[用語解説]政治献金、個人献金、企業献金
政治献金がある限り口利きはなくならない?―甘利氏問題 (2016/2/3 政治山)
甘利前大臣辞任の余波はまだ収まりそうにありません。国会は正常化しましたが、今後の予算審議で安倍首相の任命責任などが追及されるのは必至の状況です。立件の有無も気になるところですが、問題となっている口利きやあっせんとは、どのような行為を言うのでしょうか。
陳情と口利きの境界線は?
国会議員の地元事務所や議員会館事務所に、支援者や陳情団体などが訪れるのは日常茶飯事。訪問の目的は、役所とのパイプ作りや営業活動など様々ですが、いずれも議員の影響力をテコに、直面する課題を克服したいという狙いはほぼ共通しています。
例えば、ある議員の政治資金パーティーの会費(パー券代)を毎回収めているセキュリティソフトの開発業者がいて、「監督官庁の担当者に会いたい。こんな時のためにいつも支援しているんです」とお願いされたら、日頃協力を仰いでいる負い目や今後の付き合いを考えると、議員側としては「持ちつ持たれつだしな……」と考えます。
口利きやあっせんの立件は難しい?
そこで議員事務所では、役所の担当者と連絡を取って、国が取り組むサイバーセキュリティ政策の説明を支援者と共に受けるか、担当者に対して業者が開発商品を説明する……といったことはあり得る話です。実際に利得が発生していなくても、役所や有力者との橋渡しを行い、利益に結び付く行為を行ったと判断されれば、口利きやあっせんと言えなくもありません。
あっせん利得処罰法(公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律)では、公務員に不正行為または適正な職務行為を促し、その見返りとして利益を得れば処罰の対象となります。こうした事案はいくらでも出てきそうですが、献金・パー券と口利きの関連性を証拠づけるのは現実的に難しく、国政での適用例は2001年の同法施行以来ありません。
政治献金がある限り口利きやあっせんは消えない…
政治献金がある限り、口利きやあっせんの問題が消えることはない…という問題意識から、政治献金を制限する代わりに政党に対し国が助成することを定めたのが政党助成法です。リクルート事件やゼネコン汚職事件などを受け、企業などから政治家への資金提供が問題視された結果、1995年に施行されました。
国民1人あたり250円、総額約320億円が毎年、政党に交付されています。政党助成金と引き換えに政治献金をなくしていこうという目的でしたが、同時期に成立した政治改革四法でも献金はなくなりませんでした。
政治家個人への献金は本来禁止
元来、政治資金規正法でも企業および業界団体による政治家個人への献金は禁止されています。多くの人は「エッ!」と思われるかもしれません。
政治資金は個人ではなく政党や政治団体(1人の政治家が1つだけ指定できる資金管理団体や、政治家の後援会など)が扱うことが基本だからです。つまり、政治家個人に献金する場合は、政治団体を通じて献金しなければなりません。総務省に届け出た国会議員の政治団体や政治資金団体の情報は公開されており、設立趣旨に応じて一人で4団体届けている議員もいます。
国会議員の政治団体(779)
国会議員の政治資金団体(619)
企業献金も本来は禁止
1つの政治団体に対して個人は年間150万円までの政治献金が可能ですが、企業献金は一切禁止されています。多くの人は「エエッ!!」と思われるかもしれません。
これにもカラクリがあります。政党や政治資金団体(政党のみが1つに限り届け出可)に対しては企業献金も可能なのです。つまり、政治家が支部長を務める政党支部を通すことで、実質的に政治家個人への献金と大差なくなってしまいます。迂回献金として問題視する声もありますが、立法を司る国会議員の間で積極的に禁止する動きはありませんでした。
企業献金に関しては、日本経団連の呼びかけに応じる形で3メガバンクが18年ぶりに自民党への政治献金を復活させたばかりです。かつては叙勲対象者だった大手銀の頭取や役員経験者の受章がこの間一人もなく、今後の受章に注目する向きもあります。
圧倒的に不利な無所属議員
政党に所属すれば政党交付金も企業献金も実質的に受けられる仕組みですが、逆に無所属議員は交付金も企業献金も受けられないため、限られた資金とスタッフで議員活動せざるを得ないというのが実情です。
パー券はもっと自由なカネ集め
また、パー券については「1人あたり150万円まで」などの規定はあるものの、20万円以下の支払いは政治資金収支報告書に記載する必要もなく、外国人によるパー券購入も禁止規定がないことから、より自由なカネ集めと幅広い癒着が行われやすいという指摘もあります。
今回の問題を受け、野党では企業・団体献金を禁止する法案を提出する予定で、政府・与党の対応が注目されます。