【早大マニフェスト研究所連載/週刊 地方議員】
第23回 会派マニフェスト作成を通して政策形成能力を向上~三沢市議会会派「みさわ未来」の取り組み~ (2013/4/11 早大マニフェスト研究所)
ご好評いただいている「早稲田大学マニフェスト研究所」連載。今週は各地の議会改革や独特の取り組みなどをご紹介する「週刊 地方議員」をお送りいたします。今回は、市民と一緒にワークショップを重ね、会派マニフェストとして政策をまとめあげた青森県三沢市議会会派「みさわ未来」の取り組みをご紹介します。
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会派マニフェスト作成を会派の会則に
青森県三沢市議会の会派「みさわ未来」(野坂篤司会長ほか4人)は、市民とのタウンミーテイングを通して会派マニフェストを作成し、完成したマニフェスト「みさわドリームプラン」を市長に提出、回答を受け取るなど、会派としてのマニフェスト・サイクルを回し、自らの政策形成能力を高める取り組みが評価され、第5回、第6回とマニフェスト大賞「地方議会部門優秀賞」を2年連続で受賞しました。
「みさわ未来」の活動のスタートは、2010年3月の会派結成時にさかのぼります。従来のポスト目当てや、仲良しクラブといった会派ではなく、政策集団としての会派を目指し、全国的にも珍しい会派の会則を結成に際して定めました。その会則の中には、(1)会派の活動状況を報告する「議会報告会」の開催、(2)市民の生の声を政策に反映させるために「タウンミーテイング」を開催、(3)会派マニフェストの作成、(4)研修会の開催、(5)会派情報誌の発行――などを明記しています。
タウンミーテイングにより市民意見を集約
この会則に基づき、「みさわ未来」では2010年6月から、三沢市内の各地で「議会報告会&タウンミーテイング」を各定例会後に開催しています。会派マニフェストの作成に向けては、6回にも及ぶタウンミーテイングを開催。ワークショップの手法を活用しながら、市民からの意見をまとめていきました。
ワークショップの進め方としては、まず参加した市民の方に、5~6人程度のグループに分れてもらいます。各グループには会派の議員が入り、進行役=ファシリテーターとなって、話しやすい雰囲気づくりと、議論の進行を行います。参加者の方には、付せんに、三沢市の現状、目指すべき未来像、未来像実現のための方策を、それぞれ書き出していただき、その出された意見を、(1)行財政・議会、(2)生活・環境、(3)健康・医療・福祉、(4)産業・経済、(5)建設・都市計画、(6)教育・文化――の6つの政策分野に分けて意見を集約していきます。
最初は何が始まるか警戒し、遠慮していた参加者の方も、話し合いが盛り上がってくると、自然と立ち上がり、中には熱弁を奮う方も出てきました。まとまった意見は、会派の議員がグループの代表となり、議論の経過も含めて発表します。このワークショップの特徴的なところは、最後に参加者が各グループから出された個別の意見に対して投票を行い、優先順位を決めることです。こうしたワークショップを通して、市民と議員が三沢市の課題とその解決策、優先順位を共有することになります。
会派マニフェストを市長に提案
6回、延べ200人の市民の参加で開催されたタウンミーテイングで集約された市民の意見を踏まえ、最終的に会派議員によるワークショップを実施しました。あるべき三沢市の姿の議論、課題抽出、課題ごとの政策提案、財源の議論を行い、「〈市民と協働のマニフェスト〉みさわドリームプラン~市民の8つの声と20の提言がみさわの未来を変える」という名称の会派マニフェストを、2011年3月にまとめ上げました。
この「みさわドリームプラン」には、「一次産業の更なる振興を目指してほしい!」「雇用の場をもっと増やしてほしい!」「高齢者、障害者、生活弱者対策を強力に進めてほしい!」等の三沢市の課題が市民の8つの声として挙げられ、その課題に対して「地産地消条例を早期制定します」「起業支援対策を充実します」「独居老人対策を見直します」など、20の政策提案が示されています。また、「みさわドリームプラン」は、詳細版と概略版が作成され、詳細版はホームページにアップし、概略版は「みさわ未来」の広報誌「未来からの風」に掲載して、新聞折り込みなどで市民に広く公開しました。
マニフェストは作成して終わりではなく、そのマニフェストを広く市民に伝える努力をすることが重要です。また、2011年4月に市長選挙を控えていた現職市長に対して、この会派マニフェストを提示し、市長選挙のマニフェストに取り入れるように要望し、回答を文書で受け取り、すべてではありませんが、一部は反映させることができました。結局、市長選挙は無投票になりましたが、市長のマニフェストに反映されなかった政策は、議会の一般質問の場などを活用して、随時提案をしています。
ワークショップの実践により議員の政策形成能力を高める
これまでの活動を振り返って、「みさわ未来」の幹事長の太田博之議員は、次のように話しています。「市民の声を会派マニフェストに反映させる手法として、ワークショップを取り入れることに対して、当初会派の一部のメンバーからは異論もありました。もっと直接的に要望を聞くべきだなどと。しかし、最終的には、市民とワークショップを行うことで、市民が今まで気付いていなかった地域の問題を自ら発見し、その解決に向け話し合う姿を目の当たりにして、“地域の力”を引き出すことができたと思っています。それがわれわれ会派にとって一番の収穫であったと思います」
「みさわ未来」が実践してきた、市民と一緒にワークショップを重ね、会派マニフェストとして政策をまとめあげる手法は、会派マニフェストを作成するためだけではなく、自治体の総合計画作成に議員が関わり市民の声を集約する場合や、毎年の会派の予算要望に市民の声を反映させるツールとしても幅広く応用が可能です。市民の中に議員が飛び込み、市民の議論のファシリテーターとなり意見を集約していく。そうした実践を通すことで、議員の政策形成能力が飛躍的に高まっていくと思われます。
青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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