米国経済にダイナミズム生む移民、1人が1.2人の雇用を創出 企業がトランプの移民政策に反対の理由 ニュースフィア 2017年2月15日
日本でも古くからコアなファンを獲得し、ポータブルオーディオやスマートフォンで支持層を拡大してきたアップル、世界の中でも店舗数が多いと言われる日本で、深夜に近い時間帯でも利用者が絶えないスターバックスコーヒー。どちらもアメリカを代表するグローバル企業だ。アップルのティム・クックCEOは、「スティーブ・ジョブズはシリア移民の子息でありiPhoneメーカーは移民なくしては存在しえなかった」と従業員に改めて訴えた。スターバックスのハワード・シュルツCEOは、難民1万人を向こう5年かけて世界で採用する計画を発表した。この2社以外にも、米国生まれの世界的な企業の数々が、トランプ大統領の移民政策について明確な不支持を表明した。その背景に見えてくる日本のビジネスの課題も考えてみたい。
◆反対を表明する主要企業
フォーチュン誌は、トランプ大統領の移民政策について反意を示した主な企業をまとめた。同誌のインタビューやレポートで語ったものが主だが、社員へのメッセージや通達、SNSを経由しての表明も多い。
名前の上がっている企業:
21世紀フォックス、コカ・コーラ、アマゾン、グーグル、バンク・オブ・アメリカ・コーポレーション、プロクター・アンド・ギャンブル、アップル、フォード、JPモルガン、マイクロソフト、IBM、ウェルズ・ファーゴ、シティグループ、シスコ、フェデックス、メルク、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、アメリカンエクスプレス、ナイキ、ゼネラルモーターズ、ゼネラル・エレクトリック、ヒューレットパッカード
どの企業も、人種差別への非難や移民の労働力への感謝のレベルにとどまらず、研究開発や価値の創出になくてはならない存在と訴えているように読み取れる。声明文というかたちで強く訴えたナイキの「the power of diversity(多様性の力)」がそれを代表しているだろう。
◆ビジネスリーダーの顔ぶれ
Partnership for a New American Economy(実業家であり政治家でもあるマイケル・ブルームバーグとメディア実業家のルパート・マードックにより創設された、ビジネスのリーダーや地方行政の代表者などによる団体)が2011年に発表した“New American” Fortune 500によると、フォーチュン誌の全米上位500社のなかで、移住者とその子供により創設された企業は200社(4割)にのぼる。CEO以外の経営陣も含めた場合、例えば1995年から2005年に設立されたハイテク企業の75%に、海外生まれのCTOやVP of Engineeringがメンバーにいるという(フォーブス誌)。もし、過去から移住者を排除していたら、はたして米国は現在の経済規模と成長率を得ることができたのだろうか。
◆新しいビジネスを生む移民・移住者たち
シンクタンクのMPIでは、アメリカ合衆国・国土安全保障省のデータなどから、2014年の移民者数は4,240万人で米人口の13.3%を占め、子供も含めると8,100万人、同26%に達するとレポートしている。また、バージニア大学とインディアナ大学の共同研究によると、1,000人の移民者は地域に1,200人分の雇用を生み出し、アメリカ生まれの労働者がその恩恵を大いに受けているという。移民による経済効果は米国内の地域経済についても大きいと見るべきだろう。
これらのことから、トランプ大統領の移民政策に対する異議がビジネス界に多いのも納得できる。現在のビジネスは輸出先や直接投資先としてのみ国境を超えるのではなく、その国や地域の文化や習俗をも取り入れた新しいビジネススタイルに進化することが大切なのかもしれない。
日本人の感覚では、移民・移住者というと「外国人労働者=低賃金」という図式を頭に浮かべてしまう。むしろ世界では、海外の才能や発想、そのニーズをうまく吸収できるビジネスが成功している。製品をある国に売るのなら、その国の人に開発してもらうのが間違いないのかもしれない。あるいは各国の技術者を集めれば、世界に受け入れられやすいテクノロジーや製品が生まれるのではないか。日本の社会やビジネスの弱点とも言え、もっと世界の”人々”に開かれた存在であることが望ましい。
今では当たり前になったコンピューターのアイコンだが、その昔、パソコンはコマンドを入力して動かしていた。アイコンは文字の読めない人にもコンピューターの操作を可能にした。現在の世界レベルの普及にも大いに貢献しただろう。人間の多様性を尊重するということには、そういうモノづくりもあるのではないだろうか。