テロ等準備罪法案国会提出 準備で処罰や冤罪懸念など問題は山積み (2017/3/24 JIJICO)
共謀罪新設法案を与党が国会に提出
平成29年3月21日に共謀罪新設法案が閣議決定されたのを受けて、与党では今国会中の成立を目指すことが確認されたとの報道がなされました。
この共謀罪新設法案は、組織的犯罪処罰法に「テロ等準備罪」を創設するもので、(1)組織的犯罪集団の活動として、(2)組織により行われる重大な犯罪の遂行を2名以上で計画した場合にあって、(3)計画に係る犯罪の実行のための資金又は物品の取得等の準備行為が行われたときに処罰するものとされています。
この法案について指摘されている主な問題点について解説してみます。
共謀罪新設法案は基本的人権の尊重を蔑にする恐れがある
まず、刑罰は、それ自体が重大な人権侵害となるため、刑罰権の行使が必要最小限度でなければならないこと(抑制的であること)は、基本的人権の尊重という憲法原理から当然に導かれるものです。
現行刑法が法益を侵害した行為(「既遂」)を処罰することを原則にし、「未遂」やその前段階の「予備」、さらにその前段階の「陰謀」を例外的に処罰しているのはその顕れです。
「予備」、ましてや「陰謀」が処罰されるのは重大な犯罪に限定されており、そうであるにもかかわらず、テロ等準備罪として処罰の対象とされる犯罪が非常に広範囲に及んでいるため、現行刑法の基本原則と相容れず、基本的人権の尊重という憲法原理を蔑にしてしまいかねないという問題があります。
準備で処罰や冤罪の懸念など問題は山積み
次に、処罰の対象とされる「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」といった犯罪の構成要件が明確ではないため、結局は、「犯罪を共同して実行する意思」を処罰することに繋がるといった問題があります。これでは、外部から伺い知れない人間の内心を処罰することとなり、憲法で保障された思想・良心の自由を侵害しかねず、これを表現する自由さえも脅かされることになります。
しかも、「テロ等準備罪」などと呼称したところで、市民運動や労働組合活動等に対して適用されないなどとは法文上は読み取れず、捜査当局の恣意的な判断のもとに運用されると、戦前の治安維持法を彷彿させるような監視社会を招きかねないと批判されています。
そのほか、テロ対策とはいっても、どうしてこれまでの法律で対処できないのか、どうして広範な共謀罪の新設が必要なのか、どうして法定刑で一律に多数の共謀罪を新設する必要があるのかなどについて、国民が納得できるような説明がなされていないといった問題も指摘されているところです。
近代市民革命、二度の世界大戦といった歴史を経て、国家権力による人権侵害を可能な限り排除しなければならないと確信して創り上げられた立憲民主主義社会においては、共謀罪新設法案は、時代に逆行するものとの誹りを免れないのではないでしょうか。
- 著者プロフィール
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田沢 剛/弁護士
東京大学法学部卒業、同年司法試験に合格。2年間の司法修習を経て、裁判官に。名古屋、広島、横浜などの裁判所で8年間裁判官を務め、退官。裁判官として、一般民事、行政、知的財産権、刑事、少年、強制執行、倒産処理などの事件を担当。2002年に相模原市で弁護士事務所を開業。2005年に新横浜にオフィスを移転し、新横浜アーバン・クリエイト法律事務所を開設。現在に至る。オールラウンドに案件を扱うが、なかでも破産管財人として倒産処理にあたるなど、経営問題に辣腕を振るう。
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