否していた者に対し、NHKがその支払いを求めて提訴した民事訴訟において、東京高裁の平成25年10月判決では、契約を拒否しても、NHKによる受信契約の申込みがなされてから2週間が経過したときに受信契約が成立するとの判断がされたのに対し、東京高裁の別の裁判体による同年12月判決では、NHKによる受信契約の申込みがなされて相当期間が経過すれば自動的に契約が成立するものではなく、契約である以上は、当然に申込みの相手方が承諾しなければ契約は成立しないとの前提で、契約は受信者に対する契約の承諾を命ずる判決が確定した段階で成立すると判断するなど、高裁レベルでは判断が分かれてしまっている状況であり、現在、最高裁判所の大法廷による最終判断待ちの状態です。
テレビを設置しただけでNHKと受信契約を締結することなく、また、実際にもNHK放送を視聴することがないにもかかわらず受信料の支払をしなければいけないというようなことは、国民の立場からすると理不尽にも思えますので、最高裁判所には、国民が納得できる判断をして頂きたいものです。
- 著者プロフィール
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田沢 剛/弁護士
東京大学法学部卒業、同年司法試験に合格。2年間の司法修習を経て、裁判官に。名古屋、広島、横浜などの裁判所で8年間裁判官を務め、退官。裁判官として、一般民事、行政、知的財産権、刑事、少年、強制執行、倒産処理などの事件を担当。2002年に相模原市で弁護士事務所を開業。2005年に新横浜にオフィスを移転し、新横浜アーバン・クリエイト法律事務所を開設。現在に至る。オールラウンドに案件を扱うが、なかでも破産管財人として倒産処理にあたるなど、経営問題に辣腕を振るう。
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