物流業界の深刻な人手不足と新改正法案 (2016/2/15 企業法務ナビ)
はじめに
物流業界の人手不足と高齢化、そしてAmazonをはじめとする小口配送の激増は、もはや看過できない問題として、日本の経済界に重くのしかかって来ています。この状況を受けて、国土交通省は今月頭に「改正物流総合効率化法案」を閣議決定しました。今日は、この法案の背景と概要を解説します。
物流業界からの悲鳴
(1)人手不足と高齢化
現在、物流業界において、50歳以上の労働者の割合はトラックドライバーで約30%、内航船員では50%以上と、深刻な高齢化を迎えています。長時間の運転と重い荷運びといった肉体的負担の大きい業務内容、業者間の価格競争による賃金の低下などにより、若年層を取り込めていないことが原因とされています。そのため、ここ数年、人手不足が慢性化しており、2015年度の人材需給ギャップは2万人に及んでいる状況です。さらに、5年後には物流人口が10万人減少するとの試算が出ており、早急な対策が待たれています。
(2)小口配送の激増
Amazon社が顧客満足度の高いサービスを供給するために、配送スピードの向上、多様な消費者ニーズへの対応を配送業者に求め、それにより、同社の配送を引き受けているヤマト運輸のドライバーの負担が増大しているという話は有名ですが、ネット通販サービスの拡大により、Amazon社に限らず、荷主や消費者のニーズは年々、高度化、そして多様化しており、それに伴い、貨物の小ロット化が進んでいます。実際、2000年に800万件だった0.1トン未満の小口輸送は、10年足らずで倍増している状況です。また、トラックの積載率を高く維持することは、効率の良い物流には不可欠ですが、小口輸送の急増により、現状、トラックの積載率は50%を割り込んでいます。
今回の法案の概要
今回の法案では、国による物流総合効率化法上の「支援対象の拡大」が肝となっています。従来は、倉庫などの物流施設を持つ事業者のみが支援の対象となっていましたが、改正法案では、物流施設を持たない事業者についても、モーダルシフト(トラックから鉄道・船舶への輸送手段転換)や地域内共同配送(業種が異なる2社の通販会社が、トラックの空きスペースを活用するために、共同で荷物を運ぶこと)など、2社以上の事業者が物流の効率化に向けて連携した取り組みを行う場合には、支援事業の対象とするとしています。
また、具体的な支援の中身としては、事業のスタートアップ費用や輸送手段転換計画策定時のコンサル費用などの金銭面からのバックアップ、海上運送法・鉄道事業法などの許認可が必要となった際に、特例で関係法律の許可を受けたものとみなす措置を施すなど、中小規模の物流事業者にとって心強いものとなっています。
今回の法案が通れば、トラックの積載率や運航頻度の問題の改善が期待出来ます。
【参考】改正物流総合効率化法案を閣議決定(国交省報道発表資料)
http://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000248.html
コメント
ある意味で物流問題の端緒となったとも言えるAmazon社の高度な配送サービス。現在、Amazon社は、物流の人手不足問題を解消するべく、宅配用ドローンの実用化に本気で取り組んでいます。これは、Amazon社の貨物センターで貨物を搭載したドローンが、高度約120メートル上空を飛行した後、目的地上空に到着、庭に置かれた着陸用のターゲットに垂直着陸を行うと同時に、顧客に対してメールで宅配の完了を通知するというものです。アメリカ国内における実用化は、だいぶ現実的なものとなっているようですが、日本国内での実用化に向けては、法改正の働きかけはもちろんのこと、電線の多い日本の空への対応、広大な庭を持たない日本の住宅事情への対応等の課題が山積しています。
一方で、自動運転車がドライバー不足問題を解決すると期待されていますが、10万人の物流人口減少が危惧される5年後までに実用化されるかは、まだまだ懐疑的です。
そういった観点では、物流総合効率化法の改正は、現状打てる、数少ない現実的な解決策と言えるかもしれません。
企業法務の視点からは、この法案が可決された場合、通販に携わる企業間の業務提携(アライアンス)契約が締結される場面が増えることが予想されます。これまで取引のなかった未知の業界の企業との業務提携となりますので、普段よりもいっそう、自社と相手方の業務分担や費用負担、機密情報・個人情報の取扱いなどを慎重に取り決める必要がありそうです。その意味で、今から物流の現場で発生し得る各種業務・コストについて勉強を始めておくのも手かもしれません。