トルコが大粛清…世界秩序の崩壊を憂う西側メディア “困難な時代が近づいてきている” ニュースフィア 2016年7月25日
15日にトルコで起きた軍事クーデターは失敗に終わり、エルドアン大統領は関係者だけでなく、政権にとってじゃまな人物の大規模粛清を進めている。1924年にオスマン帝国から世俗主義の近代的な共和国に移行し、イスラム世界で最も民主的とされたトルコは、エルドアンという新「スルタン」に支配される独裁国家に変貌するのではと、欧米メディアが報じている。
◆首謀者はイスラム穏健派思想家?
イスタンブール在住のジャーナリスト、クレア・バーリンスキー氏によれば、15日のクーデターでは300人が死亡、1400人が負傷した。1960年以来、5度目のクーデターとなったが、首謀者ははっきりしていない。しかし、エルドアン大統領を含め多くの人々が、イスラム教イデオロギー信奉者、フェトフッラー・ギュレン師が関与したと見ている(シティ・ジャーナル)。
ギュレン師は、穏健なイスラム主義の思想を持ち、教育を始めトルコ国内のあらゆる分野に影響力を持っている。現在は健康上の理由で米国在住だ。2002年の政権樹立時には、世俗主義を排除しイスラム色を打ち出すことを目指したエルドアン氏は、イスラムの価値観を共有するギュレン師と、その支持者である「ギュレニスト」とは良好な関係にあった。ところがギュレニストの活動は「平行政府」、「国家内国家」と言われるほど力を持ち、徐々に与党AKPとの権力闘争の様相を見せ始める。2013年には、エルドアン氏がギュレニストの活動の財政基盤である予備校を廃止すると宣告したことがきっかけで、軋轢が生じていた(BBC)。
イスラム世界に詳しいジャーナリストのパトリック・コックバーン氏は、クーデターはエルドアン氏の自作自演という噂もあるが、関わっていた人が多すぎるためその可能性はなく、近々粛清されると読んでいたギュレニスト達が、先制攻撃としてクーデターを起こしたのはないかと推測する(米カウンター・パンチ誌)。
同氏は、失敗の理由として、首謀者がエルドアン氏を殺害できなかったこと、軍上層部の大多数を巻き込むことが出来なかったこと、民衆の支持もなく、コミュニケーションやメディアのコントロールができず、クーデターに抗議する大衆を抑えるだけの十分な兵士を確保できなかったことを上げており、エルドアン氏が携帯電話やメディアを使って、自身の支持者や右翼のナショナリストにクーデター妨害を呼びかけて成功したのとは対照的だと述べる。また、世俗的なトルコ人は、政治に宗教色が強まることを心配しているが、世論調査では回答者の82%が軍に権力を握らせることに反対しており、結局国民は民主的に選ばれたエルドアン氏についたと、コックバーン氏は見ている(米カウンター・パンチ誌)。
◆民主主義はどこへ?独裁国家に近づく
しかし、国民が命を賭けてまで守った民主主義を、エルドアン氏が破壊しようとしているとエコノミスト誌は述べる。同氏は非常事態宣言を出し、6000人の兵士を逮捕し、数千人の警官、検事、裁判官を解雇、停職にしている。加えて、学者や教員、公務員などのクーデターに無関係の人々までが同じ目にあっているという。世俗主義者やクルド人などのマイノリティも、エルドアン氏信奉者の目を恐れている。粛清は少なくとも6万人に及んでおり、国家の安全を維持するためとしても、行き過ぎだと同誌は批判している。
コックバーン氏もエルドアン氏がクーデターの失敗を利用して、自分に逆らうものを排除しようとしていると述べ、司法、軍、官僚制度を含むすべての権力をコントロールする、強力な大統領制という夢に近づきつつあるとしている(カウンター・パンチ誌)。
◆国際秩序の大崩壊間近?困難な時代が到来
エコノミスト誌は、今回の騒動は、欧州にとって1989年以後の秩序への3番目のショックかもしれないと述べる。2014年のロシアのクリミア併合により、欧州の国境が確定し冷戦は終わったという考えは破壊され、イギリスのEU離脱が国民投票で支持されたことで、欧州の統合は不可避だという考えも粉々になった。そして次に来たトルコのクーデター失敗とそれに対する反応は、(一時はトルコも参加する運命のように思われた)西側諸国において民主主義が逆行しうるという厄介な問題を引き起こしたとする。
USAトゥデイ紙に寄稿したテネシー大学の法学教授、グレン・ハーラン・レイノルズ氏も、今回の事件が世界で起こっている政情不安の一つであると述べ、「いまや我々は、歴史書のなかの一番重要な章のすぐ手前まで来ているようだ」という友人の言葉を紹介している。そして、困難な時代が近づいてきている今、アメリカとその仲間である民主主義国にとって、賢明で知識があり、結果に責任を持てるリーダーを置くことが、重要になるだろうと述べている。