【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第109回 コロナ禍におけるオンラインによる住民と議会のコミュニケーション~北海道芽室町議会の取り組み (2021/6/4 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第109回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
コロナ禍による議会機能の低下
2020年からの新型コロナウイルスとの戦いが長期戦の様相を呈している。そんな中、地方議会の活動にどんな変化が起きているのか。
早稲田大学マニフェスト研究所が2020年11月に実施したオンライン調査(回答数906議会、回答率50.7%)によると、議会の会期が短くなったと答えた議会が153議会(16.9%)、議案の審議時間が短くなったと答えた議会が213議会(23.5%)、一般質問の時間が短くなったと答えた議会が410議会(45.3%)と、コロナ対応で多忙な執行部に配慮してか、議論をするといった議会の機能が低下した議会が少なからずあることが読み取れる。
調査項目には無いが、議会報告会、住民との意見交換会の中止や、視察や研修会の中止を判断した議会の話も多く聞く。住民の意見を聴く機会、先進事例を学ぶ機会の減少も、議会機能の低下につながる。
そんな中、地方創生臨時交付金等を活用し、タブレット端末を導入する議会が113議会増えていることや、3密を回避する目的でZOOM等のオンライン会議システムを利用した議会が、本会議または委員会で11議会(1.2%)、それ以外の会議で84議会(9.3%)と、回答議会の1割にもなり、Withコロナ、Afterコロナを見据えた新しい地方議会の姿の兆しも見え始めている(第97回「取手市議会が切り拓く会議のオンライン化への挑戦」)。
非常時には、平時に強く働く現状を維持しようと考えがちな「現状維持バイアス」が弱まり、向かうべき方向への動きが立ちあがり、時間軸が一気に進む。企業のテレワーク、学校のオンライン授業、病院の遠隔診療等、コロナの影響により、日本のいたるところでそうした実験的な取り組みが生まれ、これまで無理だと言われていたことが実現している。地方議会のオンライン化の動きもその流れである。
今回は、コロナ禍の中だからこそ、議会機能を維持しようと挑戦する北海道芽室町議会の取り組みについて、住民とのコミュニケーションでのオンラインの活用を中心に考えてみたい。
オンライン視察の受け入れが転機に
芽室町議会は、早稲田大学マニフェスト研究所による議会改革度調査で2018年まで5年連続総合全国1位、2019年も第2位と、これまで議会改革を積極的に進めてきた議会である。タブレット端末の導入も2016年と早く、(1)議案、資料閲覧、(2)情報収集、町民との情報共有、(3)議員間のスケジュール共有、(4)事務局からの通知、連絡、等に活用してきた。
2019年には導入目的が達成されているかの検証作業を行い、議会活動に一定の成果があったとし、2020年に端末の更新を行っている。検証作業の際、2018年の北海道胆振東部地震、台風21号の被害もあったことで、災害や冬の豪雪時のタブレット端末を活用したオンライン会議の可能性についても議論されていたという。
コロナ当初、芽室町議会でも2020年7月に新メンバーとなった議会モニターの会議の実施を延期する等、コロナの状況の様子見をしていた。「可能な限り対面による会議を」と、慎重な雰囲気が議会内にあったという。そんな中、各議員にタブレット端末の環境は整っていたので、正式な委員会に先立って開催しているミーテイングの場で、オンライン会議システムZoomを活用する試行を数回行い、活用の手応えは感じていた。Zoomは、複数の参加者が音声と映像により通話できるオンライン会議システムの代表的なものである。
オンラインの活用に大きく弾みがついたのは、10月に道内の下川町議会からの「議会改革」がテーマの視察依頼を受けたことによる。当初は実際に芽室町に来る予定だったが、オンラインに変更、結果としてリアルの視察と変わらない効果を実感した。12月には和寒町議会のオンライン視察も受け入れた。
この成功体験が大きかった。コロナも長期化しそうであり、オンラインで代替できることはやっていこう。そうした議会内の雰囲気が作られていった。11月には、道内での感染拡大により、正式な会議体である議会災害対策会議を初めてオンラインで実施した。委員会条例には規定はないが、やってダメとは書いていない。芽室町議会の前向きな姿勢の現れである。
オンラインを活用した住民とのコミュニケーション
12月以降、住民との対話にも積極的にオンラインを活用している。まずはPTAとの意見交換会である。小中学校のPTAとの意見交換会は、2016年から開催し好評を得ており、コロナ禍でも開催を模索していた。
そんな中、町民の間でも若い世代を中心にオンライン会議の活用が広がっているとの情報を入手し、オンラインでの意見交換会を開催することとした。開催に当たり、各PTAに実施方法についてのアンケートを行い、オンライン、従来通りの対面、書面(WEBアンケート)から開催方法を選択してもらうことにした。その中で、PTAの会議でもオンラインを活用していた芽室西小学校のPTAの皆さんとオンラインでの意見交換会、「対話」の場を実施した。コロナ禍だからこそなおさら、町民の意見を聴く必要性を感じる場になった。
次に、町内の道立芽室高校の生徒との意見交換会である。Zoomの経験のある新聞局の生徒とオンラインで開催。高校生は、学校の会議室等から各自のスマートフォンで参加。生徒の通信料の負担を考えて役場のポケットWi-Fiを貸し出す等、配慮をした。高校生がまちづくりへの関心を広げる貴重な機会をコロナ禍でも作ることができた。
最後に、任期スタートから延期されていた議会モニター会議である。事前にオンライン環境の調査を実施し、7割のモニターがオンライン対応可能という回答を得た。オンライン環境が整わない方には議場に集まっての参加も可能とし、2021年1月、オンラインとリアルのハイブリットでの会議を開催した。
Zoomの少人数のグループで話し合う機能(ブレイクアウトルーム)も活用し、意見交換を行った。従来のモニター会議でもワークショップの手法を取り入れていたため、議員がファシリテーターとなり活発な意見交換が行われた。また、仕事や育児、介護等で参加が難しく、モニターとなることが困難と考えられていた層も、オンラインの活用により参加できる可能性に気付くことにもなった。
オンラインの流れは不可逆的
2021年3月、芽室町議会では、委員会条例を一部改正し、開催の特例として以下の条文を追加し、オンライン会議が正式に制度化された。
第13条の2
委員長は、次に掲げる場合において、委員会の開催場所への参集が困難と判断されるときは、映像と音声の送受信により相手の状況を相互に確認しながら通話をすることができる方法(以下「オンライン」という。)を活用した委員会を開催することができる。
(1)重大な感染症のまん延防止等
(2)災害の発生等
(3)その他委員長が必要と認めるとき
Withコロナの時代、新しい生活様式の広がりと共に、好むと好まざるに関わらず、オンラインによるコミュニケーションの流れは不可逆的だ。時間と距離の制約を超えられることには、新しい可能性を感じる。どこからでも参加できるので、これまで期待できなかった地域内外の広範な参加者が意見交換会等の場に集まれる。
一方、オンラインでのコミュニケーションについて否定的な意見もある。熱量が共有できないので一体感を持てない。場の空気が読めない。話し相手との相性が分からない。気持ちや真意が伝わりにくい等である。ITスキルの問題も加わり、対面でないとコミュニケーションは成立しないと考える人が多いのも事実だ。
しかし、コロナを言い訳に議会活動を止めてはいけない。時代の変化、オンラインを上手く活用して、議論をする機会、住民の意見を聴く機会、先進事例を学ぶ機会を確保する。そんな新しい議会に進化していかなければならない。芽室町議会の取り組みは、その可能性を示している。
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)を務め、現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。