市民による課題解決「CivicTech(シビックテック)」の将来とインパクト (2019/11/15 デロイトトーマツ 加藤 俊介)
近年、テクノロジーの進展は著しく、FinTech(金融)、AgriTech(農業)など「分野×Technology」の言葉に象徴されるように、テクノロジーが様々な分野を変革させつつある。
まだ認知度は高くないと思われるが、公共分野もテクノロジーで変わることが期待されており、「GovTech(政府)」「CivicTech(住民)」なる言葉も生まれている。前者のGovTechは既に事例がいくつかあり、たとえばAIを活用した公共構造物の不具合の特定や保育所の入所者振り分けなどは業界では有名である。また、千葉県市川市ではLINEを使ってオンラインで住民票の請求を行い、決裁まで済ませるという実証実験が行われており、近い将来、私たちは証明書を発行するために、わざわざ仕事を休んで役所を訪問する必要はなくなるだろう。
後者のCivicTech、すなわち、住民による地域課題の解決はまだ未成熟ではあるものの、課題が多様化し、行政にすべての課題解決を期待できない現在、社会的なインパクトが非常に大きい領域である。行政はこれまでも市民の参加機会を確保し、市民の意見を施策に反映させようと取り組んで来たが、現在の手法では以下調査結果が示すように「参加者の年代の偏り」「参加人数の確保」が困難であるなど、課題が多く有効に機能しているとは言い難い。
これには様々な要因があるが、市民は多忙な日常の中でスケジュール的に参加できなかったり、年に数度のワークショップやアンケート調査では参加による変化が実感できなかったりと、モチベーションにつながらないことなどがある。しかし、ほかの分野でもそうであるように、テクノロジーはこの市民参加の領域でも大きな変革をもたらすことが予想される。
まず、テクノロジーにより市民と行政、あるいは議会が、オンラインでつながることは、これまでの単発の参加形式を継続的・日常的な参加へと変える。そのつながりはこれまでのように一方向ではなく、双方向となるため、様々な課題を住民が自治体に持ち込むだけでなく、解決方法を検討、さらには実施主体になることも考えられる。実際に、地域における課題をオンラインで行政に報告する事例や、公開された情報を使って生活に役立つアプリを住民が主体的に開発する例もある。
最後に、今月11月24日に東京都町田市で実施される市民参加型事業評価の事例を紹介したい。
■町田市「市民参加型事業評価」記者会見資料(PDFファイル)
「市民参加型事業評価」は、類似の取り組みとして、民主党政権で話題になった事業仕分けをイメージいただくと理解しやすいだろう。異なるのは、政治家ではなく市民が事業の評価者となり、傍聴者である同じく市民の意見を踏まえながら、事業の評価を行う点である。
町田市の取り組みで特徴的なのは、評価する事業を市内の高校生が選んでおり、評価者の多くも高校生が務めることだ。
また、前回までは評価会場を訪れた傍聴者だけがリモコンで意見を投票(参加)することができたが、今年度は評価の状況がYouTubeで生中継され、VOTE FOR社が提供する投票プラットフォームを通じて視聴者はどこからでもオンラインで意見を投票(参加)することが可能となる。参加者とオンラインでつながるということは、利便性を高めるだけではなく、継続的なつながりを持てるため、後日、評価結果のフィードバックを行えるという点でも画期的である。
今後、公共領域もテクノロジーで大きく変わっていくことになる。私たちの生活に関係の深いこの流れを、みなさんもぜひ注視していただきたい。
- 著者プロフィール
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加藤 俊介
デロイト トーマツ グループ マネジャー/地方監査会計技能者(CIPFA Japan)
有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 パブリックセクター所属。自治体のマネジメントに関わる分野を専門とし、計画・戦略策定、行政改革、行政評価をはじめシェアリングエコノミーなど新領域にも従事。住民参画への関心が強く、現状調査・分析の実施やファシリテーション、地域における新規事業の提案などを行いつつ、テクノロジーを使った新手法を開発中。公共政策学修士。自治体での勤務及び、審議会委員の経験も有する。
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