社長はなぜ、満員電車での通勤を禁止したのか (2017/11/8 瓦版)
時間密度の高め方 ~百社百様の生産性向上~
(株)オトバンク【前編】
時間密度を高める。そのために労働時間を短くするというのはシンプルで直接的な方法だ。もう一つあげるとすれば、各社員の能力の最大化を実現するということもあるだろう。適材適所で、各社員を配置できればベストだが、簡単でない。だが、各自が仕事がしやすいように裁量を大幅に委譲するということなら、比較的やりやすいかもしれない。
日本最大のオーディオブック配信サービス「FeBe」を運営する(株)オトバンクでは基本、満員電車での通勤が禁止されている。通勤ラッシュ時に会社へ向かうことには多くのリスクがあるからだ。従って同社には、通勤ラッシュ帯の8時から9時前後のいわゆる定時出社のルールはない。フルフレックスで、各自がラッシュ時を除く、都合のいい時間に出社すればいい。状況に応じ、リモートワークを選択することもOKだ。
「ある時、朝9時の打ち合わせがあって満員電車に乗ることになりました。その時、たまたま車内トラブルを目にする機会があり、思ったのです。社員にこんなことが起きては大変だ」。ギュウギュウの満員電車に揺られながら、久保田社長は思い巡らせる。ほどなく、役員会で承認を得て、同社では満員電車での通勤が禁止となった。
「禁止」というとやや大げさだが、実際、ラッシュ時の通勤には多くの危険が潜んでいる。事故等による遅延。その事故に巻き込まれるケガのリスクもある。痴漢などの冤罪というケースもあるだろう。なにより、すし詰めの電車でヘロヘロになって会社に辿り着くことは、生産性を上げるどころか下げしかしない。久保田社長は、決断に何の迷いもなかった。
満員電車禁止令の裏に隠された狙いとは
単に満員電車を禁止した。そこだけをみると、この英断の本質を見誤る。社員にとっても単純に、通勤ラッシュを回避できることはありがたい。だが、決断の以前から久保田社長には気がかりなことがあった。仕事の性質上、業務プロセスに無駄な時間が多かったのだ。それは、先方とのやり取りの時間と通勤時間のミスマッチ。いわゆるラッシュ時の通勤時間には、ほとんどやり取りは発生しない。一方で、午後以降には業務が立て込んでくる。その結果、午前中は“待ち”が中心となる。この浪費ともいえる無駄な待ち時間の解消策が満員電車禁止令でもある。
「社員がせっかく大変なラッシュにもまれて会社に到着しても、先方とのやり取りは、午後が中心。これでは労働時間が徒に長くなるだけで、生産性を低下することにしかならない。ラッシュ時の通勤を禁止することは、自ずとこの無駄をなくすことにつながるのです」と久保田社長は明かす。
結果、社員の多くは昼前にゆったり出社し、効率的に先方とやり取りすることで労働時間短縮を実現。逆に、うんと早く出勤し、早い時間に帰宅するという早朝型でラッシュを回避するなど、満員電車禁止令は、各自が自分の都合を最優先に業務に取り組むスタイルの確立を後押しする。残業はほどほどに、出社時間は自分で決める。それは自ずと各自が限りなく自立する風土の醸成を促進。気が付けば、社員はいままで以上に主体的に業務に取り組むようになり、生産性も高まっていった――。
とはいえ、こうした社員への権限移譲型組織は、管理が容易でない。人数的には小規模の部類の同社だが、それでも課題はある。一体、どうやって、この限りなく緩い社員の効率最大化は成り立っているのか。後編でそのなぞを解明する。(後編へ続く)
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