「IQよりEQ」を掲げて DMMをメンターに進むハッシャダイ (2018/9/26 70seeds)
「東京と地方の“体験格差”を解消する」をコンセプトに、地方の若者向け就業支援「ヤンキーインターン」を展開する株式会社ハッシャダイ。
70seedsでは2017年春、同社CEO・久世大亮さんにインタビュー。「地方創生」が若者を置き去りにしている現状について話を聞いた。
僕らは若者に「東京に出る」選択肢をつくることで、地方企業の努力を促す。それによって初めて、地方の企業も選ばれる対象になるんです。今の地方創生施策は、人を地方に縛り付けるようにできてしまっている、それを変えるんです。
東京以外で暮らす若者に機会を与える。記事で語られたハッシャダイの明快なコンセプトは、大きな反響を呼んだ。
その後、2018年4月にはDMMの亀山千広氏に見出され、業務資本提携を締結。5月、7月には新規事業を立ち上げた。
今回70seedsでは、理念の実現に向け、今まさにアクセルを踏み込んでいる久世さんに、1年半ぶりにインタビュー。
何が変化し、何が変化しなかったのか。久世さんとハッシャダイの「今」を聞いた。
僕自身が何者かなんて、ずっとわからないから
――「70seeds」でのインタビューから1年半、その間にDMMの子会社になり、オフィスも原宿に移転。5月、7月と立て続けに新規事業を立ち上げていたりと、激動でしたね。
昨年のいまごろ、インタビューを受けたときは「ヤンキーインターン」のクラウドファンディングが終了したあたりでしたね。あの頃の僕はメディアを用いて世間に所信表明をするタイミングだったのでわかりやすい動機やコンセプトを話していました。
でも、正直今はあまりメディア向けっぽい回答はできないんですよ。僕自身、僕のことがまったく分かっていないので。
――ではメディア露出も絞っている時期なんですか?
そうですね。会社のフェーズとして、今は僕個人より「ハッシャダイ」という会社が前面に出て行くべきだと思っています。
まだ25歳なのに、家入さんや亀山さんのように「人」が先行する企業になってはいけない。僕の周囲で支えてくれている社員が語る時期だと思っています。
また、メディアに出てしまうと考えが整理された気がするのが嫌なんです。自分のこともよく分かっていないのに、メディアには「こんな人間です」と書かれる。会社としても個人としても、「計られる」存在になってはいけないと思っています。
――1年前のインタビューも「メディア向け」だったということですね。
1年前は「地元の友達との意識の乖離」を動機にあげていました。しかし、今となってはなぜ起業したか、明確な動機なんてわからないですよね(笑)。事業を進めていくなかで、いろんなマクロな必要性や自分の意識に気づいていきました。
――会社のフェーズに合わせて、語る内容を分けている。
もともとが営業マンなこともあり、自分が一番理解されやすい状態が何か意識するクセがあるんです。1年半前の僕は、自分が「若者が頑張っている」文脈で理解されているのを感じていたので、尖った若者として振舞っていました。
――自分を俯瞰して行動していたのですね…。久世さんと話していてもエゴや執着をあまり感じません。
そもそも、個人として認められたいという欲があまりないんです。結局、ひとは結果でしか判断されない。結果以外での承認欲求の発露としてメディアがあると思うんです。
僕は、結果を出して語るべきだと判断した。メディアに出て言語化されるよりも、行動することが大事だと思っています。
亀山さんは“メンター”のような存在
――ハッシャダイは2018年4月、DMMの子会社化されることでも話題となりました。会社の動きとして大きな変化はあったのでしょうか?
一番大きかったのはキャッシュフローが改善されたこと。会社として大きな動きをスピード感を持ってできるようになり、長期的なビジョンを描けるようになりました。
原宿にオフィスを移転し、スタッフも増え、多様性も増した。会社として一回り大きくなり、「カルチャー」を考えるタイミングに来ていることを感じています。
――DMMの亀山さんが実際に経営に携わることはあるのでしょうか?
亀山さんが経営に携わることはありませんが、アドバイスをくれる「メンター」としてさまざまな話を聞いてもらっています。今日も朝4時にラインでメッセージが来て、一緒に話をしたり(笑)。
事業の話よりは哲学的な、人生についてさまざまな知見を与えてくれる存在です。
――いままで亀山さんのような“メンター”はいなかった?
