第45回 ネット選挙解禁で何が変わったか(1)<有権者編>  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第45回 ネット選挙解禁で何が変わったか(1)<有権者編> (2013/7/31 武蔵野市議会議員 川名ゆうじ/LM推進地議連)

関連ワード : ネット選挙 全国 参院選 川名雄児 東京 

政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。今回は特別編として、ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟事務局長で東京都武蔵野市議の川名ゆうじ氏に、ネット選挙解禁前に実施された東京都議会議員選挙と、解禁後に実施された参議院議員選挙を対比し、ネット選挙がどう選挙を変えたのかを分析していただきました。

›› 2ページ目『ネット選挙解禁で何が変わったか(2)<地方議員選挙編>』

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 ネット選挙が解禁された初の選挙が終わった。参議院議員選挙の結果については、いろいろな思いがあるだろうけれど、注目されていたネット選挙解禁で何が変わったのだろうか。

 参院選の直前に行われたネット選挙解禁前の最後の旧来型選挙「東京都議会議員選挙」、ネット選挙解禁となった「参議院議員選挙」で、選挙対策本部(選対)に関わってきた立場、そして、有権者としての視点から、特に注目されていたfacebookとtwitterを中心にネット選挙解禁について考えてみたい。

 はたして、ネット選挙解禁は選挙を変えたのか。そして、地方議員選挙にどのような影響があるのだろうか?

昼ご飯の内容は分かるようになった

東京都武蔵野市議 川名ゆうじ氏

東京都武蔵野市議 川名ゆうじ氏

 参院選では多くの候補者がfacebookやTwitterを開設していた。参院選だけではなく、私が知る限りで12の地方議員選挙がネット選挙解禁後に行われており、すべてではないが、選挙期間中の様子を見させていただいていた。

 この解禁後の流れで興味深い出来事は、facebookの「いいね!」とtwitterのフォロワーを水増ししたことで、公職選挙法の経歴詐称に当たる恐れがある候補者が指摘されていることだ(毎日jp 7月22日)。記事によれば、facebookで「いいね!」がされた数のうち、日本からは5%ほどで、ほかの約80%はトルコからのアクセスだったという。トルコでどれだけの人が日本語のサイトを見るかは分からないが、普通に考えればあり得ないことだ。

 真実は今後を待ちたいが、いわゆる選挙コンサルタントにお任せで言われるがままだったと容易に想像がつく。普段から開設していれば、相応の数はあるはずで、ネット選挙解禁の急ごしらえだったのだろう。

 ネット選挙でお金のかからない選挙ができるとも言われることがあったが、こと国政選挙となると、候補者本人が自ら更新することはほとんどなく、システムに加え更新する人も必要になり、さらに手間、お金がかかる選挙になってしまったのではないだろうか。特に、ネットに詳しくない候補者にとっては、初のネット選挙解禁で注目されていることもあり、業者の言いなりの急ごしらえが目に付いた選挙だったともいえる。従来の選挙でも、単にチラシを載せているだけの「取りあえず作りました」的なサイトが多かったが、それが選挙期間中でも更新できることもあり、「取とりあえず」的な更新が続くサイトが少なくはなかった。

 facebookを自ら開設し投稿を続けている人なら分かるが、政治的な話題への「いいね!」は少なく、食事ネタや面白ネタへの「いいね!」が多いのが事実だ。そのため、炎上を防ぎたい、余計な対応をしたくないばかりに、平時と同じような投稿が目立っていた。かつ丼にこだわる候補者が多いなど、おかげで昼ごはんに何を食べているかが分かったネット選挙解禁だった。

反論はできたが

 都議選では、普段からfacebookとtwitterを活用する候補の選対にいたので、活用できないことが悔やまれていた。身に覚えのない話が流れ反論したとしても、街頭演説や電話で話せた人にだけしか伝えられなかったからだ。選挙期間中に有権者の関心が電話などで分かるにつれ、選挙のテーマを絞っても対応ができなかったジレンマがあった。「ネット選挙が解禁されていれば」と思うことが多々あった。

