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AI議員奮闘記!数学とPythonがもたらす政治イノベーションの可能性 (2018/2/8 新宿区議会議員 伊藤陽平)

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 民間ではAIへの注目が集まる中、特に遅れてしまっているのが行政や議会です。このアナログな業界に一石を投じるべく、私はAI議員になることを決意しました。今回は、私がAI議員としてAIを活用して行ってきた活動をお伝えできればと思い、政治山に寄稿させていただきました。

あまりに非効率な議会にフラストレーションを感じる

 議会の仕事は、極めて非効率です。議員の主な仕事である本会議の質問は、ほとんどが事前に用意した原稿の音読です。議案の採決も事前に結果がわかっているため、「学芸会」だと揶揄されることもあります。そして、非効率なのは公開された会議に限ったことではありません。議案説明など非公式な会議でも、職員が原稿を音読しているだけで終わってしまいますし、資料は紙で届きます。ペーパレス化が進む民間とのギャップを感じ、次第にフラストレーションが溜まっていきました。

イベント「地域IoTナイト~地域IoTから考える日本の未来~」で、「AI議員爆誕!?テクノロジーが政治を変えるとき」と題して講演する伊藤陽平 新宿区議会議員

イベント「地域IoTナイト~地域IoTから考える日本の未来~」で、「AI議員爆誕!?テクノロジーが政治を変えるとき」と題して講演する伊藤陽平 新宿区議会議員

 IBMのWatsonがクイズ番組で人間以上の正答率を出し、AIというもの、その可能性が注目を集めました。複雑な言い回しであってもコンピュータで処理できることに衝撃を受けました。また、日本語の機械学習を活用するベンチャー企業の存在も耳に入ってきました。

 議員として半年ほど仕事をしたタイミングで、「議会活動もAIで代替できる」と確信しました。ブログで「議員の仕事は99%コンピュータに代替される」という趣旨の記事を公開したところ、現職議員から「そんなことはありえない。政治家の仕事を甘くみている」と批判的なご意見をたくさんいただきました。しかし、地方議会ではAIの活用事例がそもそも存在しません。だからこそ、AIのインパクトについて理解されにくい状況にあると考えました。そこで、日本初のAI議員としての事例をつくることで、議会でも興味を持っていただけるのではと思い、まず自分で機械学習のプログラムを実装していくことを決意しました。

AI議員への道

 まず、AI議員を目指すことを決意してすぐに着目したのは、IBM Watsonでした。WatsonはAPIが公開されているため、数学やプログラミングの知識がなくても機能を利用することができることも好都合でした。画像やテキストを読み込ませてアウトプットを確認したところ、確かに一定の成果が確認できました。しかし、現場で使えるプログラムをつくるためには、自分でつくった方が効率が良いと考えました。また、機械学習の仕組みをブラックボックスな状態にしておくと本質的な理解ができないと感じ、Watsonはひとまず脇に置くことにしました。

同イベントで「IBM Watson」の事例を紹介している様子

同イベントで「IBM Watson」の事例を紹介している様子

 次に行ったのが、書籍での勉強です。基礎から学びたかったので、オライリーの「ゼロから作るDeep Learning」を購入して学習をはじめました。しかし、文系出身のため数学で壁にぶち当たりました。高校数学の参考書にも挑戦しましたが、機械学習を理解するには大学以降の数学も必要なことを知りました。

 そこで、機械学習に詳しい人から学べば効率よく学習できるのではないかと考え、たどり着いたのが、人工知能・機械学習の教育サービスを提供するキカガクさんでした。手書きで数式を書いて丁寧に数学を勉強したり、Pythonによるディープラーニングの実装を行ったり、2日間集中して学習に取り組むことができました。基礎的な学習のみですが、受講後に自力で勉強する上での基礎を身につけることができました。その後は、書籍やインターネットで情報収集を行い、機械学習を議会活動で応用することを考えはじめました。

AI議員としての取り組み

 AIについて基礎的なことを学んだ後に、議員の仕事をAIで代替できないか考えてみました。機械学習に関する事例を調査したところ、実用的な精度でテキストの分類ができることがわかりました。そこで、過去の議案をコンピュータが読み込んで審査をする「自動議案審査システム」のプロトタイプを作ってみました。精度はそれなりのものでしたが、あくまで過去の議案に基づいて判断する点、修正案を作成できない点など、まだ課題があります。

 他にも政策調査として機械学習を取り入れたこともあります。私は数学やプログラミングの専門家でなく、機械学習に適した環境が整っているわけではありません。そこで、機械学習に強いベンチャー企業と協力させていただくことで、ディープラーニングで膨大な区民意見を機械学習で分類し、政策に活かす取り組みを行いました。瞬時に非常に高い精度で区民意見の分類ができ、有効な手法だと判断しました。

AI議員とは何か

 例えば、多くの議員が利用している検索エンジンにも機械学習が用いられています。膨大な資料を探し調査しなければいけませんが、ICTの進化のおかげで政策調査が効率化しています。新しいものを取り入れることで、無意識のうちにAI議員へと変化をしていると考えることができるかもしれません。

 今後、私のようにAIを活用して政策提言を行ったり、民主主義自体をアップデートしようとする議員の動きも活発になると思っています。AIに加え、ブロックチェーンをはじめとする非中央集権的なシステムが影響力を増しています。よりセキュアな仕組みへ発展することで、直接民主主義を実現することが可能になります。そのためには、直接民主主義で扱う議題を何にするか、あるいは多数決か平均値や中央値のどちらが良いのか、など納得感のある意思決定の方法について議論を尽くさなければなりません。政治家のあり方も、議案の審査よりも民主主義のあり方を決める役割になってくるかもしれません。AIのインパクトについてさらに研究を進め、現状に満足することなく、議員として新たな民主主義を探求します。

伊藤陽平 新宿区議会議員

著者プロフィール
伊藤陽平(いとう ようへい) 新宿区議会議員

1987年12月22日生まれ。立教大学経済学部経済政策学科卒。大学在学中にIT企業を立ち上げる。デジタルネイティブ世代としての若さとIT業界での実務経験を活かし、テクノロジーで政治の未来を変えることを目指す。2015年の統一地方選挙で現職最年少の新宿区議会議員として当選し、現在に至る。365日ブログで情報発信中のブロガー議員。
WebサイトTwitter
伊藤陽平氏プロフィールページ

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