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SMAP騒動で国会議員が論ずるべきこと (2016/1/22 政治山)

関連ワード : 予算委員会 人権 国会 松田公太 法律 

 1月13日に第1報が報じられたSMAP解散騒動。国民的グループの突然の危機に、芸能ニュースの枠を超えて、NHKニュースでも解散危機から存続に至るまで報じられました。英BBC放送が電子版で速報したほか、中韓や台湾の各紙でも報じられるなど影響は海外にまで及びました。

 18日の番組内ではメンバーが生放送で謝罪、存続を伝えると瞬間最高視聴率は37.2%に達し、列島がSMAPあるいはジャニーズ事務所問題尽くしとも言える1週間でした。

予算委員会でも話題に

 本来、芸能ニュースとは関わりのなさそうな政治家の口からも、この問題に関する発言が相次ぎました。石破茂・地方創生担当大臣は15日の記者会見で、「『キャンディーズ』の解散にも匹敵するような大きな出来事だ」と語りました。

 また、19日の参院予算委員会では、斎藤嘉隆議員(民主)が「衆院の解散が先か、SMAPの解散が先かと言われていた」などの問いに対し、安倍総理大臣は「政治の世界もそうだが、同じグループが長年続いていくには様々な課題があるのだろう」と述べ、「多くのファンの期待、願いに応えて存続するのは、良かったのではないか」と語りましたが、衆院解散については言及しませんでした。

国会議事堂

マスコミにはおいしい小ネタ

 石破大臣も安倍総理も、質問した斎藤議員も、記者や視聴者に対するリップサービスの側面が大きかったと思います。マスコミとしては「政界にも反響」などとして、おいしい小ネタになりますが、政治家が語るべき問題は他にあるとする批判も起こりました。

 社会現象に敏感であることも政治家の役割である以上、国民が関心を持つテーマについて国のリーダーがどう考えているかを問う意味はあるかもしれませんが、「予算委員会で質疑する問題ではない」という指摘は一理あると思います。

 安倍総理への質問は一応、解散の意思を問う発言です。報道の見出しだけを読むと、あたかも「SMAP存続についてどう思うか」と問うているように誤解される点で、斎藤議員は要らぬ失点をしてしまったようにも見えますし、そもそも解散の意思自体、予算委で質疑すべき内容なのか疑問です。

松田公太議員は人権の観点から問題提起

 一方、今回の騒動を人権の観点から問題視したのは松田公太・参院議員(元気)です。松田議員は19日付のブログで「SMAP独立問題」と題し、独立を志向するタレントを潰すといわれる日本の芸能事務所の在り方を、人権問題の観点から論じています。少し長いですが、一部を引用します。

結成して25年も頑張り、十分会社にも恩返しをしてきた彼ら(そしてマネージャー)が独立を断念せざるを得なかったという結果は、本当に良いことだったのでしょうか。私にはむしろ日本の「独立」に対するネガティブ思考や、芸能界の闇の部分(芸能人を縛るのが当たり前という風習)を露呈しているよう見えてしまいます。

さらに、今となっては独立を考えたメンバーが「造反者」のように扱われているのも解せません。報道ベースでは、少なくとも今年9月の契約満了までは続けてから辞めるという事でしたので、契約的に何か瑕疵があったようにも思えません(「契約」や「誓約」を破ると言うなら大問題ですが)。

比較的短期間の契約で独立が可能で、収入の配分比率も高い他の先進民主主義国家のアーティストの処遇と比較すると、あまりにも日本の「スター」はかわいそうになります

 松田議員のブログに具体例はありませんが、日本人初のミス・インターナショナルに選ばれた女性が、大手芸能事務所の幹部からストーカー被害を受けていたとして刑事告訴と民事提訴をしたというニュースが以前ありました。

 また、独立しようとするタレントがその後、事務所の圧力で芸能活動できなくなったといわれる事例の数々はネットでも拡散されています。松田議員は、芸能界の人権意識について、次のように疑問を呈しています。

大物芸人から「芸能界に人権なんて無い」という発言もありましたが、この業界では幸福追求権や労働基本権など、個人の尊厳を維持するために不可欠なものがないがしろにされていると感じることが多々あります

ハリウッドでは組合やエージェンシー法で人権保護

 ハリウッドでも似たような問題がかつてはあったといいます。しかし、映画俳優や芸能人の組合が結成され、エージェントを取り締まる法律も施行されたので、「業界ぐるみで裏切り者を放逐」したり「事務所が報酬を独占」したりすることはなくなったそうです。

 日本の芸能界は、事務所のマネジメントにタレントの命運が握られているので、力関係は圧倒的に弱い立場のまま放置されています。この弱い立場を人権と置き換える意識そのものがないのか、国会レベルで問題視されることがほとんどありません。

 ただ単に国民的アイドルの解散危機と考えるのではなく、そこから社会の暗部を問題提起するのは国会議員として大切な資質のように思います。

予算委でなく法務委で取り上げては?

 しかし、SMAPという強烈な検索ワードを売名行為に使えばすぐに炎上することから、あえてこうした話題を避けるのも最近の風潮であるようです。リップサービスや問題意識の観点から行った発言でも売名行為と誤解を受ければ、ネットを通じて世論は一方的な批判に向かいかねません。その辺の危うさを承知で発言する議員の真意を正しく理解することが、政治を動かし、社会をより良くする第一歩なのかもしれません。

 国民的スターであるSMAPが、騒動の根本原因も語らずに生放送で国民に謝罪するという状況はどうみても異常です。国民的関心が高まっている今回の問題を契機にして、芸能界の契約や人権問題を予算委員会ではなく、法務委員会の場で取り上げることには大いに意味があるのではないでしょうか。

上村吉弘<著者> 上村 吉弘(うえむら よしひろ)
株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー 編集・ライター
1972年生まれ。読売新聞記者8年余、国会議員公設秘書3年余を経験。記者時代に司法・県政の記者クラブに所属し、秘書時代に中央政界の各記者クラブと接してきた経験から、報道機関の在り方に関心を持つ。政治と選挙を内外から見てきた結果、国民の政治意識の低さに危機感を覚え、主権者教育の必要性を訴える活動を行っている。
関連ワード : 予算委員会 人権 国会 松田公太 法律