【海外】イギリス兵士殺害「テロ」事件の影響とは? NewSphere(ニュースフィア) 2013年5月27日
22日、ロンドン南東部の郊外ウールリッチで、惨劇は起こった。イギリス軍ロイヤル・フュージリアーズ連隊第2大隊員所属で、アフガニスタン勤務の経歴を持つリー・リグビー氏(25)が、2人のアフリカ系男性に車ではねられ、無抵抗のまま肉切り包丁などで切りつけられて死亡したのだ。「神は偉大なり」と叫びながらの犯行後、男たちは血まみれの手に刃物を握ったまま、通行人に自分たちを撮影するよう要求し、演説をした。
「戦いを仕掛けられる以上、戦わざるを得ない。目には目を、歯には歯を、だ」
男たちはその後、駆けつけた警察に襲いかかったところを撃たれ、それぞれ別の病院に収容された。
政府は、事件後に要求をビデオに収めるよう周囲に要求したことや、イスラム教圏で人々を苦しめる英米への不満を口にしていたこと、などの理由から、事件をテロと断定。フランスを訪問中だったキャメロン首相は急遽帰国し、緊急治安会議を招集したという。
容疑者の素顔
関係筋によると、実行犯の1人はナイジェリア系の28歳男性で、名前はマイケル・アデボラージョとのこと。ロンドン東部のラムフォードで、キリスト教徒の家庭で育ったが、2003年頃改宗したという。
現在英国への入国が禁じられている、イスラム過激派組織の指導者オマル・バクリ師による説教礼拝に、定期的に出席していたとの情報もある。
周囲からは、信仰に篤く、穏やかで、暴力とは無縁と見られる一方、中東で「欧米諸国が傀儡政府を操り、イスラム教徒を弾圧している」との怒りを洩らす一面もあり、「聖戦士」とのあだ名で呼ばれていたという。
とはいえ英国当局は、23日の時点では、アデボラージョ氏が、ナイジェリア近隣で活動するイスラム過激派ボコ・ハラムとの関連性はほとんどないとみているようだ。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ネットの世界では、英米がアルカイダとの関係を強く疑うイスラム過激派組織などが、無人機や衛星などの「ハイテク技術」を駆使することで「テロとの戦い」を優位に進める英米に対する「意趣返し」を呼びかけているといわれる。
今回の事件も、先ごろのボストンマラソン爆破事件と同じく、手口の粗雑さ、計画性のなさ、原始的な道具などから、「ホームグロウン(国内育ち)」の「一匹狼」テロと見られているようだ。
テロ対策の限界か
23日には、共謀者として新たに2人の男女(ともに29歳)が逮捕されたこと、当局が実行犯の容疑者をすでにマークしていたことが新たに判明し、イギリスをさらなる衝撃が襲っているようだ。
イギリスは2005年のロンドン同時多発爆破テロ以来、対テロ対策に多額の資金を投じてきた。今回のアデボラージョ容疑者を、「危険人物」としてマークできたのもその賜物ともいえる。
しかし、「危険」と認定した人物を四六時中見張っていることは到底不可能だと専門家は指摘する。実際、4人にはいずれも前科はなかった。こうした散発的なテロには、どう立ち向かったらよいのか、答えは出ていない。
事件の影響
フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、今回の事件を受け、ロンドンではすでに、イスラム系市民への怒りや反発が沸き起こり始めている模様。東部のエセックスでは、事件後、刃物を持った男が発炎筒をイスラム礼拝所に投げ込む事件も起きた。対してイスラム教指導部は、今回の事件にイスラム教は無関係だとのメッセージを発信しているという。
キャメロン首相は、事件に対する談として、「責任はすべて、今回の犯行に及んだ人物のみにある」と強調し、イスラム教全体を非難すべきではないこと、事件を受けて国民がバラバラになり、憎み合えば、「敵の思うつぼだ」と訴えた。
また首相は、事件当時に偶然現場を通りかかり、被害者を助けようと努力するとともに、血まみれの犯人に話しかけ、「注意を自分に向けることで」被害を最小限にしようと努力した女性がいたことに言及。この女性、ロヨーケネット氏(48)の勇気をたたえ、これこそが今、わたしたちが見習うべき姿勢だと、市民に団結を呼びかけたという。