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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第38回 対話が創る地方創生~牧之原市の「対話」による協働のまちづくりの実践から~ (2015/12/17 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第38回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「対話が創る地方創生~牧之原市の『対話』による協働のまちづくりの実践から~」をお届けします。

牧之原市の10年の歩み

牧之原市の10年の歩み
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地方創生の要諦

 「地方創生」は成功するのか。地方自治体による「地方版総合戦略」の策定作業が大詰め、または既に実行の段階に入っているところもあります。国は、地方に対して、自立につながるよう自ら責任を持って戦略を推進することを求めています。問われているのは、地方の覚悟と本気さです。

 このコラムで何度も取り上げていますが、今こそ、地方には地域からアイデアが生まれる「対話」をベースにした住民参加型の政策づくりの仕組みが必要です。地方創生の要諦は、基本理念としての「ダイアローグ(対話)」、スキルとしての「ファシリテーション」、そしてインフラとしての「話しやすい空間づくり」です。

 「対話」とは、「デイベート(討論)」のように、物事に白黒をはっきりつけるようなやり方ではなく、相手の意見を最大限尊重すること、相手の立場に立つこと、それぞれの考えを理解した上での相対化を経て、新たな解決策を導く話し合いのスタイルです。対話のメリットは、多様な意見の表出、参加による気付き、関係性(つながり)の構築、プロセスの中での腹落ち、合意形成、前向きな次へのアクションなどさまざまあります。対話を効果的に行うには、話し合いを促進させる「ファシリテーション」のスキルが必要です。また、対話の質を上げるには、リラックスできるような「話しやすい空間作り」も欠かせません。

 今回は、対話をベースにした住民参加型の政策づくりに10年間挑戦し続け、今年2015年の「第10回マニフェスト大賞」首長部門でグランプリを受賞した西原茂樹市長率いる静岡県牧之原市の実践から、地方創生の本質を考えたいと思います。

マニフェスト大賞グランプリを受賞した西原茂樹市長

マニフェスト大賞グランプリを受賞した西原茂樹市長

市民ファシリテーターによる「男女協働サロン」

 内閣官房の「まち・ひと・しごと創生本部」は、人口ビジョンや総合戦略の策定のポイントとして、「地方公共団体を含め、産官学金労言(産業界、地方公共団体や国の関係機関、大学等の高等教育機関、金融機関、労働団体、メディア)、女性、若者、高齢者などあらゆる人の協力・参画を促す」ことを求めています。

 その体制を先取りしているのが、2008年から牧之原市で実践されている「男女協働サロン(以下「サロン」)」の取り組みです。牧之原市は、市民参加と協働のまちづくりに、本気で取り組んでいます。そのきっかけは、2005年の市長選挙で、西原茂樹市長が掲げたマニフェストです。そこには、「市民参画と協働を推進する」という文言が書かれていました。

 この取り組みが市民レベルで大きく動き始めたのは、2007年、市長のマニフェストを市民主導で評価しようとした時です(コラム:マニフェスト学校「マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり 前編」)。実行委員の市民メンバーは、「市民討議会」の手法を活用、会議ファシリテーター普及協会の釘山健一さんからファシリテーションを学び、メンバー自らがファシリテーターとなり評価に取り組みました。

 翌2008年度、ファシリテーションを活用したまちづくりの手法を定着させるため、市では市民、職員を対象に、ファシリテーションの研修を実施しました。そして、その実践の場として、地域の課題を話し合う「サロン」が始まりました。

 「サロン」はワークショップ形式で進められます。会場の飾り付けをして、お菓子を準備し、「自分だけしゃべらない」「人を批判しない」「楽しい雰囲気で」という3つのルールの下で進行します。研修を受けた市民ファシリテーターが中心となり、意見を引き出し、合意形成にまで導いていきます。こうした「サロン」の一つの集大成になったのが、2012年度に実施された「地区津波防災まちづくり計画」の策定です(コラム:マニフェスト学校「マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり 後編」)。

 従来、コンサルタントや防災担当部署に丸投げであった防災計画を、市民と行政、また地域の市民同士の合意形成をベースに作り上げようとするものです。この計画は、小学校区ごと沿岸部5つの地区で組織された「地区津波防災まちづくり計画策定委員会」を中心に策定されました。各地区の委員会では、完成までそれぞれ10回のサロンが開催され、多様な地域のステークホルダーが参加しました。自治会のメンバーのほか、警察、病院、消防団、小中学校教職員、PTA、県庁職員、市の部課長、職員などです。参加者は、仕事が終わってから地域の集会所などに集り、進行は市民ファシリテーターが担いました。

