AEDの救命率45%!でも使用率は3%。助かる命を守る自治体へ―貴志信智 久喜市議 (2016/10/19 政治山)
ここ10年で普及が進んだAED(自動体外式除細動器)ですが、利用状況の改善には多くの課題が残されています。AEDのさらなる普及に向けた地方自治体の取り組みについて、貴志信智 久喜市議にご寄稿いただきました。
◇ ◇
巷でよく目にするようになったAED。しかし、いざという時、迅速に、正しく使用することができるでしょうか。例えば、自宅で家族が倒れたら――。いつも運動しているグラウンドで仲間が倒れたら――。
表題の「救命率45%」というのは、心原性の心停止の状況下で正しくAEDが使用された場合、命が助かる確率です(出典:日本心臓財団)。一方で、心原性の心停止に対し、AEDが使用されるのは、わずか3%と言われています。
正しくAEDを使用していれば助かったかもしれない命が、数多く存在するのです。では、AEDが適切なタイミングで正しく使用されるよう、自治体や我々地方議員が出来る事はなんでしょうか。私は以下の3点であると考えます。
- 公共AEDの数を増やす
- AEDがどこに設置されているかを正しく周知する
- AEDの使用法を周知する(講習会等を開く)
本稿では、1と2に焦点をあて、久喜市での事例も併せて紹介していきます。
AEDの数を増やし、必要な場所に配置する
この10年でAEDは急激に普及を遂げました。2004年に一般市民への使用が解禁されてから、2014年末までに約63万台が販売されたと言われています。伴って各自治体でも、多くの公共施設や学校にAEDの設置を進めました。
しかしAED設置の難しいところは「管理」と「メンテナンス」です。非常に高額な機器のため、盗難のリスクもありますし、生死をさまよう状況下で機器の故障は絶対に許されません。それゆえ、久喜市では、公民館などの有人公共施設を中心にAEDの設置が進められました。
もちろんAEDの数が多いに越したことはなく、AEDが増えたことは有益なことです。ただし「設置しやすい場所(管理しやすい場所)」と「必要な場所」は必ずしもイコールではありません。
例えば、グラウンドなどの屋外体育施設。日本心臓財団がまとめた「AEDの具体的設置・配置基準に関する提言」によると「心臓震盪が発生する可能性がある若年層による野球、サッカー、空手などの競技が行われる施設では積極的なAEDの設置が必要」とされています。
しかし、前述の「管理が困難」という理由から、屋内体育施設に比べて屋外体育施設にはAEDの設置が進んでいないのが現状です。
このような状況を改善するべく、私も議会で屋外AEDの早期設置を求め、設置場所に関しては、「管理しやすい場所」でなく「必要な場所」に設置するように提言を行いました。
久喜市では今年制定された「久喜市総合戦略」において、ようやく屋外AEDの設置が明言されました。屋外型AEDの必要性は明らかで、今後全国の自治体で導入が進むものと思われます。
AEDがどこに設置されているのか周知する
私は中学生の野球スポーツ少年団の指導をしています。とある練習の日、保護者の方から「このグラウンドの最寄りのAEDはどこですか?」と聞かれました。これは指導者として大いに反省をしたところですが、私は最寄りのAEDの正確な場所を把握しておらず、すぐに返答をすることができませんでした。
どんなにAEDの数が増えても、どこに設置されているのか認知が進んでいないと緊急時に迅速な対応をすることは不可能なのです。
この出来事をきっかけに、私は久喜市が行っているAEDの設置場所に関する広報を見直すことにしました。私が考えた広報の課題は以下の3点です。
- 久喜市ホームページにおいて「公共施設」のページと「AED」のページがそれぞれ独立している
- 上記1の理由から公共施設から最寄りのAEDは、自分で探さなくてはいけない
- ホームぺ―ジを利用する人にしかAED情報は届いていない
そこで議会を通じて、以下の提案を行いました。
- 久喜市ホームページ「公共施設」のページにおいて各公共施設ごとに「最寄のAED」情報を掲載する(情報のリンクを行う)
- グラウンドなどの公共施設のカギと一緒に当該公共施設から「最寄りのAED」を記載した資料を渡す
これらはすぐに市役所も動いてくださり、提案の内容が実現しました。
目を広域自治体に移すと、最寄りのAEDとして民間の力を活用するという観点から。埼玉県が非常に有意義な取り組みを進めています。
このページでは「街の情報館」というサイトと連携をして、地図上でAEDの場所が確認できます。ぜひご自宅の近くや、よく行く公園の近くなど、AEDの設置場所を確認してみてください。
また、上記「埼玉県AEDマップ」では、AEDの設置場所に関する情報を「オープンデータ」として公開しています。こちらも認知を広げるという観点から、非常に効果的な取り組みと感じます。
1分の遅れが生存退院率を7~10%下げる
AEDの『設置』→『認知』→『使用』というサイクルのどこが欠けても、命は救うことができません。冒頭にも書きましたが、心原性の心停止に対しAEDを使用すれば45%が救命されるにも関わらず、3%しか使用されていない現実。また心室細動への除細動(AEDの使用)は、1分遅れるごとに生存退院率が7~10%低下すると言われています。
1秒でも早い、AEDの使用が大切な命を救うのです。「必要な場所への設置」「どこにAEDがあるのか利用者への周知」「使用法の普及」この3本柱を念頭に、議会から提言を続けて参ります。
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著者プロフィール
貴志信智(きし のぶとも) [ホームページ]
久喜市議会議員。1986年秋田県生まれ。秋田高校、東京理科大学卒。
東証一部上場化学メーカー財務経理部門、衆議院議員三谷英弘公設秘書を経て、2014年久喜市議会議員選挙にて歴代最高得票でトップ当選。
教育系ベンチャー企業の立ち上げに参画。
中学軟式野球チーム「チョコレートクラッシュ」代表、久喜お笑いゼミナール代表、久喜ロボットクラブなど、地域活動も多彩。
貴志 信智氏プロフィールページ
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