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[用語解説]大統領選、スーパー・チューズデー、予備選(予備選挙)、間接選挙

スーパー・チューズデーで何が決まる? (2016/2/29 政治山)

 米大統領選の前半戦天王山ともいえるスーパー・チューズデー(Super Tuesday)が3月1日に迫ってきました。スーパーマン、スーパーボウル…米国は超大国(スーパーパワー)なので、「スーパー」に特別な思い入れがあるようです。

南部諸州が影響力を意識して同日に

 スーパー・チューズデーという言葉は、共和党のジョージ・H・W・ブッシュ元大統領(いわゆるパパブッシュ)が当選した1988年、南部諸州がまとまって予備選を行ったことから広く使われ始めました。2月から3月上旬の火曜日に、複数の州が集中的に予備選を実施する日で、初期に予備選・党員集会が行われるアイオワ州やニューハンプシャー州の影響力を弱める目的がありました。大統領選の度に実施する州は変わります。

 近年、多くの州が影響力を強めるべく、予備選の日程を前倒ししようとして同日実施が増え、「ミニ・チューズデー」「ジュニア・チューズデー」あるいは「メガ・チューズデー」などの分散化や集中化による派生語も生まれました。

 スーパー・チューズデーが注目を集めたのは、1992年のビル・クリントン候補(民主党)の選挙戦です。それまでは、アイオワ州やニューハンプシャー州の両方で敗北すると巻き返しは困難でしたが、彼は両州で敗北しながらもスーパー・チューズデーを制することで一気に最有力候補に駆け上がり、大統領の座を射止めました。

 2008年大統領選では、民主党のオバマ候補とヒラリー・クリントン候補がスーパー・チューズデーでほぼ拮抗した戦いを見せましたが、その後も支持を拡大していったオバマ候補が党大会で指名を勝ち取りました。

米国では投票日は火曜日

 日本では投票日といえば日曜日ですが、キリスト教国家である米国では日曜日は安息日。月曜日に馬車などで投票所に移動し、火曜日に投票するという風習が残りました。現在でも投票日は火曜日が基本です。

2011年公開の映画「The Ides of March」

2011年公開の映画「The Ides of March」は邦題「スーパー・チューズデー~正義を売った日~」で全国ロードショーし話題に(公式ウェブサイトより)

 ところで、私たちがイメージする選挙は公示日・告示日から5-17日間で選挙戦と投票を行って終わりますが、米大統領選は準備期間を含めて2年がかりです。「予備選段階」にあたる7月の党全国大会までが前半戦で、日本でいえば、各党のトップを決める党首選を行う段階です。

 民主、共和両党による各州での予備選・党員集会は2月からスタートします。候補者は前年から活動を本格化させますが、公示日のような明確なスタートがないので、出馬のタイミングは重要です。早期に準備をしていれば、資金集めや戸別訪問に時間を費やせる反面、新たな候補者にスポットライトは移っていくので“早いほど有利”とは言えません。

予備選・党員集会で選ぶのは「代議員」

 2月から6月にかけて各党予備選・党員集会が各州で行われ、各党の候補者指名選挙の「代議員」を選びます。有権者は党や州によって異なり、政党登録した人に限る場合もあれば、無党派でも投票できる場合もあります。また、予備選は選挙ですが、党員集会であれば議論をして支持者数に応じて代議員数を割り振るケースもあります。

 こうして選ばれた代議員と、党役員や上下両院議員で構成する特別代議員が、7月の党全国大会で投票し、各党の最終候補者1人が決まります。実際にはスーパー・チューズデーを含む3月の予備選で各党候補者の趨勢が明確になり始め、他陣営が撤退していけば勝負は決まります。

 ここまでが「予備選段階」。

 ここから各党候補者による「本選」に向けた戦いが始まります。日本でいえば、国会で行われる内閣総理大臣指名選挙にあたります。日本の場合は与野党の所属議員数によって最初から結果は見えている点が、同じ間接選挙でも一般有権者が投票する当日まで結果が分からない米国とのダイナミズムの差でもあります。

有権者投票で選ぶのは「選挙人」

 一般有権者による投票は11月8日で、当日開票で実質的な勝敗が決まります。しかし、形式上は大統領そのものを選ぶのではなく、大統領を決める「選挙人」を選ぶ投票です。大半の州で1位になった候補がその州の選挙人を総取りします。選挙人は計538人で、過半数の270以上を得た候補が当選です。

 形式上、本当の意味で大統領が選出されるのは、選挙人による投票が行われる12月中旬です。この結果を受けて、2017年1月上旬に当選者が正式決定し、1月20日に大統領就任式が行われる予定です。

2段階で間接選挙という複雑な仕組み

 米大統領選が複雑といわれるのは、予備選段階では(党員などの)有権者は代議員を選び、本選段階では(一般の)有権者は選挙人を選ぶという、2つの段階それぞれで間接選挙を行っている構造にあります。

 2000年の大統領選では、選挙人を選ぶ一般投票の得票数で多数を占めたゴア前副大統領が、選挙人による投票の得票数で負けた結果、ブッシュ大統領が誕生しました。平等を重んじる日本では、選挙制度改革が議論される度に「死票が増えないように」という意見が出ますが、米国では総取りが基本。勝てば官職も総取りであり、選挙・政治制度にもお国柄が色濃く出ています。

<著者> 上村 吉弘(うえむら よしひろ)
株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー 編集・ライター
1972年生まれ。読売新聞記者8年余、国会議員公設秘書3年余を経験。記者時代に司法・県政の記者クラブに所属し、秘書時代に中央政界の各記者クラブと接してきた経験から、報道機関の在り方に関心を持つ。政治と選挙を内外から見てきた結果、国民の政治意識の低さに危機感を覚え、主権者教育の必要性を訴える活動を行っている。