「時差通勤」は運用と従業員の自己管理能力が重要 (2018/3/6 JIJICO)
時差通勤を導入する企業、その狙いは生産性のアップ
残業時間の削減(労働時間の削減)のために「時差通勤」を導入する会社が出てきました。「時差通勤」とは、たとえば通常は9時から18時までで休憩1時間、つまり1日の労働時間が8時間だとしたら、各従業員の事情に応じて労働時間を10時から19時、あるいは8時から17時というように時間帯だけをずらすことを言います。1日8時間の労働時間は変わりません。
会社にはいろいろな部署があり、それぞれの部署が違う業務を担当しています。ある部署は、取引先の都合で午前中は問い合わせが多いけれど午後は少なくなるとか、別の部署では反対に朝は暇だけれど10時くらいから忙しくなってくるとか、業務の状況はさまざまです。
工場のように、9時にラインが動き始めて17時に止まるような職場では、従業員が一斉に出勤して一斉に終わって帰るのが効率的です。しかし、本社など総務や経理、営業などの部署が混在しているところでは、それぞれの業務に見合った時間帯に出勤したほうが生産性が上がる可能性はあると思います。
労働基準法では、始業(仕事を始める時間)と終業(仕事が終わる時間)は全従業員一斉にすることが原則ですが、「時差通勤」はその例外と言えます。他にも一斉出勤の例外として「フレックスタイム制」「変形労働制」があります。
時差通勤とフレックスタイム制は似ているけど異なる制度
「フレックスタイム制」は、1カ月の労働時間を決めて、始業や終業の時間は従業員が仕事に合わせて決めることができる制度です。
具体的には、今月の労働時間が170時間だとしたら、ある日は11時から16時まで、ある日は8時から19時まで出勤したとしても、合計が170時間になればよしとします。開発や研究職など、作業ではなく従業員の知識や技術に依る職場で多く導入されています。
「変形労働時間制」は、あらかじめ仕事量に応じて、忙しい時期には労働時間を多くする、暇な時期には労働時間を短くすると会社が決めておく制度です。小売業など毎月の業務量が予測しやすい業種で多く導入されています。
運用面では定時制より複雑な面もあるので従業員の自己管理も重要
「時差通勤」「フレックスタイム制」「変形労働時間制」の目的は、労働時間の短縮です。運用がうまく行けばその目的は達せられますが、弊害もあります。
私は小売業の現場で、「変形労働時間制」で働く従業員の労務管理をやっていました。「変形労働時間制」は、通常の勤務よりも給料の計算、特に残業代の計算が複雑になります。
人によっては、出勤時間を間違えて遅刻や早出残業が発生してしまうこともありました。また、忙しい時期に10時間労働の日が続くとか、従業員の健康にもよくない働き方が許されてしまうこともあります。
こういった弊害を防ぐためには、「フレックスタイム制」も「変形労働時間制」も従業員一人一人の自己管理能力が非常に重要になってきます。
「時差通勤」も、従業員の一斉労働時間管理から出勤時間帯毎の管理になるので、少なからず人事管理の手間は増えます。
制度自体はいい仕組みですが、運用が始まれば予想できなかった不具合が発生することも予測されます。会社はしっかりとしたしっかりとした人事管理を行うのと同時に、従業員に「自己管理」を呼び掛けていくことも大切です。
- 著者プロフィール
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小倉 越子/社会保険労務士
多数のパートを管理・教育した経験で非正規労働者の活用法を熟知
大手小売業の店舗人事教育担当として、800人を超えるパートやアルバイトを管理。非正規労働者の戦力化や活用について現場で学び、社会保険労務士として独立後は同様の問題を抱える企業をサポートしている。
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