いや、たくさんいましたね。さまざまなひとがアドバイスをしてくれていまの僕がいると思っています。
でも、亀山さんの視点の広さ、知見の多さ、思考の深さ、素直さ…。60歳近い年齢の人のなかでは稀有な存在だと思っていて。一緒に話していて、若者にウケる理由がわかります。
――亀山さんとお話をするなかで、事業の方向性に変化が生まれたりすることはないのでしょうか。
全く変わらないですね。変わらないどころか、いい影響しかないと思っています。会社がブレるかブレないかは、僕次第だと思っているので。僕がアイデンティティを失わずに仕事ができれば、会社として間違った変化はしないでしょうね。
学歴は移動に比例する?新規事業「ハッシャダイリゾート」に込められた“仮説”
――2018年5月には新規事業ハッシャダイリゾートをロウンチしました。久世さんのテーマである「体験格差の解消」に向けたビジョンの中で、ハッシャダイリゾートはどのような位置付けにあるのでしょうか。
ハッシャダイリゾートのテーマは「移動」にあります。体験格差を解消したいと思ったときに、東京と同じような環境をローカルに実現するのは100%不可能。ならば、個人を移動させるしか方法はありません。
選択格差を埋めるには、個々人の移動をどれだけ流動的にするかが肝要だと思ったんです。そして流動的にするためには関わりやすく、離れやすいチャネルを打ち出す必要があった。
そこで思いついたのが「リゾートインターン(リゾートバイト)」でした。リゾートへの移動を促しつつ、現地で滞在費を稼ぎ、社会経験を積ませる。目的が「リゾート」にあり、直感的に行きたいと思えるチャネルになっているのがポイントです。
――たしかに、「ヤンキーインターン」で検索するひとは、すでに“意識が高い”人びとですよね。
そうなんです。「ヤンキーインターン」に主体性を持って取り組んでくれる層に頼りきっていては、構造を変えるどころか非大卒市場の拡大も狙えない。より多くの非大卒に動いてもらえるよう“意識の低い”層に訴求する必要がありました。
でも、意識の低い層をオンラインで啓蒙するのは難易度が高い。そのときに、無意識に移動させるチャネルを開拓する必要があると感じたんです。
無意識に移動し、リゾートを楽しむだけでキャリアにつながる。人生のなかでの移動量と所得に関連があるのは「ゴールドカラー」という考え方でも言及されています。移動を通じて人は変われる、という仮説のもと、「ハッシャダイリゾート」を始めました。
――リゾートを楽しむだけでキャリアにつながる…。魅力的ですが、派遣した先でキャリアアップにつながる仕掛けがあるのでしょうか?
移動した先のリゾートでは、ハッシャダイの提供するカリキュラムを受けてもらうように準備を進めています。
現地にパソコンを送り、オンラインでプログラミングやマーケティングを学んでもらう。
勉強しながらバイトする…これって「大学」と同じ構造だと思いませんか?
――たしかに…。しかし、“意識の低い”層が勉強するのか?という疑問もあります。
いままで非大卒の層が勉強にコミットできなかったのは長期的な「リターン」が見えなかったからだと思っています。僕も大学に行っていたとき、大学の勉強は頭に入らないのにバイトのマニュアルだけは人一倍早く覚えていました。
決して彼らが勉強ができないわけではない。短期的なリターンが見えたとき、彼らは全力で“勉強”するんです。
なので、勉強のインセンティブに「昇給」を与えるようにしていきます。カリキュラムが進めば進むほど、給料が上昇していく。すると知らないうちにプログラミングができるようになっているんです。
――大学が減少するなか、高卒の選択する新たな「教育のカタチ」になっていきそうです。
「ハッシャダイリゾート」をたたきに、通信制の高校を作る話も出てきています。世界各地を転々とするミネルヴァ大学のように、日本の地方を転々とする通信制の高校。
これから大学への進学率が減少したとき「大学進学」か「就職」の2択ではない、新しい受け皿を作るのが理想です。
こんなに楽しい仕事、ほかにあるのか
――会社が置かれている環境の変化はありながらも、「選択肢の格差を解消する」久世さんのビジョンはまったく変わっていませんね。
起業したころと同じように、自分が楽しいことを続けることができている実感があります。また、時代にも恵まれましたよね。日本のパワーが下がり、非大卒のリソースが必要になってくるこれからの時代と僕のビジョンがうまくハマっている。
自分でもアツいなと思います。こんな楽しい仕事、ほかにあるのかな。
――自分にぴったりのテーマ…久世さんのように「楽しい」を軸にした働き方は、これからの主流になっていくような気がします。
これからの時代、「IQ」よりも心の指数「EQ」を重視するようになっていくと思っています。合理的で知的なものと、感覚的で娯楽的なものがあったとき、ほとんどの人びとは後者についていきますよね。「YouTubeとブロックチェーン、どっちが楽しい?」と聞かれたとき、人びとはどう動くか、と聞かれたら?ということ。
これから、ハッシャダイは完全に「EQ」にポジショニングしていきます。人気 YouTuber・DJ社長とのコラボレーションもその1つ。新しい仕事がほとんどエンタメになるなか、ハッシャダイも遊ぶように働いていきたいと思っています。
――遊ぶように働く。
実際、いまのハッシャダイでは僕の知らないところで事業がいくつも動いているんですよ。例えば原宿にできた新オフィスの改修も、社員が勝手にDIY大会を開いているんです。ぼくはなぜか呼ばれない(笑)。でもそんな風に、主体性を持って動いて欲しい。
社員にとって、「ハッシャダイ」がプライベートと二元的に語られるようになってはいけないと思っています。プライベートや遊びのように、主体性を持って自由に働ける環境・カルチャーを構築していきたいですね。
半蔵 門太郎
ビジネス・テクノロジーの領域で幅広く執筆しています。
岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。
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