「脱中国」図るミャンマーで高まる日本の存在感 ビジネス拡大で日本語学習者も増加中 ニュースフィア 2016年7月21日
民主化を果たし経済発展著しいミャンマーで、日本が存在感を増している。日本とビジネスチャンスの獲得を競う欧米のメディアの関心も高く、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は10日付で、現地での日本企業のビジネス拡大を、日本・ミャンマー双方の「中国依存からの脱却」という視点で伝えている。また、日本語教室の隆盛やラーメンチェーン「一風堂」の進出が決まったというニュースも入っており、市民生活レベルでも「日本ブーム」に近い状況になりつつあるようだ。
◆「脱中国」で両国の思惑が合致
長年続いた軍事政権が終焉した2011年以降、急速な経済発展を遂げているミャンマーでは、アメリカと旧宗主国のイギリスをはじめとする欧米勢、中国、韓国などの企業が豊富なビジネスチャンスを巡ってしのぎを削っている。その中でも日本の存在感が際立ってきており、在住日本企業で作る日本商工会の加盟社は軍事政権末期の53社から、今年5月には310社まで増えている。新生ミャンマーの経済の礎となる最大都市ヤンゴンの株式市場も、日本の大和証券が主導して新設した。こうした状況を、FTは「新政府へ移行した5年間でミャンマーの日本企業は6倍になり、日本語教室がブームになり、同国の産業と社会的なプロジェクトに日本は巨額な投資を行っている」と書く。
同紙は、日本がミャンマーに傾注するのは「東南アジアにおける中国に対する最も強力なカウンターバランスになるため」で、ベトナムなどの東南アジア諸国との関係強化を目指す動きの一環だと見ている。一方のミャンマー新政府も、社会主義時代から関係が深く、その後の軍事政権も支援してきた中国との関係を見直そうとしているようだ。近年は、中国主導のダム建設を中止するなど、中国依存からの脱却を目指す動きが目立ってきている。こうして「中国」を軸に、両国の思惑が合致しているのが日本躍進の背景にあるというのが、FTの見方だ。
日本政府もミャンマーへの援助に積極的で、融資額は2014年には前年の2倍近い983億円に膨らんだ。交通インフラ整備や都市計画策定に対し、1000億円規模のODAも実施される見通しだ。現在も、日本の援助のもと、英植民地時代に建設されたヤンゴンの下水道の再整備、気象観測レーダーの建設などが進んでいる。民間ベースでは、三菱、丸紅、住友といった大手総合商社が、ヤンゴン南東のティラワ港で工業団地の開発を行っており、既に多くの施設が完成している。
◆親日的な市民感情と日本語ブーム
ミャンマーの最大の貿易相手国が中国なのは今も変わらないが、欧米諸国や韓国も参入してきている中で日本が健闘している背景には、歴史的な関係の深さや比較的親日的な市民感情もあるようだ。結果論ではあるものの、第2次大戦時の日本の進駐がイギリスの植民地支配を終わらせたことに始まり、戦後も欧米諸国が実施した経済制裁を一度も行わなかったなど、両国は比較的良好な関係を築いてきたと言えよう。
筆者は旧ビルマ時代のミャンマーで生まれ、その後軍事政権下の1990年代に何度か訪問しているが、ミャンマー人との交流による肌感覚では、同じ外国人でも「傲慢な白人」「嘘つきの中国人・インド人」に対し、日本人には一般的にそうしたネガティブな市民感情はなかったように思う。そして、現在も日本人への信頼は変わらず比較的厚いようだ。60年代後半から現地に駐在している日本人ビジネスマンは、「よく比較される韓国人は、手持ちの資金なしでミャンマーに来て博打的にビジネスを持ちかけるので、未払いなどのトラブルが多いと見られている。滞在中のアパートの家賃の未払いも多発しており、安くてもいいから日本人にしか貸さないという大家も多い」と、市民感情を代弁する。
ただし、戦中派の日本語を話す古い世代の親日派のミャンマー人はほとんどいなくなり、若い世代には植民地時代の公用語だった英語が復権しているとも聞く。その一方で、今、新たな「日本語ブーム」が起きているという。FTによれば、日本語を教える学校や教室は5年前の44から200に増加。将来日本企業で働きたいという若者が増えているためで、東京のコンビニエンスストアに不法就労しているというあるミャンマー人学生は、「中国語ではなく日本語を学ぶことにしたのは、日本企業の仕事の方が質がずっと良いから」だとFTに語っている。
◆ミャンマーでも歴史認識問題の萌芽か
日本でも、ミャンマーへの関心は徐々に高まっているようだ。ビジネスマンを中心にミャンマー語を学ぶ日本人が急増しているといい、昨年東大の社会人講座に設けられたミャンマー語コースは7割以上クラスを拡充した(FT)。また、首都ネピドーに先日、日本と現地の合弁企業が冷凍野菜・果物工場をオープン。日本向けにオクラ、アスパラガス、インゲンなどの野菜、マンゴー、ライチといった果物を輸出する。日本から持ち込んだ野菜の種の試験栽培も計画されており、ミャンマーが日本の新たな食品調達先として存在感を増すきっかけになりそうだ。この工場では契約農家からの直接買い付け方式を取っており、現地の農家の収入増も期待されている。
こうして順調にミャンマーで存在感を増す日本だが、不安要素もある。FTは、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)は、日本は前軍事政権にも接近していたという認識を持っており、「それにより、日本の立ち位置がダメージを受ける可能性もある」という識者の見方を紹介する。また、日本の開発計画の中には、周辺住民への説明が不十分なものもあるという批判もあるようだ。筆者個人も、中国や韓国のロビー活動の影響で「戦時中の日本軍の残虐行為」を批判するミャンマーの若い世代が増えているという話を耳にする。FTはこれに関連して、スー・チー女史の父、アウン・サン将軍は、英国からの独立を目指して当時の日本と友好関係を結んだが、「日本の進駐軍は残虐行為を行い、東京の政府はビルマの独立を許さなかった」という歴史認識を強調している。日本は、現在進行形の友好関係醸成のみならず、日中・日韓関係を損ねてきた歴史認識問題をミャンマーでも繰り返さないよう、過去にも細心の注意を払うべきだろう。