住民の幸福度から見る「より幸せになる地方創生とは?」
第5回 学ぶと幸福度って上がる? (2017/12/15 PB地方創生幸福度調査検討委員会 事務局)
本連載では、PB地方創生幸福度調査検討委員会(事務局 パイプドビッツ パイプド総研)による全国2万人の幸福度調査結果の紹介や、委員会の有識者との対談など、「地方創生」と「幸福度」の関係性を読み解いていきます。
第5回は、「社会人の学び直し・生涯学習と幸福度」テーマに、生涯学習イベントへの参加経験と幸福度について検証していきます。
「学び直すこと」と地方創生の関係って?~地方創生と社会人の学び直し・生涯学習~
現在、社会人の再学習および社会人への再教育を行う「社会人の学び直し(リカレント教育)」が政府において注目されています。再教育によって従業員の生産性を向上させることが日本経済の最重要課題と位置づけられており、安倍首相が議長を務める「第3回人生100年時代構想会議」(11/30開催)の議題として挙げられました。
「社会人の学び直し」は、「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」生涯学習社会の実現へ向けた取り組みの一つとされています。1981年に文部科学省・中央教育審議会にて「生涯学習」という言葉が登場して以来、その実現へ向け取り組んでいます。地方自治体では、「生涯学習推進センター」を設置し、学習相談や学習プログラムの開発を行うなど、地域における生涯学習を推進し、住民の参加を促進しています。
生涯学習イベントに参加すると幸福度が高まる~生涯学習イベントと幸福度~
では、自治体が開催している生涯学習に関するイベントに住民は参加しているのでしょうか。本調査には、地域で開催されている生涯学習イベントへの参加を示す設問があるので、調査結果から生涯学習イベントへの参加率をみてみましょう。
生涯学習イベントへの参加率(「参加経験あり」の割合)を年代別に示す(図1の縦棒グラフ)と、全体の参加率は12.65%と少なく、特に30~40代の参加率が比較的低い「U字型」となっています。
ただし、生涯学習イベントの参加経験者と未経験者とで幸福度※の平均スコアを算出する(図1の折れ線グラフ)と、生涯学習イベントの参加者は、参加経験がない人と比べて幸福度が109%に高まることが示されています。生涯学習イベントに参加することと幸福度には相関があるようです。
※本調査における幸福度は、1~10点(「とても不幸せ」を1点、「とても幸せ」を10点)のうち、自身に当てはまる数字を1つ選んでいただきました。全回答者の平均値は6.65でした。
生涯学習イベントへの参加率は既婚者が高く、幸福度も高い~生涯学習イベントと幸福度×未既婚~
生涯学習イベントに参加すると幸福度が高まりますが、その参加率は低いようです。では、生涯学習イベントに参加する人とはどんな人なのでしょうか。
「生涯学習」は子どもから年配の方まで「生涯のいつでも」学ぶ機会が与えられることを目的としています。そのため、結婚している方、していない方、子どものいる方、いない方など、どの世代の方も一緒に参加することができます。そこで図1で示した「生涯学習イベントへの参加と幸福度」を未既婚別・子どもの有無で分け、既婚者や子どものいる方の参加率や幸福度をみてみましょう。
まずは未既婚別に生涯学習イベントへの参加割合と参加者の幸福度を算出しました(図2)。全般的に既婚者の参加率が高い傾向にあり、未婚者と比べて参加率が149%に上昇することが示されています。また、生涯学習イベントに参加経験がある既婚者の幸福度が未婚者よりも高いことが示されています。
生涯学習イベントへの参加率は既婚者が高く、幸福度も高い~生涯学習イベントと幸福度×子どもの有無~
次に、子どもの有無別の生涯学習イベントへの参加割合と参加者の幸福度を算出しました(図3)。図3より、子どものいる方の参加率が子どものいない方と比べて143%に上昇していることが示されており、参加者の幸福度も、子どものいる方がより高いことが示されています。
本調査結果より、既婚者や子どものいる方の参加率が高く、幸福度も高い傾向にあります。既婚者や子どものいる方の参加率が高い傾向にあるのは、家族でイベントに参加していることが考えられます。そうした家族層をターゲットに、子どもでも参加できるような生涯学習イベントを企画するのがよいのかもしれません。また、生涯学習イベントの参加者に社会人の学び直しイベントの告知を行うことで、「学ぶ」ことに興味を持った方が社会人の学び直しイベントにも興味を持ち、参加するかもしれません。
ただし、生涯学習や社会人の学び直しに関するイベントを地域で開催し、多くの方に来ていただくには、地域の特性を踏まえることが重要になります。図4は生涯学習イベントへの参加率と幸福度について、都道府県別に分けたものです。生涯学習イベントへの参加率が高いが幸福度が低い県は、生涯学習環境を充実させるなど、住民が実感し、幸福度が高くなる施策を行う必要があります。また、生涯学習イベントへの参加率が低く、幸福度も低い県は、まずは地域の中で生涯学習イベントへ参加する方がどんな方か検討し、生涯学習イベントへの参加率を高めるための施策を行う必要があるでしょう。
読者のみなさまが住む都道府県はどの位置にあるでしょうか。その位置を見てどんな施策をするべきか考えてみるのはいかがでしょうか。
次回は、「生涯現役」に焦点を当て、60歳以上の方々の就業形態や仕事に対するモチベーションと幸福度との関係について検証していきます。
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- ■パイプド総研(事務局)
- 株式会社パイプドビッツにおいて、社会における様々な問題の解決のための政策やICT技術、また関連する先進事例について、社外の専門組織、企業、地方自治体等との協力関係のもと調査研究を進めるとともに、地域や民間組織等具体的な場面での実現・実証を行い、それらの成果を社外に広く発信するために設置している組織です。<パイプド総研とは>
- ■PB地方創生幸福度調査検討委員会(委員長: 政策創造塾塾長/明治学院大学学長特別補佐(戦略担当) 伊藤健二)
- パイプド総研で運営している「政策創造塾」において、「地方創生」を幸福度の観点から検証するため、全国2万人以上を対象とした、住民の「幸福度」及び「働き方」「生活意欲」等に関するアンケート調査を実施するために発足した委員会です。リクルートホールディングス、みずほ銀行、NTTデータ経営研究所等の有識者に参加頂き、荒川区、和歌山県に協力頂いています。<委員会メンバー>
- 関連リンク
- 調査レポート(PB地方創生幸福度調査)
- 政策創造塾