【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第90回 品川区の教育改革 (2014/6/18 東京都品川区議会議員 高橋慎司氏/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第90回は、東京都品川区議会議員の高橋慎司氏による「品川区の教育改革」をお届けします。
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東海道第一の宿 品川
まず、クイズです。
次のうち品川区にないものはどれでしょうか?JR品川駅、JR目黒駅、大森貝塚遺跡(縄文時代の遺跡)。
JR品川駅で有名な品川区は……と言いたいところですが、クイズの正解は、JR品川駅です。港区にあります。
さて、品川区は、東京都の南東部に位置し、東京湾に面した臨海部と山の手に連なる台地からなり、古くから交通、交易の拠点として栄えました。日本考古学発祥の地として学校の教科書にも掲載されている大森貝塚遺跡などの史跡も多く、江戸時代には東海道第一の宿としてにぎわい、明治時代からは、京浜工業地帯発祥の地として発展してきました。
現在、羽田空港(大田区)の国際化、JR品川駅(港区)へ新幹線の停車、リニア中央新幹線の乗り入れなど、交通、産業の拠点として重要な役割を再び担おうとしています。2020年東京オリンピックでも区内2カ所で競技開催の予定です。
人口は370,754人(2014年5月1日現在)、面積22.72平方キロメートル、2014年度一般会計予算1,462億3,700万円です。さまざまな指標は、東京23区でおおむね中位です。議会定数は40(現在38人)。
教育改革『プラン21』
品川区では、2000年から教育改革「プラン21」がスタートしました。これは、「学校、教員が変われる」ためのシステムを構築するために、品川区が区内の公立学校の現状を踏まえ、独自に編み出し、実践してきた教育改革施策の基本方針です。このうちの柱となる施策をいくつか述べてみたいと思います。
学校選択制
学校選択制は、2000年に小学校、2001年に中学校で導入されました。2013年度の入学者のうち、学校選択希望者は、小学校26.7%、中学校30.7%です。これは、導入当初は、それぞれ12%、17%でしたが、2007年度からほぼこのぐらいの数字で推移しています。
学校ごとに特色ある教育活動を展開し、個性的な学校づくりを進めるとともに、より子どもに適した教育を受けさせたいという保護者の願いに沿った学校が選べる、という理由で導入されました。品川区が行った保護者アンケート(2013年3月)では、学校選択制継続希望についての問いに対して、「そう思う」32.3%、「ややそう思う」31.2%で、「あまりそう思わない」19.4%、「そう思わない」11.5%という結果です。保護者の期待に応え、学校現場に刺激を与え、教員の意識改革、学校改善の機会となっている側面もありますが、一方で、学校選択により入学者が減少する学校が生じ、学校選択の理由として、「校舎」「学校規模」「制服」、いわゆる「風評」など、学校の努力と別の要因が働いている場合もあります。また、「子どもや保護者と地域とのつながりが薄くなってしまった(地域から離れた学校を選択した場合)」、という地域の方々からのご意見もあります。
学校としては、教育活動の特色や魅力を自らが丁寧に保護者や地域に対して発信し、「風評」等を払しょくし、保護者に理解してもらう努力が必要です。また、教育委員会は、人事や予算といった学校努力だけでは、なかなか改善が困難な要素を支援する必要があります。そして、導入から10年以上たった今、アンケートレベルではない、学校選択制の検証を行い、次のステージの構築を行う必要があると思います。
小中一貫教育
2003年に小中一貫教育特区に認定され、2006年に「施設一体型小中一貫校日野学園も開校し、「品川区小中一貫教育指導要領」に基づいた小中一貫教育がスタートしました。その後、2013年まで、ほぼ毎年1校ずつ開校し、現在、施設一体型小中一貫校(同じ施設に小学校と中学校が存在)は、6校です。
小中一貫教育は、小・中学校を見通し連続性・継続性のある教育活動の中で、1人ひとりの個性や能力を伸ばす目的でスタートしました。
従来からある小学校と中学校の相互不信感と責任転嫁が、義務教育の小中9年間の連続性を阻害している側面があります。この2つの学校文化を融合させるために一貫教育が導入されました。「小学校と中学校の連携」の必要性を繰り返し指摘されながら、形式的な連携にとどまっていた状況でした。
施設一体型小中一貫校(6校)では、文字通り、同じ校舎で1年生から9年生(=中学3年生。品川区では、中1は7年生、中2は8年生、中3は9年生と呼びます)まで、9年間を見通した教育活動を行います。また、施設分離型小中一貫校は、既存の施設を活用し、例えば、近隣の中学校1校と小学校2校がそれぞれの組織等を維持しながら、具体的に連携を行います(多くの学校がこのタイプ)。
施設一体型では、1つの施設という利点を生かし、小中学校が1つの組織として、さまざまな取り組みをしています。一方、施設分離型は、施設は別ですが、これまで「形式的」であった連携は、定期的な授業交流、教員組織の連携、合同行事など「具体的な連携」という教育活動となっています。しかし、施設が離れていることの限界など、課題があります。
4・3・2のカリキュラム
6-3制が施行された時代から、子どもの心身の発達状況や取り巻く社会状況が大きく変化してきています。小中一貫教育では、最近の子ども発達状況から、1~4年、5~7年、8・9年というまとまりでカリキュラムを作成し、教育活動を行っています。この「4・3・2」の区切りとカリキュラムについては、学校も保護者に説明していますが、なかなか伝わりにくいという現実があります。
この他にも、小中一貫教育では、1年生からの「英語科」、5年生からの教科担任制、「市民科」(品川区独自の教科。児童・生徒が将来にわたって必要となる資質・能力などを系統的に育む)といった品川区独自の教育活動を行っています。
ところで、先ごろ、政府の教育再生実行会議は、9年間の義務教育を一体として実施する「小中一貫教育学校」(仮称)の制度化を求める提言素案を示しました。2014年8月の学制改革の提言に小中一貫教育の制度を盛り込み、政府は、この提言を受け、今夏にも制度設計を中央教育審議会に諮問し、来年の通常国会に学校教育法に新たな種類の学校を設ける改正案を提出する方向です。制度化により、「4・3・2」や「5・4」など、現在の「6・3」の区切りの弾力化や品川区の「市民科」のような独自教科の設置などに関して、特区の申請が不要になり、自治体の判断で教育課程(カリキュラム)の編成が可能になります。
最後に
教育改革「プラン21」は、2000年度の導入から10年以上が経過しました。施設一体型小中一貫校の建設も、2013年度開校の一貫校で1つの区切りとなります。
さらに2014年度は、小中一貫教育全区展開初年度に1年生だった児童が9年生となる節目の年でもあります。9年間の教育改革の成果と課題、改善すべき点を整理するとともに、さまざまな視点で区民や専門家を交えて検証し、今後の教育施策の新たなステージへのステップとする時期が来ていると思います。議会の中でも活発な議論をして参りたいと思います。
- 著者プロフィール
- 高橋 慎司(たかはし しんじ):生まれも育ちも東京都品川区。早稲田実業高校、早稲田大学(政経学部政治学科 専攻は地方行政)、同大学院博士課程満期修了。東大研究員などを経て、教師(22年間。早稲田実業高、都立日比谷高・青山高・大森高など)。「地元・地域のために仕事をしよう!」と区政にチャレンジ。平成19年4月、無所属・新人として初当選。現在2期目(無所属)。『議員力検定1級』(平成22年合格)。
HP:品川区 高橋しんじ
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