東京都知事選挙2014
大手新聞社とツイッターの「共振」と「ズレ」~2014年都知事選ツイート分析 (2014/2/10 小野塚亮)
今回の東京都知事選挙は元厚生労働大臣の舛添要一氏が、次点に100万票以上の大差をつけ圧勝しました。ネット選挙が昨夏の参院選前に解禁され、それ以降2度目の大型選挙となりました。そこで、慶應義塾大学SFC研究所上席研究員(訪問)で情報と政治について研究している小野塚亮氏に、今回の都知事選に関する大手新聞社のツイッターにおける情報発信と、それに対するツイッターユーザーの反応を調査・分析していただきました。
新聞とツイッターの「共振」と、そこには収まりきらない「ズレ」
2014年東京都知事選挙は、舛添要一氏が次点の宇都宮健児氏に大差をつけ圧勝という形で幕を閉じた。投票率が46.15%と、過去3番目に低い数字であり、決して関心が高かったとは言えない今回の選挙であるが、ネット選挙という側面からは昨夏の参院選に次ぐ2度目であり、報道各社がインターネットでの動向を報じる場面が多々みられた。
これは、学習院大学法学部教授の遠藤薫氏が著書『間メディア社会と<世論>形成―TV・ネット・劇場社会』(*1)において、メディア間の相互参照関係が複雑化し、テレビや新聞といった既存メディアとインターネットメディアといった対立関係が無効化しつつある、とする指摘がより現実味を増してきたと受け取れる現象であった。本稿ではこの相互参照関係の進展を「共振」と呼ぶことにしたい。
その一方で、毎日新聞と立命館大学の共同研究(*2)が世論調査とツイッター(短文投稿サイト)でのツイート(つぶやき)の間に争点の「ズレ」があると論じているように、メディア間の相互参照関係の進展だけでは説明しきれない現象も生まれてきている。このズレは、世論調査の対象者とツイッターユーザーの参照するメディアの差により生じている部分も大きいだろうと予想される。
大手新聞社とツイッターの「共振」と「ズレ」を可視化
そこで本稿では、大手新聞社のツイッターにおける情報発信と、それに対するツイッターユーザーの反応に焦点を当て、大手新聞社とツイッターの「共振」と、そこには収まりきらない「ズレ」を可視化することを試みた。
下の散布図は、大手新聞社のうち政治関係の情報のみをツイートするアカウントを有している朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部, @asahi_pol_r)、読売新聞(YOL 政治, @YOL_politics)について、2013年末の猪瀬直樹氏の辞任表明から都知事開票日の24時までにされたツイートから、Yahoo! Japan デベロッパーネットワークの提供するキーフレーズ抽出API(*3)を用いて抽出したキーフレーズの出現頻度(Y軸)と、そのキーフレーズを含むツイートへのツイッターユーザーのRT(リツイート, ツイッターの情報転送機能)とお気に入りの合計数の平均からなる反応量(X軸)をプロットしたものである(*4)。
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大手新聞社とツイッターの間で相互参照関係が進展?
まず、上の散布図から全体像を見ると、朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部)と読売新聞(YOL 政治)の発信したキーフレーズの頻度とツイッターユーザーの反応量の相関係数はそれぞれ0.61(図の青い点)、0.67(図の赤い点)と高い相関を示している。これは相関に過ぎないためあくまで仮説であるが、ここから大手新聞社の発信した情報にツイッターユーザーが反応するという関係、もしくは逆の、ツイッターユーザーがよく反応する情報を大手新聞社が発信するという関係が考えられる。すなわち、大手新聞社とツイッターの間で相互参照関係が進展しているという仮説である。
しかし、それは正しいのだろうか。ツイッターユーザーの間では関心の低かった話題であるのに、大手新聞社はそれを報じた、もしくは、ツイッターユーザーの間では関心の高かった話題であるのに、大手新聞社はそれをあまり報じなかったといったことがあるのではないか。つまり、両者の間で、なにを重要と判断するかについて違いがあるのではないか、ということだ。
そこで、大手新聞社の情報発信内容とツイッターユーザーの反応について、(1)候補者について、(2)争点についてという2つの点から見ていきたい。
新聞社とツイッターは、誰を重要とみなしたのか?
