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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第101回 地域の主体性、創造性、情熱の解放こそが「職員ファシリテーター」の使命 (2020/7/30 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 人材育成 公務員 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第101回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

「職員ファシリテーター」の使命

 このコラムでも何度も取り上げてきたが、「ファシリテーション」とは、「促進する」「容易にする」「円滑にする」「スムーズに運ばせる」等の意味の英語であり、「話し合いを活性化すること」として昨今一般的になってきた。また、「ファシリテーター」とは、話し合いを促進していく役割を担う人のことを指す。

 ファシリテーションによる「対話」の効果として、参加者の関心が広がり、ポジティブ思考になり、行動意欲が湧き、当事者意識が生まれ、行動変容が起きることが挙げられる。コロナ禍の中、我々は正解の分からない、ますます複雑化した時代を生きている。そんな今だからこそ、ファシリテーションの重要性が増し、ファシリテーターに求められる役割は大きくなる。組織や地域の話し合いの質が、その組織や地域の質、そして未来を決める(第92回「話し合いの質が地域、組織の質を決める」)

 今回と次回、2回にわたって、地方自治体組織の中でのファシリテーションの活用、そして地方議会でのファシリテーションの活用についてそれぞれ考えてみたい。まず今回は、「職員ファシリテーター」について考える。

職員ファシリテーターの茂原市篠田さん

職員ファシリテーターの千葉県茂原市の篠田さん

 結論から言うと、「職員ファシリテーター」には、会議やワークショップ等の場面での話し合いを促進することを越えた大きな役割を私は期待したい。それは、地域の住民や職員の「主体性」「創造性」そして「情熱」を解放する使命、ミッションである。私の持論であるが、これから特に地方で人口を増やしていくことはかなり難しいと考えている。しかし、「地域について本気になる人」を今まで以上に増やしていくことはまだまだできる。ファシリテーションを通して、「職員ファシリテーター」にはその重役を担ってほしい。

「職員ファシリテーター」の活躍の場

 「職員ファシリテーター」の活躍する場は、役所内での職員同志の場面と、役所外での住民と行政との接点の場面の大きく2つに分けられる。

 役所内での活用で一番頭に浮かび易いのは、職場内の話し合いの進行だろう。意見が出ない、議論が堂々巡りする、結論がまとまらない、そんな職場や組織の会議の課題が、ファシリテーションにより解決に向かう。また、ホワイトボード等に議論を整理する「グラフィック・ファシリテーション」(第50回「グラフィックであなたもまちづくりの担い手に」)のスキルを持つ「職員ファシリテーター」がいれば、話し合いの可視化ができ、話し合いの空中戦が避けられ、会議の生産性があがる。

職員グラフィッカーの弘前市佐々木さん

職員グラフィッカーの青森県弘前市の佐々木さん

 2つ目に考えられるのが職員研修である。ファシリテーションには、学習、成長、変化を生み出す効果もある。「職員ファシリテーター」が職員研修のプログラムを考え、講師を務めることにより、学びの質が高まり、かつ研修の内製化も図れる。特に若手職員向けの研修の場面では、講師、受講生の双方に気付きと学びが生まれる。

 役所内での一番の本丸は、「組織開発」の場面だ(第93回「人材開発と組織開発の両方を射程に入れる」)。「組織開発」とは、立教大学経営学部の中原淳教授によると、「組織を機能させるための、内外からの働きかけ」である。現在、地域の抱える課題は多様化、複雑化している。問題の因果関係が複雑に絡まり、不確実なことが多く未来を予測することが難しく、見解の相違や利害対立も多い。その結果として、絶対的な業務量は増え、職員は疲弊し、組織に「やらされ感」が蔓延している。正に組織が機能していない状態だ。

 「組織開発」は、経営トップから現場職員に至るまで、「対話」を重ねていき、自分たちの見方や前提を見直し、探求することで、一人一人の行動や考え方が変えていく営みでもある。組織の課題解決、理念浸透、ビジョン作り、そうした場で、「職員ファシリテーター」には、組織の「変革リーダー」になってほしい。

 住民と行政との接点として考えられるのは、行政の計画策定における市民参加の場面である。従来、計画作りのワークショップのファシリテーターは、専門家が担うことが多かったが、最近は「職員ファシリテーター」が実施するケースも増えてきた。メインのファシリテーターではなくとも、裏方として「場」を機能させるためには、ファシリテーションのスキルと知識はこれからの自治体職員には必須だ。

 住民自治、地域での合意形成の場においても、「職員ファシリテーター」の役割は大きい。役所組織と同様、地域での話し合いの場も機能していないことが多い。ファシリテーションにより、よりよい成果、新しい知恵が生まれ、参加者の納得、主体性の醸成を目指したい。

 まだ珍しいケースだが、議会が実施する市民との意見交換会において、そのファシリテーションを議会事務局職員が行う事例も出てきている。今後、議会の中での議員間討議のファシリテーターを事務局職員が担うことも十分考えられる。

職員ファシリテーターの伊那市唐木さん

職員ファシリテーターの長野県伊那市の唐木さん

「職員ファシリテーター」養成の要諦

 「職員ファシリテーター」の養成には、研修が必要だ。しかし、研修をただ実施してもそれを使う場面が無ければ宝の持ち腐れになる。研修と実践がセットでなければ研修の効果は薄い。研修、現場での実践、研修による振り返りといった「インターバル型研修」という研修手法もある。場数が腕を磨く。研修の目的は、個人の行動変化とそれに伴う現場の変化である。現場での実践により、「職員ファシリテーター」の動きや活躍が見える様になると、財政部門の研修実施の納得も得られやすくなる。

 また、ファシリテーションはその目的によって手法も異なる。会議の進行、合意形成、課題解決、組織変革、地域活性化、人材育成など、目的は様々だ。現場の状況、その目的に合わせた研修を人事部門は用意する必要がある。「職員ファシリテーター」としても、スキルアップ、使える武器を増やしていかなければならない。

 「職員ファシリテーター」には、どんどん多様な「対話」の場に武者修行に出てもらいたい。自分が参加者になることで、その気持ちが分かるようになる。ファシリテーターが良かれと思って強引なことをしていないか。そんな気付きもある。参加者に寄り添い、場をエスコートする。そうした謙虚で丁寧な姿勢が求められる。知識や方法論、スキル等「やり方」だけではなく、ファシリテーターとしての「あり方」も重要だ。

職員グラフィッカーの青森県藤崎町の福士さん

職員グラフィッカーの青森県藤崎町の福士さん

出でよ!「職員ファシリテーター」

 「職員ファシリテーター」の目指すゴールは、住民や職員の「主体性」「創造性」そして「情熱」を解放することだ。「職員ファシリテーター」が創る対話の場により、参加者の関心が広がり、ポジティブ思考になり、行動意欲が湧き、当事者意識が生まれ、行動変容が起き、その結果として「地域に本気になる人」が増える。「地域に本気になる人」の試行錯誤からこそ「イノベーション」が起きる。それが、本来目指すべき「地方創生」の姿である。

 志ある「職員ファシリテーター」が全国にたくさん現れることを期待するとともに、私もその発掘と育成に尽力したい。

 

佐藤淳氏早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)を務め、現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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