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あなたのまちの議員は多い?報酬は高い?~全国市区町村の議員定数&議員報酬ランキングを一挙公開 (2018/5/9 神奈川県横須賀市議会議員 小林伸行/慶応義塾大学総合政策学部2年 小嶺美月)

 「議員が多すぎる」「報酬が高すぎる」。地方議員の定数と報酬に対しては、よく厳しい言説が見られるが、実態はどの程度知られているだろうか。そして、きちんとした判断材料を持って議論がなされているだろうか。

 そんな問題意識から、このたび全国の市区町村の2016年度の議員定数&議員報酬を一覧表にし、見比べやすくしたので、オープンデータで提供したい。併せて、表を加工してランキングやグラフ化、データマップ化なども行い、誰にでもわかりやすく「見える化」している。地元・横須賀市でのシンポジウムに備えて制作したものだ。ぜひ活用いただきたい。

→ダウンロードはコチラ

 以下は、その概要となる。

議員定数&議員報酬ランキングTop10

 まずは、気になるランキング上位10市区町村を見てみよう。

 10位以内は全て政令市となり、日本最大都市の横浜市が、定数でも報酬でも日本一だった。

 一方、定数では横浜と同数1位の大阪市は、報酬では14位まで下がる。人口・定数ともに全国第3位の名古屋市も、報酬では8位となる。ちなみに、名古屋市はかつて、もっと低い800万円(月額報酬50万円+期末手当200万円)だった。これらは、大阪維新の会と河村たかし名古屋市長率いる減税日本の影響も大きいだろう。

全国議員定数ランキング&議員報酬ランキング

定数&報酬は、これまで人口で決まってきた

 ところで、定数と報酬は、何を基準に決められているのか?

 まちの面積か? 事務事業量か? 人口規模か?

 この観点では、やはり人口が基準だった。かつて人口に応じて法定で定数を定めてきた歴史が尾を引いているのだろう。

 散布図に落としてみたところ一目瞭然で、人口との正の相関が強い。要するに、人口が多いまちは、議員の定数・報酬も多いということだ。以下ご覧頂きたい。

 なお、政令市は数が少なく、定数も報酬も格段に多いため外れ値となり、グラフがわかりにくくなる。また、業務内容としても都道府県とほぼ同じ権限を持つため、都道府県と比べたほうがいい。そのため、政令市を除いた一般市区町村で比べている。

人口のわりに報酬が多いまち、少ないまち

 まず報酬から見ていこう。

 報酬と人口の間には強い相関が見られた(相関係数0.80。1に近いほど正の相関があり、0に近いほど関連が薄い)。

議員報酬と人口の相関

 いちばん下は福島県矢祭町だ。全国唯一の日当制(日額30,000円)なので、月額はゼロとなる。

 一方、右端は東京都世田谷区だ。一般市区町村では最大となる89万人を抱える。ただし、人口は政令市並みに多いものの、報酬はそれほどでもない。東京23区は一般市よりも仕事の幅が狭いためだろうか。

 対照的なのが、左上に位置する東京都千代田区だ。人口も約6万人で多くはなく仕事も少ないはずなのに報酬が高いのは、千代田区での生活費が高くつくからか? 千代田区議への区民の評価が高いからか? 気になるところだ。

 ちなみに、報酬と面積は相関係数0.05となり、ほぼ関係がなかった。

議員報酬と面積の相関

人口のわりに定数が多いまち、少ないまち

 次に、定数を見てみよう。

 定数と人口の相関係数は0.86と、報酬よりさらに高い。

議員定数と人口の相関

 定数最多は、50人で同数タイの5市区だ。人口の多い順に、世田谷区、練馬区、大田区、千葉県船橋市、鹿児島県鹿児島市となる。偶然だろうが、定数には50人の壁があるかのようなグラフとなった。

 一方、定数最少は、沖縄県北大東村の5人だ。577人の村だから、議員1人あたり住民115人ということになる。世田谷区の議員1人あたり住民約1.8万人とは対照的だ。なお、島しょ部を中心に議員1人あたり住民100人を切る町村が20以上ある。議員が住民一人ひとりの民意を丁寧に汲み取れるだろうと推察するが、こうした町村には議員のなり手不足に悩んでいるまちも多い。

 なお、愛知県豊田市などは合併に伴って、合併相手分の定数を増やした経緯がある。このため、人口のわりに定数が多いと思っても、その背景も含めて評価する必要があるだろう。

 ちなみに、定数と面積は相関係数0.23となり、あまり関係がなかった。「面積の大きなまちでは、地域をカバーするのが大変だから定数も多くなるのでは?」と想定したが、有意な相関は見られなかった。

議員定数と面積の相関

地域によってどんな偏りがあるのか?

 今回はさらに、ESRI社の自治体GIS利用支援プログラムにより提供を受けているソフトウェアで、データマップ化もしてみた。

 まず、報酬については、よく「議員の待遇は『西高東低』型だ」という風説があるが、実際にはあまり有意な傾向などを見出すことはできなかった。

議員報酬

 一方で、人口あたりの議員報酬を見ると、面白い見方ができることに気付いた。

 人口あたりの議員報酬は、「市民一人ひとりは、議員一人にいくら払って雇っているか?」と見ることもできる。

 この観点では、最も負担が軽いのは、意外にも報酬日本一の横浜市だ。横浜市民は、議員1人に毎月0.3円ずつ払っている。定数も多いが、議員86人全員でも月額22円だ。横浜市民にとって毎月22円ずつ払う価値が、横浜市議会にあるかどうか。そんな観点で議会を見てみるのも面白い。

 逆に、最も負担が重いのが、東京都の青ヶ島村だ。ここは人口178人の村である。青ヶ島村民は、議員1人に毎月886円ずつ払っている。定数は6名なので、議員全員だと毎月5,316円となる。実に横浜市の242倍の負担だ。青ヶ島村民は、村民1人あたり年間6万円以上も払って、議員を雇っていることになる。とはいえ、村民が納得しなければこれだけの負担を続けてこなかったはずだ。重い負担に見合うだけの仕事を青ヶ島村議会議員はしているということなのだろう。

 以上が、今回の調査の概要紹介だ。以下は、解説となる。

人口あたりの議員報酬

あなたのまちの議員は何人? 報酬はいくら?

