【連載コラム】それでも今年円安基調が続く理由 株式会社フィスコ 2016年1月17日
今年の年賀状には、「昨年同様にドル高・円安基調が続くとみています」と書いたのですが、いきなり年初から逆方向の値動きになっています。中国金融当局が予想外に対ドル基準値を切り下げたことから、市場は「中国経済はそこまでしないと持たないほど悪化しているのか」と懸念を強め、中国株売り→日本株売り→ドル売り・円買いという流れになりました。追い打ちをかけるように原油安が進み、リスク回避の動きが強まっています。
毎年12月ごろになると、「来年は・・・」という話題になりますが、外為市場では円安が続くか、それとも円高に転じるか、見方は分かれていました。どちらかといえば円高に振れると予想する人の方が多かったかもしれません。筆者の場合、ドル高・円安基調の見方に迷いはありませんでした。
ただ、米シカゴ地区連銀のエバンズ総裁は13日、連邦準備制度理事会(FRB)が目標としている物価上昇率が2%を達成するのは難しいので、市場コンセンサスである年4回の利上げペースを2、3回にとどめるべきとの見解を示しました。ドル高・円安が続くという考え方の拠り所はFRBの金融政策が利上げ方向を主張する「タカ派」である一方、欧州中央銀行(ECB)や日本銀行は、FRBとは真逆である緩和方向の「ハト派」なので、ドルの方向性は明白だからでした。肝心の米当局者が「ハト派」寄りだとドル高・円安論は根底から崩れてしまいます。
それでも、年初の半月で自分の見立てを修正する気にはなれません。というのは、通貨の価値は政治力で決まると考えるからです。政治は相場変動要因の1つにすぎませんが、為替レートは貿易収支などの経済情勢よりも国家間の力関係を最優先する側面があります。1995年に79円75銭まで円高が進み、その後の90年代後半には一転して円安方向に振れた値動きは、日米関係を象徴するものです。米国が時の政権下で自国経済のために相場の方向性を思惑通りにするなど本来おかしいことですが、それが現実の日米関係なのです。
FRBは昨年12月15−16日の連邦公開市場委員会(FOMC)で9年半ぶりの利上げに踏み切り、一方日銀は17−18日の金融政策決定会合で追加金融緩和を先送りしました。この時導入を決めた「補完措置」は、市場筋にいわせると「日銀は今後、資産の買い入れなどの手段が尽きても強引に作り出して緩和姿勢を続けるとの意思表示だ」とのことです。つまり、FRBが利上げの回数を減らしても、その分日銀は緩和の回数を増やすことで「歩幅」を維持し、ドル高・円安基調を継続するということです。ドル高を望む米国と、円安が望ましい日本の思惑が一致する限り、この基調は続くでしょう。
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