第2回 日本版IRの課題-前編-小説家・真山仁氏講演「カジノはバラ色か」  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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政経セミナー「専門家の目線で、政治・経済がわかる!」

第2回 日本版IRの課題-前編-小説家・真山仁氏講演「カジノはバラ色か」 (2017/9/29 パシフィック・アライアンス総研株式会社)

関連ワード : カジノ 

 2017年8月30日(水)、『90分で分かる政経セミナー(第2回)』が開催されました。第2回となる本セミナーの講演テーマは「日本版IR(カジノを含む統合リゾート)の課題」で、講演者は大ヒット小説「ハゲタカ」シリーズの小説家・真山仁氏、モデレーターは渡瀬裕哉氏(パシフィック・アライアンス総研所長)になります。

 この日の講演者である真山氏は、新聞記者、フリーライターを経て2004年『ハゲタカ』でデビュー。その後も、日本の食と農業に斬り込んだ『黙示』、日本最強の当選請負人が主人公、選挙の裏側にスポットを当てた『当確師』、被災地の小学校を舞台にした連作短編集『そして、星の輝く夜がくる』『海は見えるか』、カジノと地方再生をテーマにした『バラ色の未来』など、幅広い社会問題を現代に問う小説を発表しています。最新刊は、『売国』に続く東京地検特捜部の冨永検事シリーズ『標的』(文藝春秋、2017年6月刊)。

講演する真山仁氏

 本セミナーでは、同氏から「日本版IR(カジノを含む統合リゾート)の課題」についてお話いただきました。本セミナーの様子は、上・下(講演・質疑)に分けて配信されます。

日本版IRに不可欠なカジノ

 今年の2月末に『バラ色の未来』という小説を発表しました。そこでIRを取り上げていることから、本日お話させていただきます。

 IRは統合型リゾートの略で、IRを推進している人の前で「カジノのことでしょう」と言うと必ず訂正されます。というのも、IRの施設面積でみれば、全体の5%くらいしかカジノには使いません。IRは、人を集めたり、交流したりする、いわゆる“ハブ”のようなものです。企業等の会議や研修、展示会などを行えるようなホールやコンベンションセンター、ホテル、アミューズメント施設やショッピングモールなどをまとめることで、色々な人が行き来し、そこで出会いがあったりビジネスが起きたり、あるいはエンターテインメントのリピーターが増えたりします。つまり収益の高いカジノとともに様々な集客施設を集め、国際的な観光区域をつくり出すことがIRの目的とされています。

 しかし、よく考えてみれば、今の日本にはカジノ以外は全てあります。なのに、なぜ法律を作ってまでIRを推進する必要があるのか。

 関係者の方たちに「試しに最初はカジノは無しで、IRを作ったらどうですか」と言ったら、「意味がない」と言われました。「なぜ意味がないんですか?」と聞いたら、「それではIRとして大切な要素が欠けてしまう」と。結局はIRという名の下でカジノを合法化して、日本初のカジノを作りたいのだろうと思わざるを得ません。

カジノという幻想

 IRのもうひとつの目的に“地方創生”が掲げられています。新しい成長産業だと強調する人もいます。ですが、ちょっと待って欲しい。本当にカジノ1つで、先進国の日本が元気になるのか。かつてカジノを成長産業の柱と位置づけた先進国などありません。

 カジノには「お金儲けができるシステム」があるからカジノさえ導入すれば幸せになれるという幻想があります。つまり、少なくともデベロッパーと旅行会社が儲かるし、ラスベガス、マカオやシンガポールといったカジノのある都市はすでに儲かっているではないかと。

 現実には今、カジノでお金儲けができているのはマカオだけで、ラスベガスは相当厳しい状態にあります。アメリカの他のカジノは州によっては追放されていますし、カジノ自体経営ができなくなり倒産してしまったところも多い。実はカジノだけでは駄目だから、テーマパークを作ったり、あるいは、コンベンションセンターを作ったりしたっていうことです。そういうやり方で成功したのがシンガポールで、サンズという会社(編集部注:カジノ運営の世界最大手、米ラスベガス・サンズ)によるマリーナベイ・サンズはIRビジネスの成功例と言われています。

