自殺と睡眠~不眠と自殺企図との高い関係性~ (2016/2/16 JIJICO)
睡眠不足は健康に害があるだけではなく命に関わることにも
自殺は最近の統計では年間3万人を割り、一時期から見れば少なくなっています。
しかしながら、その総数は年間の交通事故による死者数(約4,100人:2015年)をはるかに上回っており、したがって依然として大きな問題であることには変わりがありません。そこでその対策を考える時に一つの手がかりとなるのは「睡眠」です。
睡眠が健康に大事なことは明らかでしょう。たとえば、中国で11日間寝なかった男性が死に至ったとの新聞報道があります(2012年)。また、たとえ一晩でも眠らないでいれば、脳のフィルター機能が減少して注意力が減少、音や匂いなどの知覚や時間感覚が変化するとの研究があります(ドイツ・英国の研究者による)。
したがって睡眠が自殺予防に大事なことも当たり前のようですが、しかし実は睡眠と自殺の関係については意外と分かっていないことも多いのです。
そこでここでは、これまでの研究を基にこの自殺と睡眠のことについて述べてみます。
自殺と睡眠の関係についての研究結果
まず多くの研究が、睡眠の障害がうつや自殺念慮(死にたい気持ち)及び自殺企図に関係していることを示しています。しかし一方、睡眠障害が自殺を引き起こす直接の原因かどうかについてははっきりした結果は出ていません。言い換えれば、高い相関関係があることは必ずしも因果関係があることにはなりません。このことは、例えば「風が吹けば桶屋が儲かる」のようにこじつけの因果関係の可能性があるからです。
うつ病と自殺の関係については既に認められているところですが、更にうつ病の人の中でも不眠・過眠や悪夢の睡眠障害の症状を併せ持つ人は、より高い自殺のリスクを持つことが認められています。特に不眠と自殺企図との関係が指摘されており(2013年、米国ジョージアリージェント大学)、研究者はその原因として「自分で睡眠をコントロールできないでいる」という「無力感」の影響を挙げています。
また、脳神経生理学からは、神経伝達物質の一つであるセロトニンの機能不全が睡眠障害の背景にあることが考えられています。実は睡眠に影響する要因というのは他にもいろいろあり、例えば「体内時計」の乱れもその一つです。
このように睡眠と自殺の因果関係自体はかなり複雑といえますが、ただし分かっていることは、自殺のリスクを下げるのには睡眠障害は他のリスク要因よりも改善がしやすいということです。特に、睡眠を改善することはうつ病の改善に寄与します。うつ病が自殺の大きな要因であること考えれば、睡眠の改善は結果的に自殺予防に大きく寄与することにつながります。
よい睡眠のために夜間はパソコンやスマートフォンは控えめに
近年、人の平均睡眠時間は減少傾向にあり、また必要な睡眠時間には個人差があります。したがって、誰でも一日8時間眠ることが必要とはいえませんが、これまでに述べたように、人それぞれに十分な睡眠を取ることは自殺予防などの心の健康にも重要といえます。
いい睡眠をとる方法はそれぞれ自分に合った方法をとればいいと思いますが、一つの手掛かりとして、夜パソコンやスマートフォンを使うのは睡眠の妨げになるとの近年の研究結果を紹介しておきます。これは夜間に明るい画面に向かっていることが体内時計を狂わせ、ホルモンの分泌にも影響するものと考えられます。ですからよい睡眠のためには、夜遅くのパソコンやスマートフォンの使用は避けた方がよさそうです。