 しかし、ネットが解禁された参院選ではどうだったか。結果から言えば、ネット活用だけで当選した人がいるようには思えない。自民党と共産党がうまく活用していたが、今回の選挙は選挙前から自民党の圧勝が伝えられ、結果も同じだったように、ネットぐらいでは票が動かないような選挙だったからだ。

 唯一、東京選挙区の無所属候補が支援者により情報が拡散され票に結び付いたように思えるが、その反面、この無所属候補周辺から出される情報への反論の発信も多く出されていた。どちらが正しいのか、票に結び付いたかは判断できないが、都議選でできなかったことが可能になっていたのは確かだった。

 しかし、ネット選挙解禁で期待されていた双方向の議論には、残念ながらなってはいなかった。野球で例えれば、グランド内で試合をしておらず、選手が観客席、それも、自らの応援団に向かってボールを投げ合っているだけで、グランド内で勝負とはなっていなかったと思う。発信はするが、自らの支援者への発信だけで候補者同士、支援者同士が冷静に議論せず、根拠が明確ではないうわさ話レベルの情報が飛びまくっていた、あるいは、単に応援しようという投稿だけがネット上を駆け廻っていた。

落選運動が可能に

 宮城選挙区では、対立する候補へのネガティブキャンペーンが行われ、その結果もあってか参院選前の予想とは異なった当落結果になった(MSN産経ニュース 7月23日)。ネガティブな話はネット上を駆け巡り、いわゆる「落選運動」となっていたのだ。ここでは批判された候補者のネット上での反論はほとんど見ることができなかった。ネットだけではないが、「実はあの人はね」といった悪いウワサ話はすぐに広がり、あの人はとてもいい人といった話は広がらないものだ。

 宮城でのケースが事実かどうかはここでは判断できないが、ネット選挙解禁以前は、選挙期間中に候補者の名前を書いたものをネット上で掲示することができなかったため、いわゆる怪文書が配布されていた。しかし、これからはネット上で拡散することが可能になったのが、「ネット選挙解禁」とも言える。「この候補に投票しますか?」と悪い印象になる写真1枚だけを「事実」として拡散させて投票行動を左右させることが可能になったのだ。

 対抗陣営がネット選挙に力を入れていないと、話は広がるばかりになる。広がった後で反論をしても追いつかないのが実情だ。当初から拡散させる人材を確保しておくのが、ネット選挙の重要なポイントだろう。

有権者にとっては

 内容の真贋は別として、投票したい候補を決めていない有権者にとっては、さまざまな情報が駆け巡ったネット選挙解禁後の選挙はどうだったろう? ウルサイとよく批判される街宣車のように、候補者側の都合で勝手に情報を流すだけでは、音を文字に変えた街宣車がタイムライン上を走り回っていたかのようで、冷静に投票行動に生かせるような情報が流れていなかったのではないだろうか。どこで演説するとか、昼ごはんに何を食べた程度では、政策で判断しようと考えている有権者にはあまり意味がないのだ。

 ここまでの感想からすれば「ネット選挙解禁は意味がない」となってしまう。しかし、それでも意味はあったと思う。

 今回、いろいろな候補者を調べてみたが、結局役に立つ情報を得られたのは、facebookとtwitterにあった情報ではなく、ブログや候補者の公式サイトだった。そこに、今までどのような実績があり、どのような政策と課題解決手段を持っているかが掲載され、さらに、分かりやすく整理され読む気になる、そんなサイトが私としては非常に参考になった。議員のチラシによくある「私は質問しました」とか、議事録をそのまま載せているような内容では、読み手としては読む気が起きない。何をどのように質問して、その結果は何か。分かりやすまとめてあれば読む気が起きるが、まとめていない(編集されていない)情報では、通り過ぎていく街宣車の騒音、ネット上の無意味な投稿と同じになってしまう。要は伝え方に1番の課題があると改めて思ったのがネット選挙解禁だった。

 そして、有権者が判断できるようなコンテンツを持っているか。選挙時に付け焼刃で作るサイトではなく、普段から作り上げてきたかが問われるのだ。早い話、日常活動がしっかりしていないとネット選挙という道具が解禁されても、道具に振りまわされるだけになってしまうことになる。(次ページへ続く

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