バラ色のカジノ

 日本で第1号となるIR候補地としては東京、大阪、横浜が有力と言われていて、かなり大きなカジノを誘致しようとしているようです。年間売上は7,000億円から1兆円くらいを目指しているそうで、だからカジノは儲かると言われています。しかし、この数字を簡単に信じてよいものかどうか。

 カジノではお客様からお金を奪い取らないと売上にならないわけです。すご腕のディーラーを育てることから始めなくてはなりません。シンガポールでは税金として上前をはねています。そういった仕組みを作らないと、アメリカの様々なビジネス経験をもったカジノですら回らないそうです。国会議員の皆さんは地元のいわゆる有力者たちにいろいろな“美味しいもの“を分け与えようとしているのですが、それをやると「即赤字」になるそうです。

 IRを成功させるには、海外からの旅行客にとって交通の便がよくないといけません。地方のIR誘致競争で、「IRを呼ぶためだから、空港を拡張工事しよう」と言って、県がなけなしのお金をはたいて、「滑走路を伸ばしたが負けました」というような悲劇が起こるかもしれません。IR効果で土地が高騰して、もしかしたら新幹線を誘致するくらいの久しぶりのバブルが期待されるかもしれません。日本はかつて何度もこういう「バラ色」に見せかけた話を持ち上げて、地方を大喜びさせた挙句、荒れ地にしてしまったり、廃墟を産んでいます。

 カジノを作ることがバラ色の未来につながるのか、幻想に惑わされていないのか。IRを現実に推進する前にもう一度考えた方がいいと思います。

 例えば、日本のカジノはなかなか儲からないよねって噂がたったら中国人はもう来ない。そういうことを考えると、カジノにインバウンドを求めるのは危うい。成長産業として観光を考えるという意味では、IRを起爆剤にするというのは間違っていると思います。

 和歌山県に英会話の講師で来ているスペイン人がいます。その人がスペイン語で熊野古道の素晴らしさをブログに書いていたら、そのおかげで、大勢スペイン人が来るようになった。こういう観光客はリピーターになってくれますし、その場所を荒らさない。日本のファンになってくれたら、他の街にも関心を持ち、また旅行に来ようと思うはずです。新たにカジノを作るよりも、今あるものを見つめ直し、外国の人がよいと感じる部分を上手に発信していく方が、有効なのです。

 日本にカジノは必要なのか、この国の経済を成長させるとはどういう意味があるのか、私たち一人ひとりが考えなければいけない時が来ています。

セミナーの様子

セミナーの様子

『90分で分かる政経セミナー(第2回)』
テーマ「日本版IR(カジノを含む統合リゾート)の課題」

講演者:真山 仁
小説家。1962年大阪府生まれ。新聞記者、フリーライターを経て2004年『ハゲタカ』でデビュー。2007年に『ハゲタカ』『ハゲタカⅡ』を原作とするNHK土曜ドラマが放映され話題になる。2016年には『売国』がテレビ東京でドラマ化された。
「ハゲタカ」シリーズのほか、日本の食と農業に斬り込んだ『黙示』、日本最強の当選請負人が主人公、選挙の裏側にスポットを当てた『当確師』、被災地の小学校を舞台にした連作短編集『そして、星の輝く夜がくる』『海は見えるか』、カジノと地方再生をテーマにした『バラ色の未来』。など著書多数。幅広い社会問題を現代に問う小説を発表している。最新刊は、『売国』に続く東京地検特捜部の冨永検事シリーズ『標的』(文藝春秋、2017年6月刊)。
モデレーター:渡瀬 裕哉
パシフィック・アライアンス総研所長、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。1981年生まれ。東国原英夫氏など自治体の首長・議会選挙の政策立案・政治活動のプランニングにも関わる。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することから Tokyo Tea Party を創設。全米の保守派指導者が集う FREEPAC の日本人初の来賓。その知見を活かして、日米の政治についての分析を発信している。著書に「トランプの黒幕」(祥伝社)。
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