逮捕歴の検索結果、削除認めず 最高裁厳格基準  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   逮捕歴の検索結果、削除認めず 最高裁厳格基準

逮捕歴の検索結果、削除認めず 最高裁厳格基準 (2017/3/5 JIJICO

関連ワード : ICT 法律 

逮捕歴の検索結果、削除認めず 最高裁判決

1月31日に最高裁判所は、検索結果に表示される自己の逮捕歴を削除することを求めた裁判で、削除を認めない判断を下しました。下級審のさいたま地裁では、逮捕歴について「忘れられる権利」があるとして削除を認める決定を出しておりましたが、東京高裁では一転、削除を認めない旨の決定を判断が下されており、最高裁の判断が注目されていました。

訴訟

忘れられる権利とは

「忘れられる権利」とは、広く解釈すれば「ネット上の個人情報、プライバシー侵害情報、誹謗中傷を削除してもらう権利」のことを指します。より具体的には、インターネット上にある個人情報を検索結果から削除してもらうように検索事業者に要請する場合に用いられます。上記最高裁の事例でも、申し立てたのは5年以上も前に児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕された男性でした。

この男性からすれば、名前と住所を検索条件に入れて検索すれば、この逮捕時の情報が検索結果に出てくるというのは名誉権などを侵害されると考えたのでしょう。こういう気持ちは十分理解できることであると思います。

最高裁判断の根拠

これに対し、最高裁は、「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益」については、法的な保護の対象となると一定の理解を示しました。一方で検索事業者側がどういう検索条件でどういう検索結果を示すかについては表現行為という側面があり、また検索結果の提供が、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤としての役割が重要であるとしました。そのうえで、どういった検索結果を削除できるかについては、「公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」には、削除が認められると判断しました。

どういった要素を検討材料にするかについては、(1)当該事実の性質及び内容、(2)当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、(3)その者の社会的地位や影響力、(4)記事等の目的や意義、(5)記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、(6)記事等において当該事実を記載する必要性を挙げています。

結果としては、逮捕歴という内容が社会的強い非難の対象となる公共の利害に関するものであり、検索結果が男性の居住する県名と氏名を入力した際の一部に限られていることから、削除は認めないという判断となりました。地裁で認められた「忘れられる権利」については言及しませんでした。

最高裁も、いついかなる時も削除を認めないという判断を下したわけではなく、分かりにくいですが一定の考慮要素を明記したことは意義があると思います。ただ、何気に重要なのは、単に削除して欲しい側の利益と検索事業者側の利益を比較して前者が大きい場合には削除を認めたのではなく、「公表されない法的利益が優越することが『明らかな場合』」に限って削除を認めた点だと思います。

どの程度明らかなら削除が認められるのかについてはよく分かりません。逮捕歴に関しても、事件の内容によってはどうなるのか、時間の経過が5年ではなく10年ならどうなのか、こういった点も今後の判断に影響が出るのかもしれません。

提供:JIJICO

著者プロフィール
河野 晃/弁護士

河野 晃/弁護士
水田法律事務所
学習院大学法科大学院法務研究科を卒業後、平成22年、弁護士登録・水田法律事務所に入職。刑事事件、遺言・相続、離婚、債務整理、交通事故などを中心に法律関係全般を取り扱う。

関連記事
最高裁がグーグル検索結果削除を棄却、「忘れられる権利」とは
香川県が著作権者に無断で地図情報を使用
【海外】不名誉な検索結果は消せる 欧州でグーグル敗訴…「驚きの判決」と海外紙報じる
「忘れられる権利」にみるリスクマネジメント
日本初、グーグルに検索結果削除命令 EU「忘れられる権利」判決も影響
関連ワード : ICT 法律