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【公会計推進シンポジウム2012開催記念インタビュー】

公会計は自治体経営の「羅針盤」 小林麻理 早稲田大学政治経済学術院教授・パブリックサービス研究所所長2/3ページ(2012/08/17 政治山)

進まない改革、議員の関心は高まってきている

――公会計改革が進まない理由は、なにが問題だと思いますか。

小林 いろいろなモデルが出ていて、自治体がなにを使えばいいのかわからないというのがあります。前回2011年のシンポジウムでは、日韓の公会計改革の比較を行いました。韓国は2、3年前に富川(プチョン)市、ソウル市江南(カンナム)をモデルケースとして進めていたのですが、中央集権の国なのでトップダウンで、統一ソフトを導入して全国で一気にやりました。

 では、日本の総務省はどうかというと、モデルを統一するという話も行っていますが、意見がなかなか集約できない。自治体はいま、現金主義の予算・決算を行い、行政評価も行い、財務諸表も作成して、という生産的ではない実態になっていますね。

――自治体の財政は、自治体の議員や市民にも関係の深い話題なのですが。

早稲田大学政治経済学術院・パブリックサービス研究所所長 小林麻理教授

小林 議員の関心が高まっているのは感じます。自治体の財政課が見るような、ある企業が出している公会計関連の情報があるんですが、それを議員さんが見始めているそうです。私が三重県で財政調査会の座長をやらせていただいたとき、「債務管理方針を出しましょう」と提案したら、金融機関出身の議員さんが関心を持ってくれました。

 市民という意味では以前、日経新聞のコラムニスト・岡部直明氏が「企業会計に精通した、リタイアしたシニア世代に期待したい」と言っていました。公会計に関心を持ってくれて、自治体の財務諸表も企業会計のように読める市民が増えればいいと思います。

 しかし、自治体の情報開示にも問題があります。自治体の積極的な財務情報開示を進めるパブリック・ディスクロージャーという分野も研究所では取り扱っているんですが、フォーマットがないから公開される内容も順番もバラバラで比較もしづらいんです。アメリカでは、公表の仕方についての公式の声明が出ているので比較可能な形で公開されるのですが、日本ではなんというか、ユーザーフレンドリーじゃない。作成しただけという印象です。

 自治体の情報開示が進まない理由には構造的な問題もあります。決算・予算は地方自治法で議会の議決を経るという規定がありますが、財務書類については法律で定められていないんですね。ファジー(あいまい)だとなかなか動かないものですし、これも進まない原因だと思います。

――自治体も「作っているだけになっている」とのお話がありましたが、例えば議員や市民が関心を持ち、自治体に情報開示を求めていけば、状況が変わるかもしれません。

小林 一方で、少し気を付けないといけない点もありますね。先日、研究所でワークショップを行ったときに、資産管理に先進的な取り組みをしている自治体の職員さんに報告をいただきました。ここは発生主義の導入に積極的なところなんですが、将来の更新に備えて減価償却費を計上すると、内部留保として特定目的の基金に貯めておくんですね。でも、議員さんがそれを「埋蔵金」と呼ぶそうです。

 いま自治体が直面している問題は、建物の老朽化比率の高さ。高度経済成長期にいろいろな建物を建てましたので、数年後に同じ規模のものを更新するのか、違うのかを考えていかないといけない。それは下水道や上水道ではクリティカル(重大)な問題で、管には耐用年数があります。ここは企業会計化するところが多いのですが、こういったものさえ、議員さんが「埋蔵金」と呼ぶというのはおかしいですね。もっと議員さんも勉強してほしいと思います。

 実際、公会計を分析して、どう活用してくのかというのはスキルがいると思います。先進事例があると、議員さんは視察をしますよね。でも、それだけではいけない。今回のシンポジウムは、「みんなで考えていきましょう、知恵を出しあっていきましょう」「それを大きくしていきましょう」というのが目的です。そうしてナレッジ・シェア(知識の共有)をして、どこかに情報を蓄積して、必要なところに提供していくほうが、合理的なんじゃないでしょうか。その蓄積は、営利企業ではなく、大学のような公共機関がやるべきかもしれません。

(次ページへつづく:「今回のシンポジウムに期待すること」「いろいろな資源を活用するこれからの行政経営」 など)

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