まず、(1)候補者について、候補者名を含むキーフレーズの頻度とツイッターユーザーの反応量、あるキーフレーズを含むひとつのツイートがツイッターで何倍の反応を引き起こしたかを示す「倍率」は以下の表のようになっている。この「倍率」は、キーフレーズの頻度が少ないがツイッターユーザーの反応が多い時に大きくなり、そのとき散布図では下側やや右寄りの部分にプロットされる。
いずれも、細川氏関係のツイートが最も多く(朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部):34回、読売新聞(YOL 政治):20回)、ツイッターユーザーの反応も最も多く(対朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部):212.18件、読売新聞(YOL 政治):227件)なっている。これは、今回当選した舛添氏についても、舛添氏関係のツイートが朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部)26回、読売新聞(YOL 政治)18回に対し、ツイッターユーザーの反応が対朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部)110.54件、対読売新聞(YOL 政治)252.44件と、同様の傾向がみられる。この二者については、散布図を見ても右上のエリアにプロットされており、大手新聞社もツイッターも共に重要と判断していたと考えられる。
一方で、これを、あるキーフレーズを含むひとつのツイートがツイッターで何倍の反応を引き起こしたかを示す「倍率」で見ると、違った側面が見えてくる。朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部)では、倍率が最も高いのは宇都宮氏(12.6倍)、次いで田母神氏(7.2倍)、細川氏(6.2倍)、舛添氏(4.3倍)、家入氏(2.6倍)であり、読売新聞(YOL 政治)では、田母神氏が26.8倍と最も高く、舛添氏(14.0倍)、細川氏(13.9倍)、宇都宮氏(12.4倍)という順であった。ここから、田母神氏や宇都宮氏は、ツイッターユーザーの間での重要性は高かったものの、大手新聞社においてはそうではなかったということが考えられる。
ツイッターにおいて「議題設定機能」を果たしたとはいえない大手新聞社のツイッターアカウント
次に、(2)争点について、候補者名を含むキーフレーズの頻度とツイッターユーザーの反応量、あるキーフレーズを含むひとつのツイートがツイッターで何倍の反応を引き起こしたかを示す「倍率」は以下の表のようになっている。
まず、朝日新聞(朝日新聞・デジタル編集部)については、都知事選に関係して言及されたのは「脱原発」が最も多いが、その頻度6回、平均反応量9.5件、倍率1.6倍と、多くの争点を提示することもなく、脱原発に関するつぶやきもツイッターユーザーの反応を多く生んだとは言えない。都知事選争点に絡んで、「親子の居場所を・クリーンな人…街角の都知事選争点」(*5)という記事をツイートしているが、その反応も芳しくなかった。その他にも「五輪」「経済」についても、頻度、反応量ともに1から3と低いものであった。次に、読売新聞(YOL 政治)についても、「原発」、「五輪」、「防災」について言及しており、その頻度は多くて「五輪」の6回と少なく、反応量も平均して39.1件と決して大きい数字ではない。
ここから、大手新聞社とツイッターの間では、大手新聞社がツイッターに与えた影響は小さいと考えられることから、大手新聞社のツイッターアカウントはツイッターにおいては「議題設定機能」を果たしていたとは言えないのではないか、という仮説が考えられる。
争点についての不可解な「共振」
ところで、冒頭で取り上げた毎日新聞と立命館大学の共同研究(*2)では、毎日新聞が行った世論調査での最大の争点が「景気と雇用」「少子高齢化や福祉」であった反面、ツイッターでは「原発」「五輪」であったことを報じている。先ほど、大手新聞社のツイッターでの情報発信が、ツイッターに与えた影響は小さいと論じたものの、その内容には大手新聞社とツイッターに類似が見られる。これがどちらか一方が他方に影響を与えたのか、それとも大手新聞社のツイッターでの情報発信を情報ソースにするユーザーとそことは別のソースに拠っているユーザーとで異なる圏ができているのか判然としない、「共振」である。
いずれにしても、大手新聞社が重要と判断した争点と、ツイッターユーザーが重要と判断した争点は共に、先の世論調査の対象者が重要と判断した争点とは異なっていた。
求められるメディア像
つまり、大手新聞社にもツイッターにも、すくい上げられなかったが重要であると判断する人々が多くいる争点があったということだ。そこで、それらの声をすくい集め、争点化する能力をもったメディアがいま、求められていると言えるだろう。
◇ ◇ ◇
(*1)遠藤薫, 2007, 『間メディア社会と<世論>形成―TV・ネット・劇場社会』, 東京電機大学出版局
(*2)本紙・立命館大共同研究:争点にズレ 世論調査…景気、つぶやき…原発 – 毎日新聞
(*3)テキスト解析:キーフレーズ抽出API – Yahoo!デベロッパーネットワーク
(*4)なお、外れ値的に頻度ないしは反応量が大きかった「首相」「首相動静」「都知事選」の3キーフレーズについては、プロットエリア左下部分の可視性を優先し、取り除いてある。
(*5)親子の居場所を・クリーンな人…街角の都知事選争点
- 著者プロフィール
- 小野塚亮(おのづか・りょう)
1987年群馬県生まれ。一橋大学商学部卒業。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士(政策・メディア)。
慶應義塾大学SFC研究所上席研究員(訪問)。情報と政治について、プログラミング技術と統計分析を駆使して研究。
論文に、小野塚亮・西田亮介, 2012, 「ソーシャルメディアは政治家のどのような評判情報を形成するか」, 『政策情報学会誌』, 6(1), 57-67、雑誌記事に、小野塚亮, 2012, 「若者と女性の政治参加へSNSが持つ可能性」, 『人間会議』, 2012年冬号, 190-5など。
ホームページ:https://sites.google.com/site/ryoonozka/
メールアドレス:r.onozka[at]gmail.com
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