【フィスコ・コラム】6月24日のパブ 株式会社フィスコ 2016年6月19日
6月23日に実施される英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票は、国際金融市場における今年最大の注目材料です。投票時間は現地時間7時-22時(日本時間15時-24日6時)で、大勢が判明するのは24日3時(日本時間同11時)以降とみられ、アジア取引時間帯では大相場となりそうです。ところで、選挙は日曜日に実施されるのが一般的ですが、英国ではなぜ木曜日に行われるのでしょうか。
この疑問は、今から20年近く前に遡ります。筆者がたまたまロンドンを訪れていた1997年5月、英国では総選挙が行われていました。「ニューレイバー」を掲げたブレア党首率いる労働党は旧来型の社会民主主義に新自由主義を融合させる政治路線が支持され、サッチャー、メージャーと続いた保守党から政権を奪還。18年ぶりに与党に返り咲くという英国の政治史に残る貴重な瞬間でした。
日本新党などに政権を奪われた自民党が社会党などと組んで巻き返し、選挙を経ないで再び政権与党となっている、子供のケンカのような日本の政権交代とは何たる違いかと、労働党支持者による朝まで続いた歓喜の宴を眺めながら思いました。この時、現地駐在の日本人ビジネスマンらと会食し、なぜ投票日は木曜日なのかが話題になったのですが、誰も知りませんでした。
世界的には、国政選挙は日本を含め日曜日に実施する国が多いのですが、平日に選挙を行う英国や米国などは、週末の投票は労働者の休む権利を奪うとの理由で、投票日は国家レベルで勤務時間の短縮などを認めているようです。もう少し踏み込んで知りたくなったので、英国留学中の知人を通じて調べてもらったのですが「慣習で決まっているから」という回答でした。その慣習が生まれた背景は一体何だったのでしょうか。民主主義を重んじるお国柄ですから、歴史的に何か由来があるはずです。
そこで、貴族が団結して国王の権力を制限した13世紀のマグナカルタ(大憲章)がその起源であると仮説を立ててみました。貴族たちの間で国王の圧政から個人の権利を守る法律を制定するかどうかの評決が行われたのが木曜日。以来、選挙など重要な評決は木曜日に行われるようになった・・・とはどこにも書いてないので、起源を突き止めるのは歴史学者の研究に委ねたいと思います。もしかしたら、それほどロマンチックな理由ではないのかもしれません。
以前、知り合いの英国人に木曜投票の理由を尋ねてみると「金曜日にパブでビールを飲む時の話題にするためだ」と真顔で答えたので、思わず吹き出しました。6月24日の英国内のパブは、国民投票の結果を肴に議論する人々で大賑わいでしょう。気前のいい英国人はあまり見たことはありませんが、「EU残留=ポンド急反発」で大儲けした人が仲間に得意げにおごる光景が見られるかもしれません。
(吉池 威)
<MT>
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