 さて、ここまで全国の市区町村議員の定数と報酬を見てきたが、あなたは自分のまちで議員を何人雇っていて、彼らにいくら支払っているか、ご存じだったろうか?

 国会議員については、700人ぐらいいて、報酬3000万円ぐらいということを知っている人は多いだろう(定数は衆議院465人+参議院242人=707人、報酬は歳費2163万円+文書通信交通滞在費1200万円=3363万円)。しかしおそらく、地方議員については知らなかった方が多いのではないか?

 ぜひ皆さんには、自分のまちの定数と報酬を気に留めておいてほしい。

それって、多いの? 少ないの? 「タテ比較」と「ヨコ比較」

 とはいえ、それが多いのか少ないのか、と問われれば、判断材料に乏しいのが実際ではないだろうか。

 この評価にあたっては、タテとヨコの比較が便利である。つまり、時系列上での過去と現在との「タテ比較」と、他の市区町村との「ヨコ比較」だ。

 まず、タテ比較については、全ての市区町村で途中までは同じ経緯を辿っている。なぜなら、かつては地方自治法で人口に応じて定数が定められてきたという事実があるからである。そして、報酬もある程度は人口に応じて決められてきた。
※詳しくはリンク先総務省資料のP9~11を参照されたい(議会制度関連資料)

 一方、ヨコ比較については、情報はあるものの、あまりわかりやすく提示されてこなかった。そのため、多くの方の目に触れることがなかった。

 市議会議長会は市区分のみ、町村議長会は町村分のみを調査して公開していた。しかも、市議会議長会は、再利用がしにくいPDF形式での公開だった。加えて、町村議長会は月額報酬のみで期末手当は把握しておらず、市議会議長会も年額という形では提示していなかった。そこで、市区分を全てデータ化し、計算式によって期末手当も含めた年額報酬を算出し、そのうえで町村と合体させた。それが、今回オープンデータで提供している情報だ。

議員の定数&報酬は、あなたにどう関係するのか?

 ところで、自分のまちの定数と報酬がわかったとして、それにどんな意味があるのだろうか? あなたの暮らしに何か関係があるのだろうか?

 一見、関係ないように見える。実際、直接的な影響は、ほぼない。

 たとえば、横須賀市役所の連結の年間予算は約3000億円だが、うち議員41人分の報酬総額は約4億5千万円で、0.15%に過ぎない。つまり、よく「議員が多すぎるし、報酬も高すぎる。財政健全化のために定数と報酬を減らせ!」という声があるが、議員報酬を0円にしたところで大勢に影響はないのだ。

 しかし、直接的には影響ないが、間接的には影響大アリだ。

 ありていに言えば、無能な議員たちが選ばれると損するのはあなただからだ。

 改めて言うが、横須賀市であれば年間予算約3000億円。上場企業の年間売上高に匹敵する規模だ。この、みんなのおカネの使い途を最終決定するのは、実は議員だ。意外と知られていないが、知事や市長などの首長も、議会が決めた範囲の中の裁量しか与えられていない。つまり、あなたの住んでいるまちの経営の最終責任者は、議会だ。だから、議会にどんな人を送り込むかは、決定的に重要なのだ。

 彼らに、いくら位の報酬を与えれば、優秀な人が手を挙げてくれるのか? 自分たちのまちには、どの位のレベルの議員が必要なのか? それが何人位いれば、偏ることのないバランスの取れた経営判断ができるのか? ……こういう本質的な論点を、他市との比較もしながら検討する議論を、寡聞にして知らない。どれだけの人が、こういった視点を踏まえて定数や報酬を批判しているだろうか?

 議会は、市民の意向を鏡のように反映する。「政治に興味ないから、おまかせ」と思って選挙で選べば、市民の声など気にも留めない議会ができあがるし、「議員なんて、いてもいなくても同じ」と思って選挙で選べば、あってもなくても同じ議会ができあがる。

 定数と報酬をどんどん下げた後で、それでも、あなたのまちで優秀な議員たちが選ばれる自信があるならば、どうぞ「民主主義のコスパ」を上げていただけたらいいのではないかと思う。

著者プロフィール
横須賀市議会議員 小林伸行

小林伸行(こばやし のぶゆき)
神奈川県横須賀市議会議員

2011年4月より横須賀市議会議員。地域情報誌と環境コンサルティングに携わるが、地域の疲弊と日本の将来を憂い、政治を志す。政策秘書試験合格後、国会議員公設秘書として修行し、マニフェスト大賞でも5年連続で受賞するなど政策派として活躍。
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小嶺美月(こみね みづき)

小嶺美月(こみね みづき)
慶応義塾大学総合政策学部2年

1997年福岡県生まれ。横須賀市議会議員小林のぶゆき事務所で研究員を務めながら、慶応SFCキャンパスで学び、データアナリストを目指して修行中。

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