【公会計推進シンポジウム2012開催記念インタビュー】
公会計は自治体経営の「羅針盤」 小林麻理 早稲田大学政治経済学術院教授・パブリックサービス研究所所長1/3ページ(2012/08/17 政治山)
国や地方自治体の会計を表す「公会計」に企業会計の手法を導入し、行政部門の効率化・活性化を図る「公会計改革」を推進するためのシンポジウムが、東京都新宿区の早稲田大学で8月21日に開催される。テーマは「公会計改革による行政経営の革新?変革が求められる行政経営?」で、主催は早稲田大学パブリックサービス研究所。
シンポジウムに先立ち、同研究所所長で早稲田大学政治経済学術院教授の小林麻理氏に、公会計の意義や海外での公会計の事例、シンポジウムに期待することなどを伺った。
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――日本での公会計の歴史や経緯について教えてください。
パブリックサービス研究所所長
小林 1980年代当時、私が会計の研究をしようした頃の日本では、会計といえば「企業会計」でした。自治体や国のものは「官庁会計」と言っていましたが、「公会計」分野はほとんど研究がなされていなかったんですね。公会計の分野は、アメリカではすでに1世紀以上の歴史がありますが、日本は後進と言えます。
1990年初頭にバブルの崩壊があり税収が低迷し、財政構造改革の必要が出てきて、小泉内閣になってという流れの中で、2000年くらいから具体的に公会計の導入が進んできました。2006年には総務省から「新地方公会計制度研究会報告」が出て、作成すべき財務諸表のモデルとして、「総務省基準モデル」「総務省改訂モデル」、独自の「東京都方式」というものがいま動いています。
――なぜ公会計の導入が求められたのでしょうか。
小林 厳密に言えば、いままで自治体がやっていた予算・決算は、「会計」ではないんですね。「昔の公会計」は、ストック情報がないのが大きな問題です。2007年に北海道夕張市が財政破綻しました。出納整理期間の間に、一般会計と特別会計の間で一時借入金を使ってやりくりをして……というをやっていたんですが、これは「昔の公会計」が「現金主義」を採用していて、特別会計の借入金を「実質的な赤字」としていなかったから。こうした見えづらい負債を明らかにする「発生主義」の会計を入れましょうという話です。
アメリカでは、1970年代から、何か事業を行うときに「住民がどれだけ便益を得たのか」という「リザルツ(成果)」を考慮し始めました。これまでの日本の自治体の財政は、「予算がこれくらいあるからこういう事業をしよう」「補助金がこれだけあるからこれを建てよう」という思考で動いていました。しかし、「現金主義」の公会計では、事業や資産の算定、事業の評価が正確にはできません。そこで、「発生主義」である企業会計の手法を取り入れて、正確なコスト情報を把握する、ということを行おうとしています。