リオ五輪報道と人工知能 (2016/8/26 JIJICO)
リオ五輪の報道でも人工知能を活用
リオデジャネイロで行われた夏季五輪大会が閉幕しました。五輪期間中は様々な報道で競技の状況や結果を確認した方も多かったでしょう。
その中で、米大手メディアの「ワシントン・ポスト(WP誌)」が五輪記事の作成に人工知能(AI)を導入しました。自社開発したAIソフト「Heliograf」を用いて、試合結果やスケジュール、メダル獲得数などを伝える短い原稿を作成し、Twitter(@WPOlympicsbot)やブログを通じてリアルタイムで配信していました。
AIと人間で役割分担
WP誌がAIを導入した理由について、記者を試合結果の速報書きなどの単純作業から解放し、専門性を活かした深掘りの記事作成に時間を割けるようにするため、と説明しています。
記者は会場の様子や選手への取材を踏まえた、解説や分析を含む記事を発信することで、AIと人間が役割を分担しました。今回のリオ五輪での試みはAIによる報道の可能性を知らしめる良い機会だったと考えられます。今後、11月に行われる大統領選挙でもAIによる報道を活用することが期待されています。
「ロボットジャーナリズム」の現状
米国ではビッグデータ解析やAIを活用し、人的な労力をかけずに記事を作成する「ロボットジャーナリズム」が徐々に広がってきています。従来、企業業績の発表、災害や事件等、スピードが求められる速報記事では、記者がテンプレートに事実や数字をはめ込んで配信していました。しかし近年は、提供されるデータやネット上の投稿・ニュースなどをAIが収集、整理して作成した記事を配信する例が増えています。
例えば、LAタイムズ紙はロサンゼルス周辺で発生する地震情報をクエイクボット(Quakebot)と呼ばれるソフトウェアで配信しています。米地質調査所(USGS)から提供されるデータを分析して自動的に記事を生成し、震動が発生してから3分でウェブサイトに掲載しています。また、AP通信は米プロ野球マイナーリーグやカレッジスポーツについて、MLBやNCAAから提供されたデータに基づき、米オートメイティッド・インサイツ(Automated Insights)社のAIソフト「Wordsmith」で自動作成した様々な記事を配信しています。これにより、従来は報道機関がカバーできなかった試合の記事が提供されることになりました。
AIによって記者は必要なくなるのか?
こうしたAI活用のニュースが報じられるたびに、「AIが人間の仕事を奪う」という議論が発生します。今後、報道記者がAIに取って代わられることはあり得るのでしょうか。
数値などの客観的な情報を使用した定型的な記事の迅速な作成や配信はAIにシフトすることが想定されます。また、AIが読者一人一人の好みに応じたパーソナライズされたニュースを大量に自動生成して配信する「多品種少量生産」のニュース配信サービスが実現するかもしれません。一方で、報道記者はAIが収集することが難しい場の雰囲気や人間の感情に由来する事象を取材し、その内容を分析したり、見解を述べたりといった、データだけでは語られない部分を記事としてまとめ、配信することが求められるでしょう。その意味でAIと報道記者の棲み分けが進み、共存することは可能です。
ただし、生き残るのは取材能力や分析力、表現力などのスキルが高い報道記者に限られるでしょう。これはAIに脅かされる可能性のある業種全般に言えることであり、単純作業やコピー&ペースト作業を行う労働者は淘汰されるでしょう。
また、今後「ロボットジャーナリズム」が主流となる世界で、従来の各種メディアや報道機関が報道の世界を担っていくのか、それとも、自動運転におけるグーグルの様にIT企業が新たなプレーヤーとして参入するのか、注目したいポイントです。
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