トップ    >   連載・コラム    >   LM推進地議連連載    >   続・何を減らしていくのか?~奈良県営競輪の事例

【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第5回「続・何を減らしていくのか?~奈良県営競輪の事例」(2012/10/03 奈良県議会議員 猪奥美里/LM推進地議連)

ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟 連載・コラム

 政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。9月からは、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を開始しています。第5回目は、奈良県議会議員の猪奥美里氏による「続・何を減らしていくのか?~奈良県営競輪の事例」をお届けします。

◇        ◇        ◇

 奈良県議会議員の猪奥美里です。私は、川名ゆうじ市議のコラムで提起のあった「何を減らしていくか?」を議論するためには、「これは行政がすべきことか?」「本当に公益性があるか?」「当初の役割を果たしているか?」などの視点が必要だと考えます。

奈良県が手がける県営競輪の事例

バンクにて。奈良競輪は一番小さいサイズの一周333メートル バンクにて。奈良競輪は一番小さいサイズの一周333メートル

 1つの例として、奈良県営競輪を紹介します。奈良県では今、県営競輪の存続の是非について議論が行われています。

 競輪・競馬・モーターボート・オートレースの4つは、公営競技として、都道府県や市町村が運営することが認められています。それぞれ法律で規定があり、競輪は自転車競技法に基づき開催されます。

 自転車競技法によると、競輪開催の目的は、(1)自転車その他の機械工業の振興(2)体育、社会福祉など公益の増進(3)地方財政の健全化となっていますが、目的の(1)と(2)は、あくまで(3)の「地方財政の健全化」の付随であり、事業収益を上げ一般会計に組み入れることが一番の目的です。

昭和30年代の様子 昭和30年代の様子

 競輪は1948年に福岡県の小倉で始まりました。第1回の小倉競輪は、予想を上回る成功を収め、収益確保の手段として、各地方自治体が名乗りを上げました。奈良県も小倉の成功を見てすぐさま手を挙げ、奈良県営競輪は、1950年に始まりました。開始から2年間は競輪だけではなく、競馬も行われていました。そのころは、県の単独事業ではなく、奈良市や桜井市など県下いくつかの市町村との協同経営でしたが、収益が厳しくなるにつれ、市町村が抜けていき、現在は奈良県だけで運営しています。

赤字に苦しむ競輪を行政が行う意味は?

A級のレース。お客さんは少ない A級のレース。お客さんは少ない

 これまでの60年余り、競輪事業は県に潤いをもたらしてくれました。合計で約318億円を県一般会計に繰り入れることができました。

 しかし、1991年の売上高1兆9,553億円をピークに落ち込みが始まり、直近の2010年度には6,350億円でした。ピーク時と比べると、実に約68%の減少率となっています。その結果、ここ数年は、2009年に約2,518万円、2010年に約1億3,500万、2011年には約1億2,228万円と、赤字を計上するようになってしまいました。売り上げ減少の原因は、来場者の高齢化や1人当たり購入額の減少などいろいろあげられますが、競輪という事業自体の魅力を感じる人が少なくなっているということが原因だと考えています。

 こういった現状を受け県は、有識者や地元住民からなる、奈良県営競輪経営検討委員会を開催し、昨年1年間をかけて議論して、「多くの雇用を抱え相当の経済波及効果が認められる競輪場の機能に鑑み、事業の持続可能性を見極める一定の検討期間が必要」との結論を出しました。

奈良県議会議員 猪奥美里氏 奈良県議会議員 猪奥美里氏

 赤字を出すようになっても、立地自治体や地元にとってさまざまなメリットがあります。実は、私が住んでいるのは競輪場すぐ近く、同じ町内で歩いて5分という所ですのでよく知っていますが、産業の活性化や地元のパートさんを中心とした雇用、自治会への“地元協力金”、年間3,000万円もの駐車場の借り上げ代などです。

 存在するメリットはありますし、競輪が廃止されるデメリットがあることも確かです。しかし、私はメリットがある以上、存続させないといけないとは考えません。

 赤字を出し、雇用者も少ない。もともとの競輪開催の目的が果たせなくなりました。そんな中で、行政が競輪を開催する意味があるのか? ギャンブル振興のためという目的はありませんし、特定の地域の雇用のためだけに1億円もの赤字を出す事業を継続することは公平性に疑問があります。

 これからは、これまでの「300億の恩」に感謝し、地元の方々のご協力を感謝しつつ、いかに廃止に向けてソフトランディングさせることができるかを議論すべきであると考えます。

◇        ◇        ◇

著者プロフィール
1980年奈良県奈良市生まれ。立命館大学在学中から、環境NGOで活動。そこでのご縁で政治との係わりを持ち、選挙のお手伝い等を経て、大学院卒業後に衆議院議員の村井むねあき秘書として、国会事務所にて勤務。故郷奈良に戻り、2011年の統一地方選挙で初当選。民主党所属。
メール:info_at_ioku.jp(迷惑メール対策のため、「@」を「_at_」と表示しております。送信の際には「@」に変更してください) HP:いおく美里ブログ アメーバブログ
LM推進地議連の連載コラム
第4回「選挙が変われば、日本が変わる~マニフェスト選挙を目指して~」(豊川市議会議員 とみた潤)
第3回「議会報告会は参加者が少ないからやる意味がない?~インフラとして地方議会試論」(所沢市議会議員 桑畠健也)
第2回「東京都武蔵野市議会の今~何を減らすかを考えなくてはならない~」(武蔵野市議会議員 川名ゆうじ)
ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟(LM推進地議連)連載コラム一覧
関連ページ
第7回マニフェスト大賞 政治山特集ページ
都構想、自治、議会とは? 議員研修会が22、23日に横浜で開催(2012/04/06)
大阪都構想は地方政治をどう変えるか 22、23日に議員研修会開催(2012/04/24)
第6回マニフェスト大賞発表、過去最多の応募数(2011/11/05)
第6回マニフェスト大賞授賞式・フォトギャラリー(2011/11/04)
ページトップへ