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【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2)◆トヨタ対テスラ◆  株式会社フィスコ 2017年6月11日

関連ワード : 科学技術 

資本提携解消は日米産業構造の差を示唆

3日、トヨタは米電気自動車メーカー・テスラの株式を全て売却、正式に資本提携を解消したことが明らかとなった。報道によると、売却は12月末までに行われており、14年からの提携解消方針が終わったことになる。正式な説明はないので推測の域を出ないが考えられる背景は以下の二点。

一つは提携した2010年、トヨタはGMとの旧合弁工場「NUMMI」の処分に困っていた。いわゆる「安全問題」としてトヨタの経営を揺さ振った遠因になったとされる。その受け皿として、テスラとの提携(テスラが土地と建物の一部を購入)で軟着陸させたと受け止められる。トヨタらしく慎重に、時間を掛けての処理となった。政治的に叩かれ易い体質は残っているが、ビジネス的には「安全問題」の後遺症は見られない。

もう一つは自動車産業の哲学の差。自動車産業はメーカーとディーラーの共存で成り立っているが、テスラはディーラー網を持たず、ネットによるソフトウェアの更新など、開発姿勢は「ディーラー飛ばし」に主眼がある。既に、ソフトウエア、カーナビ地図更新、音楽ダウンロードなどディーラーのサービス収益を奪いつつある。AI化が進められ、一台一台が何処を走っているか、どの不具合が生じているかの把握・対処も進められている。約3割と言われるディーラー収益を失くせば、自動的に大幅な販売価格の引き下げが可能になる。テスラ株の時価総額がGM、フォードを追い抜いた理由は、この販売スタイル実現に向かっているためと見られている。

電気自動車の開発技術に差がある訳ではなく、自動車産業のピラミッド構造、顧客サービスの在り方、車検制度などの仕組みなど、哲学の差とも言える方向差がある。これは当然、雇用形態に響く。ネット販売大手のアマゾンが実店舗出店を始めていることが話題だが、目指すは従来の小売業態ではなく、限りなく無人の店舗だ。米国のディーラー業がどれだけの人員を抱えるか知らないが、潜在的に、米国社会は雇用機会の喪失リスクを抱えている。トランプ大統領の貿易制限による雇用確保の考え方は、端から実現しない要素がある。

米国の失業率は歴史的に低下しているが、高所得労働者ほど、絶え間ない仕事の置き換わりリスク(弁護士や金融ディーラーのAI化など)に晒され始めている。賃金が思ったほど伸びないのは、日本の構図と大きく異なる面があろう。また、株価上昇の原動力がハイテクセクターに偏っているのは、既に「トランプ相場」から「次世代産業構造相場」にシフトしていることを意味しよう。日本株でも、任天堂、ソフトバンク、東京エレクトロンなどに集中した疑似的な展開となっているが、日米の差は早晩意識せざるを得なくなると考えられる。

今年下半期に向け、TPP、パリ協定など、日米の差を意識せざるを得ない項目が増えると思われる。日本の独自性評価が何処まで高まるかが、抽象的だが、株価水準に影響してくるものと考えられる。

以上

出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/6/6号)

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