【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第12回 「素直な笑顔があふれるまちづくり」住民の期待に応える組織となるために (2015/10/29 長野県松本市 建設部 都市政策課 係長 柳澤均)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的にリーダー育成する、自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。第12回は長野県松本市 建設部 都市政策課 係長の柳澤均さんによる「『素直な笑顔があふれるまちづくり』住民の期待に応える組織となるために」をお届けします。
コミュニティ・デザインと行政の役割
私は1992年の入所から23年間のほとんどを、道路や公園の整備など様々な公共事業の計画や実施に携わってきました。その間、市民生活の利便性や安全性を向上させる社会基盤の整備は常に発展を続けてきましたが、従来の役所主導から地域住民との対話が重要な時代へと、行政の役割や市民のニーズが変化してきていると感じています。
松本市では、政策方針である「~『健康寿命延伸都市・松本』の創造~」に、昨年より「美しく生きる。」を加えました。「いのちを大切にするまちづくり」や「量から質への転換の時代」に住民それぞれが満足を感じ、「素直な笑顔」があふれるまちづくりを目指しています。
ワークショップなどがまちづくりの様々な場面で開催されるなど、時代が変わりつつあります。人のつながりを強くし、住民の皆さんがまちづくりを一人称で捉え、地域の一員として自らがまちづくりに関わりを持ち、まちを良くするために何をするべきかを考えてもらう「仕組みづくり」が必要です。
ますます加速する「超少子高齢型人口減少社会」において、地域の特色や独自性を生かし、市民の皆さんが活き活きと暮らせる社会を作るため、行政は“黒子”として、市民目線でコミュニティをデザインする組織が求められています。
人材マネジメント部会への参加
2014年4月、行政改革により誕生した都市政策課に都市計画担当係長として配属されました。将来のまちが目指すべき姿を描きながら必要な政策を練る、重要なポジションです。
時を同じくして、人材マネジメント部会(以下、部会)に参加する機会をいただきました。「新たな職場」「新たな立場」という大きな転換期に、組織のあり方や自らの行動力を問う研究会に参加したことで、いろいろな気付きがありました。
「何がマズいのか」「何を改革するのか」「何が求められているのか」。組織にいるとそんな疑問を常に感じながら、一方でその答えを「腹落ち」させて事を進めるのは難しく、永遠のテーマだと思っています。私は部会に参加して、常にこのモヤモヤ感と対峙(じ)し、とても刺激的な1年間でした。
松本市は人材マネジメント部会へ2013年度より参加してします。1期生が中心となって自主勉強組織「M.A.T.T.」(マット=松本の、明日の、ための、対話の略)を結成し、定期的な座談会を開催して、庁内に対話の機会や場面の創出を図っています。
そして、2期生である私たち3人は、目指すべきあるべき姿を「素直な笑顔があふれる職場」として、「意識していなくとも自然と笑顔で人に接し仕事ができる」、そんな環境づくりを進める施策として「部局や職層を超えたダイアログ(対話)研修」の実施を庁内の研修委員会へ提案、その仕組みが具体的に動き出しています。
キーパーソンとなる係長の巻き込み
第1ステップとして2015年9月、新任係長49人に「ファシリテーション研修」を行いました。出馬・人材マネジメント部会長から「松本市に『ほんとうの笑顔』を広げるために~」というテーマで、ダイアログを通じた組織改革について考える講演をしていただきました。その上で、「ほんとうの笑顔で働ける組織をどう作るか?」をテーマに、6人のマネ友がファシリテーター(進行役)として参加しダイアログを行いました。
部会参加者が先導役となり研修を組み立て、周りに影響力を持つキーパーソンとして位置づけた新任係長にやる気になって協力してもらう仕組みです。次の全庁の職層から参加する「ダイアログ研修」では、係長自らが先導役となり進めることを意識してもらうため、簡単なマニュアルを用意し、相手の立場となりながら対話に参加してもらうように努めました。