牧之原市の市民ファシリテーター

牧之原市の市民ファシリテーター

全国に先駆けて策定された「地方版総合戦略」

 牧之原市では、2013年度から2015年度を始期とする「第2次総合計画」の策定作業をスタートさせました。この策定のプロセスにも、対話の基本理念はしっかりと位置付けられています。アンケートによる市民意識調査(988人回答)。市内の173団体から513人が参加し、ワークショップ形式で協議する市民団体との意見交換会。庁内での課題検討会議。こうした1500人以上の市民の意見と、市役所内部での課題分析を踏まえて、総合計画案の策定に係る基礎資料となる「市民討議資料」が作成されました。

 次に、市内団体から選出した人に公募参加者を加えた27人(平均年齢43歳、女性約4割)で組織された「NEXTまきのはら」を立ち上げ、有識者のアドバイスをもらいながら、市民討議資料を基に施策の優先順位や方向性、将来都市像などを検討しました。「NEXTまきのはら」の話し合いも、牧之原市に根付いた「サロン」のスタイルを活かし、ワークショップ形式で進め、「NEXTまきのはらの計画案」がまとめられました。

 総合計画審議会では、これまでの策定状況や計画案の内容を審議し市長に答申、2014年9月計画は議会で議決されました。幅広い市民の意見を合意形成により積み上げていく牧之原スタイルの総合計画です。計画には、選択と集中の視点から、「輝く高台開発」「宝子ども育成」「魅力ある産業雇用」など5つの「重点プロジェクト」が盛り込まれています。完成後のタイミングで策定を求められた「地方版総合戦略」に関しては、国が求める「多くの市民、団体を巻き込んで策定する」という要件を満たしているとして、第2次総合計画の基本構想および重点プログラムを総合戦略と位置付け、2015年2月、全国に先駆けて策定されました。牧之原市が取り組んできた、「対話」をベースにした住民参加型の政策づくりが一つの形になった瞬間でした(参考:牧之原市ホームページ「牧之原市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しました(2015/02/20)」)。

総合計画策定のサロンの様子

総合計画策定のサロンの様子

進化発展する牧之原市の取り組み

 2015年度も、牧之原市の取り組みは進化発展しています。「地域の絆づくり事業」では、10の小学校区に立ち上げられた「地区自治推進協議会」単位で、対話をベースに地域の課題とその解決策を考える「サロン」を開催し、それぞれの「地区まちづくり計画」の策定とその実践が行われています。この事業では、若い世代にもまちづくりに参加してもらいたいという思いから、これまでの市民ファシリテーターに加え、10~30歳代の若者を中心とした「茶々若会(ちゃちゃわかい)」を2014年に結成(第10回マニフェスト大賞マニフェスト賞(市民)受賞)し、ファシリテーションの研修を受けた後すぐに、現場での実践を経験させています。

 また、牧之原市では、将来のまちづくりを見据え、市民ニーズに合った効率的・効果的な公共施設の維持管理を目指し、公共施設マネジメントに取り組んでいます。そこでも、対話の理念や手法を活かし、市民参加による「サロン」の場を積み重ね、「公共施設マネジメント基本計画」を策定中です。

公共施設マネジメントのサロンの様子

公共施設マネジメントのサロンの様子

 「サロン」の進め方にも工夫がされています。話し合いの質を高めるため、2014年から「グラフィックハーベステイング」というファシリテーションの手法を取り入れています。グラフィックハーベステイングとは、対話の内容を文字だけではなく絵を含めて記録し、対話から生まれた成果を振り返り共有し、次へのアクションにつなげていこうとするものです。牧之原市では、サステナビリティ・ダイアローグの牧原ゆりえさんの指導のもと、グラフィッカーを積極的に養成しています。絵の得意な若い女性市民ファシリテーターがグラフィッカーになり、当日の会場でのグラフイックのほか、配布やまとめ用の分かりやすい資料の作成などに大活躍しています。

公共施設マネジメントの対話の場の目指すゴール

公共施設マネジメントの対話の場の目指すゴール
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 さらに、牧之原市の取り組みを静岡県内広域に広げることを目指して、2014年には牧之原市が中心になり、焼津市、島田市、掛川市で「協働のまちづくり4市合同研究会」を立ち上げ(第10回マニフェスト大賞優秀コミュニケーション・ネット戦略賞受賞)ました。定例の研究会やフォーラムを開催し、地域での「善政競争」を促す場となっています。

「対話+行動」が住民自治の未来を拓く

 牧之原市の10年間の取り組みを振り返りながら、地方創生の本質を考えてきました。地方創生が成功するには、依存から自立に意識を変え、地方から知恵、アイデアが生まれる仕組みとしての対話の場が不可欠です。また、対話から生まれるアクション(行動)が無ければ、地域に変化は起きません。これが地方創生の本質だと思います。牧之原市はこのステージに到達するのに10年掛かりました。問われるのは、決断し継続する首長、職員、市民の覚悟と本気さです。「対話」、「話し合いの質」が、地域の住民自治の未来を切り拓き、創っていくと思います。

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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