安倍首相の真珠湾慰霊、海外メディアはその狙いと成果をどう見たのか? ニュースフィア 2016年12月28日
日本時間の28日、安倍首相がハワイの真珠湾を訪問し、1941年12月7日に日本の攻撃を受け、1177名の兵士を乗せたまま沈没した戦艦アリゾナの上に立つ「アリゾナ記念館」で、オバマ大統領とともに犠牲者を慰霊した。その後の演説で、首相は戦後敵対関係から同盟関係に転じ、日本の平和と繁栄のために手を差し伸べてくれたアメリカに感謝の意を表し、日米の絆を強調した。オバマ政権下での最後の大仕事ともいえる首相の真珠湾訪問の成果を、海外メディアはどう報じたのか。
(首相官邸ホームページより)
◆機は熟したが、実は「歴史的」ではなかった……
首相の真珠湾訪問を日本政府が発表したのは数週間前で、「戦後、現職首相による訪問としては初めて」と大きく報じられた。しかし実際には、1951年に吉田茂氏、1956年には鳩山一郎氏、1957年には岸信介氏が訪問していることが判明し、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)、ブルームバーグ、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)などの大手メディアが、「初」ではなかったと報じている。
それでも「いまだかつてない」訪問とするため、日本政府は、米大統領とともに真珠湾の慰霊施設を訪れる初の現職首相だと言い回しを変えた、とNYTはやや皮肉を込めた説明をしている。ただ、戦後間もない50年代においては日米双方の国民感情を考えると、日本の首相の真珠湾訪問を大きく報じられる状況にはなかっただろうという専門家のコメントも紹介している。
中国のグローバル・タイムズ(環球時報英語版)は、日本の第二次大戦中の行いを清算するため、安倍首相が真珠湾訪問を利用しようとするなら、それは「希望的観測」で、誠実な反省だけが和解の鍵だ、という中国外交部のコメントを掲載している。また、安倍首相の興味はアメリカとの和解だけだと述べ、アジアの国々も同等に見るべきだ、という批判の声も取り上げている。
◆象徴的真珠湾訪問。オバマ広島訪問とセット
多くのメディアは、今回の訪問をオバマ大統領の広島訪問への返礼と見ているようだ。ブルームバーグは、安倍首相から真珠湾攻撃についての謝罪はなかったと述べ、やはり謝罪抜きだったオバマ大統領の広島訪問に合わせた、和解のジェスチャーとしての訪問であったと説明する。
FTも、オバマ大統領の歴史的広島訪問の半年後ということもあり、安倍首相の真珠湾訪問は非常に象徴的なものだと評する。さらに、両国の親密さを示すための日米が行なった大げさな宣伝であったとも述べている。
◆狙いは同盟強化で中国牽制?
首相の真珠湾訪問の成果として、欧米メディアは日米同盟の強さを確認し、結果として中国への牽制となったことを上げる。ブルームバーグは、領土問題などでより強引さを見せる中国が台頭するなか、安倍首相は唯一の軍事同盟国であるアメリカとのつながりを政権発足以来強化しようと努めてきたと述べる。オバマ大統領からは、真珠湾訪問後のスピーチで「日米同盟はこれまでにないほど強固だ」という言葉も引き出せており、首相は期待した成果を手に入れたと言えそうだ。
カナダのグローブ・アンド・メール紙も、米議会での演説や真珠湾訪問などは、安倍首相の平和的なジェスチャーと解釈することもできるが、実は首相はもともと自民党の右派出身だけに、軍事力で威圧してくる中国に対して、アメリカを後ろ盾にした日本にはまだまだかなわないという警告の意図もあったのではないかと指摘している。
◆頼れる日本をトランプ氏にアピール?
安倍首相の真珠湾訪問は、次期トランプ政権を意識したものだという意見もある。グローブ・アンド・メール紙は、首相の真珠湾訪問は日米同盟にタダ乗りしていると日本を批判するドナルド・トランプ氏に、アメリカの真の友は誰かを念押しする意味もあると述べている。
トランプ氏は長らく日本には懐疑的で、日米同盟の格下げを示唆したりTPP脱退を主張したりしているが、FTは、同氏は中国に強硬な態度を示しており、フィリピン、韓国などの同盟国が問題を抱え不安定な今、日本を重要な仲間と見る可能性もある、としている。
米超党派組織、「外交問題評議会」の日本研究シニアフェローのシーラ・スミス氏は、トランプ氏は選挙戦後、日本批判をトーンダウンさせていると指摘。もし米中関係を揺さぶる気であれば、アジアにおいてかなり強い同盟関係が必要であり、トランプ氏の外交チームもそのことは分かっているはずだと述べる。日米関係が盤石であれば、安倍首相は新大統領およびその外交チームとアジアの将来について「真剣な話」ができる良い位置にいる、とスミス氏は見ている(FT)。
画像出典:外務省ホームページ