初めて経験する人にダイアログを受け入れてもらえるのか不安でしたが、最初は硬い表情ばかりだった会場が、後半では笑顔の会話が盛んに行われるようになりました。参加者からは「楽しかった。次回に向け頑張りたい」等の感想が聞かれ、有意義な時間を創出できたと感じました。マネ友のみんなで「やってよかった」との結果が導き出せたと思います。
職層を超えた450人対象のダイアログ研修
第2ステップとして、9月末に全庁の各階層から集まる450人を対象に3日間6回に分け「ダイアログ研修」を実施しました(幸いにも、松本市に来られた北川正恭先生に出演いただき、松本市職員向けのビデオレターを撮影しました)。
3時間の研修のうち冒頭30分間、北川先生のビデオレターを上映しダイアログの意義を説明。次に出馬部会長の資料を基にして、「ほんとうの笑顔」をキーワードに進め方などの説明を行いました。
次に90分間のダイアログでは、「ほんとうの笑顔で働ける組織をどう作るか?」をテーマに各グループ(全体51グループ)に分かれ、ファシリテーターは新任係長(うち2班は修了生であるマネ友が担当)にお任せしました。
対話を一度経験した係長たちが、自らの工夫で対話を盛り上げる姿がとても印象的でした。
残りの60分間では、各班からの発表とそれに対する部長職からの感想コメント、振り返りを行いました。多くの参加者から「明日から行う宣言」が飛び出し、自らが笑顔に近づくため、対話の場面を増やしていきたいなどの発言が多くありました。
最も印象的だった場面は、普段職場で話しても無口で声が小さいと感じていた若手職員が、発表者として真っ先に手を挙げ、グループ発表をしたことです。大きな声の自己紹介から始め、「今後職場で、笑顔であいさつをするよう心掛けたい」とコミットメント(宣言)をしてくれました。
また、各回の最後の振り返りでは、同じグループで対話したメンバー同士で自然と「ありがとう」と感謝の気持ちを伝える姿が多く見られました。そこには「素直な」「ほんとうの笑顔」がありました!!
当初一番の不安だったのは、参加者が意義を理解せず「やらされ感」のまま帰ることでしたが、今までにない取り組みを実施したこと、「自らが対話を楽しむ」ための空間づくりができたことに大きな意義があったと思います。
ダイアログは、あくまでもコミュニケーションの1つの手法であり、「ありたい姿」の実現に向けて、そこから何を得るのかが重要だと思います。自らできることに一歩踏み出し、それに積極的に係わること、人を巻き込むこと……自らが楽しんで、気づきの共感を生むことが大切だと思います。松本市での試みはまだ始まったばかりですが、大きな一歩を踏み出すことができたと思っています。
継続して関わること
2015年は自分たちが提案したダイアログ研修を実現する目標に向け、自ら進んで部会研究会の長野会場における運営委員に参加させていただきました。2014年の自分自身の振り返りや昨年から引き続き参加しているほかの運営委員、マネ友、新たな参加者の皆さんから毎回新たな気づきや刺激をもらっています。長野会場には個性的で積極的なメンバーが大勢そろっています。2015年3月には松本市浅間温泉、8月には諏訪市で計2回の同窓会なども開催し、深夜まで語り合う場面も多くあります。この関係をいつまでも……そして全国のマネ友ネットワークを大切にしていきたいと思います!
部会に参加し得られた経験、職場の上司や同僚の理解、北川先生や出馬部会長をはじめとする幹事団の皆さんや関係者からの教えや、投げ掛け、松本市マネ友との協力や他自治体からのアドバイス…などなど。これらの活動を通じて、ひとつ行動するだけでも多くの人の関わりで成り立っていることを感じたのと同時に、自らが目的に向かい取り組もうとすれば、様々な場面で自然に人を巻き込みチームワークが形成されることを体験しました。忙しい職場や仕事の日常の中では、何気なく過ごしてしまう生活が続き、市民目線で職場の中を見直す機会はなかなか設けることが難しいと思います。社会環境は日々変化しているのに、慣れ親しんだ職場では、そんな変化を感じられずに過ごしてきました。
視野を広く持ち、その場を客観的に見ること、気づき、気づいたことに目を背けない、その責任を踏まえ、自らができることに一歩踏み出す勇気を持ち続けていきたいと思っています。
- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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