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日本は昔から『地方の時代』だった (2016/8/12 nezas)

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 最近はよく「地方の時代」という言葉が使われます。皮肉な見方をすれば「地方の時代」になっていないからそういうフレーズがやたら目につくのかもしれません。そういう文脈でいえば「女性の時代」も同じことです。

 しかしながら日本という国は実は江戸時代から「地方が主役の時代」でしたし、「女性が活躍する社会」だったのです。江戸時代に日本の就学率や識字率が世界の中でも群を抜いて高かったことはよく知られています。幕末期においては江戸の就学率は70~80%で、庶民の子供でも寺子屋に行ってない子はあまりいなかったということです。同時代の英国は世界の超大国だったわけですが、主要都市でも就学率は20~25%だと言います。

 また識字率で言えば、江戸期の日本では武士階級の識字率はほぼ100%、町人階級でも50%ぐらいはあったそうです。同じく同時代の英国では庶民階級の場合、ロンドンですら字の読める子供は10%程度だったといわれています。

江戸の町

日本はなぜ、地方に文化が根ざし、教養人が残るのか

 さらにすごいのは地方の力です。ヨーロッパでは都市の一極集中がすさまじく、地方は単に食料生産のための広大な地域としての機能しかありません。およそ文化といえるものはイギリスでいえばロンドン、フランスでいえばパリといった大都会に集中し、地方にはほとんどなかったと言ってもいいでしょう。ところが日本では地方に文化もあり教養人も多くいたのです。これは武士階級と藩校の存在が大きかったのだろうと思います。江戸期において武士は戦う機会はほとんどなく、高い教養と精神性を持った文化人としての存在になっていました。

 明治維新という大きな革命が果てしない地獄のような内戦に発展せず、列強に侵略されることのなかった原因の多くは、この高い精神性を持った人材が江戸に限らず全国に綺羅星のごとく存在していたということにあるのではないかと思います。もちろん思想の違いから勤王派、佐幕派、尊王攘夷などの争いはあったものの最後は天皇の下に国体を統一して明治維新を成し遂げたのはやはり地方の文化性の高さに由来するものでしょう。

 また、経済の面で考えても明らかに江戸期は「地方の時代」だったのです。幕藩体制というのは、幕府と地方大名の軍事面での主従関係に他ならず、経済面では言わば独立国家に近い存在が各地の藩でした。特に石高が3万石以上の大名であれば、城を持つことができましたから、城下町という形の一定の機能を持った都市を管轄することができたのです。この管轄権は非常に広範囲な自治権であり、現代の都道府県が持っている行政権だけではなく、立法権、司法権、それに徴税権すらも併せ持つ非常に大きな権力だったと言えます。

日本はいま大きなパラダイム時代をむかえている?

 結果として各藩における町や港は物流を中心として栄え、感覚的には今の地方都市とは比較にならないぐらいの賑わいがあったものと想像されます。さらに江戸期には参勤交代があったため、江戸と国元の両方に屋敷があり、家臣もそれぞれ一定数居ました。且つその道中の宿場や街道筋も栄えるということで国全体の経済が江戸と地方という二極を結ぶ構造の中で大いに活性化していたのです。

 ところが明治期に入ると、遅れてきた資本主義国として中央集権的な国家運営にせざるを得ませんでした。さらに経済が成熟する前に太平洋戦争の敗戦を迎えてしまったため、戦後もこうした体制を続けざるを得なかったというのが歴史の流れです。

 しかしながら現在は大きなパラダイム変化が起きつつある時代です。ITCやフィンテックという新しい技術やインフラが従来の体制を大きく変えるかもしれない時期に来ているからです。グローバル化はまた同時にローカルビジネスが注目され得る時代でもあります。地方の持つユニークな商品やサービス、人的資本がエリアを越え、国境も越えて大きく広がる可能性を秘めています。

 「地方の時代」などという言葉がことさら話題にならなくなった時こそが真に豊かで成長性にあふれた新しい日本経済の時代に入っていくでしょう。そしてその時にはITCに代表される新しいビークルが現代の「北前船」として時空を超え、ローカルなビジネスがグローバルに活躍をする時代になっているに違いありません。

 

大江英樹 経済コラムニスト
大手証券会社で定年まで勤めた後に独立。シニアライフプラン、行動経済学、確定拠出年金、資産運用等をテーマとして執筆や講演活動を行なっている。著書に「経済とお金の超基本1年生」等がある。

提供:nezas

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