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【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(3)◆日米のトゲ◆  株式会社フィスコ 2017年1月29日

関連ワード : アメリカ 外交 貿易 金融経済 

自動車摩擦は限定的、次のステップ焦点

トランプ大統領がTPP離脱、日本車標的と大騒ぎだが、本当の問題はこれからだろう。トランプ大統領の雇用増は大きな制限があると言われている。米国の失業率は既に大幅に改善し、完全雇用の域が見えているとされる。全体の雇用増を図る法制度を作る余地は乏しい。勢い、成果を見せるためには個別撃破を演出するしかない。自動車は周辺を含めて雇用効果が大きいと見られ、輸出に不利なラストベルト州での雇用増を図るには、手っ取り早い。

また、「貿易摩擦だ、円高圧力だ」との声も噴出している。確かに、ブルームバーグは1兆円規模を運用するヘッジファンド・アムンディが「円買い、カナダドル売り」に動いていると伝えた。「市場は財政政策を過度に重視して米ドルを買ってきたが、今は通商政策の現実を見据えた修正の時」との見立てだ。ただ、対日貿易赤字(700億ドル規模)は昔のようなことはなく、為替は日米金利差、インフラ・マネーの動きなどでも左右される。投機筋の建玉(IMM通貨先物)は円ショートに大きく傾いたので、その是正はあるだろうが、追随勢力は限定的と考えられる。今のところ、115円±2.5円ゾーンを維持している。

日米のトゲは別のところにあると見る。一つは、国産旅客機MRJの再三の大幅延期。技術的なことは分からないが、米国の型式認定を取らないと世界の空を飛べない。戦後、「米国に飛んでくるような日本の飛行機は作らせない」とした日本の軍事力を殺ぐ方針の伝統は生きていると思われる。宇宙産業でも日本は急速に力を付けてきており、米国が神経を尖らせても不思議ではない。国連にはまだ「敵国条項」があるが、安全保障問題を含めて、航空・宇宙産業の攻防の方が大きな焦点になる。

もう一つは原子力産業。東芝は存亡の危機にあるが、東芝が倒れるのなら、先に損失の源の米WH破綻が必然であろう。米国の丸抱え売り込み先でスタートしたツケは福島にもあり、GEのマーク1型原子炉の欠陥(少なくとも地面を掘り低い場所に建設し、津波被害を受けやすくした)を訴えてもおかしくない。日本の原子力産業の行き詰まりは、即、米国の行き詰まりでもある。雇用面の影響は小さいかも知れないが、電力産業の行方、トランプ大統領のエネルギー開発促進の動きに影響する。

24日の米株市場は、「トランプ大統領は力強いスタートを切り、やると発言してきたことの多くを実行に移している」との評価で、S&P500指数、ナスダック総合指数は終値で過去最高値を更新した。NYダウは高値19949ドル止まりだが、2万ドル乗せは時間の問題のように見える。その中で、アナリストは米中関係の緊張が高まった場合の勝ち組と負け組の候補リスト作成に動いていると伝えられた。中国の緊急報復策は12年の日中摩擦による不買運動が参考にされ、ナイキ、GM、フォード、ティファニーなどへの警戒感があるようだ。米上院民主党トップのシューマー院内総務は24日、大統領選公約の一つである「中国の為替操作国認定」を行うよう要請した。トランプ大統領の貿易是正の主眼は最大赤字国の中国にあると見られ、台湾、南シナ海問題でジワリジワリと圧力を高めているように見える。日本に対する貿易是正圧力はその一環と見えなくもない。TPP永久離脱は逆に誘い水のように映る。

日本の産業・企業の貿易相手としてはアジアシフトが強まる(米国は現地生産拡大)と考えられるが、米中関係はその面でも重要だ。鉄鋼のような安値大量輸出排除、知的財産保護など多様な面で、日本の立ち位置を有利にすることが重要と考えられる。

以上

出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/1/25号)
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