創業者の乱? 出光興産の創業家合併に「反対」表明 (2016/7/29 JIJICO)
出光興産の創業家が会社の合併に反対し波紋が広がる
「出光興産創業者、昭和シェルとの合併に反対の見込み」そんな報道がありました。対立の内容は異なるものの、セブンアンドアイホールディングス、クックパッド等創業者と経営陣とが対立するといった報道が続き、「創業者の乱」という言葉も出てきました。
出光興産の場合は、どのような「創業者の乱」なのでしょうか。
会社法では、会社の方向性を決定する大きな判断について、株主総会の決議が必要と定められています。「会社の合併」は特に重要な決定となるため、出席株主の議決権の過半数ではなく、3分の2の賛成が必要な特別決議事項となっています。今回の場合、合併に反対とみられる創業者の持ち株比率は33.92%で3分の1超を持つため、いわば「拒否権」がある状態です。創業家の持ち株数がぎりぎり3分の1となっている背景には、「どうしても受入れ難い判断が行われるような場合は、拒否権を行使できる株式を持っておこう」という意図があったのでしょう。
ちなみに、6月に実施された出光興産の株主総会では、現社長の月岡隆社長の再任にかかる賛成票は52.3%。過半数での可決となる普通決議のためかろうじて可決されましたが、創業者以外の結構な割合の株主が合併を進める経営陣に反対という立場を示したものといえるでしょう。
上場会社であっても創業者の意見で経営が左右される是非
出光興産は上場会社なのに、なぜ創業家の意見で会社の判断が左右されるのかと不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。上場会社でも創業者が大株主として残ることはめずらしいことではありません。むしろ、会社にとっては、短期的な業績の良し悪しですぐに株式を手放してしまう短期志向の投資家とは異なり、長い目で見守ってくれる応援団として心強い存在でもあります。また。創業家にとっては子供のような大切な会社をおろそかにするような経営はできないわけで、一定の緊張感をもって経営することができるといえます。
出光興産の場合、上場後は取締役に創業者一族はいません。所有と経営が一致しているオーナー企業の段階から卒業していて、現経営陣は株主から経営を任されている状態です。このような場合、株主が経営陣の判断に対して反対の意見表明をするには株主総会で反対決議をするか、株式を売却するかどちらかしかありません(反対OR Exit)。そして、今回は昭和シェルとの合併という現経営陣の判断が「会社のためにならない」と判断したため、株主総会で反対するという正当な株主の権利を行使するといった行動に出たまでにすぎません。
出光経営陣は創業家に対し合併について十分な説明をしたのか?
企業文化の違い、サウジとイランの国交断絶等で対立が激化する中サウジアラビア系列と組むリスク、小説「海賊とよばれた男」で描かれたような石油メジャーへの反骨精神等、今回の反対表明の背景についていろいろ報道されています。
ただ、創業家はそのようなことは統合の話が出たときから百も承知のはずです。それが今のタイミングで反対を表明したのは、想定される様々なリスクに対して、合併後の会社がどのような形で対応していくのか、十分に説明されることがなかったのではないでしょうか。
石油業界は需要低迷等から業界再編の必要性が求められており、出光の現経営陣は、様々なリスクは懸念を考慮した上で、「昭和シェルとの合併が生き残る最善の策」と判断したのでしょう。そうであれば、現経営陣は合併が会社のためということを創業家と同じぐらいの「会社に対する熱量」をもって説得していくしかないでしょう。それができないようであれば、困難と言われる対等合併を成功に導くことも到底できません。
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