国・公的の大規模急性期病院、民間を圧迫しないよう機能の明確化を―日医総研 (2017/11/21 メディ・ウォッチ)
国立や公的の大規模急性期病院において「7対1病棟などから地域包括ケア病棟への転換」が加速化しているが、診療報酬創設時の想定と異なる姿になっている。地域の実情を踏まえつつ「国・公的大規模急性期病院が担うべき役割」を改めて明確にする必要がある―。
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は、11月16日に発表したワーキングペーパー「国・公的医療機関の地域包括ケア病棟への参入状況と経営状況」の中で、こう訴えています。2016年度の前回診療報酬改定でも同様の主張がなされたことを受け、「ICUなどを持つ病院や、許可病床数500床以上の大病院において、地域包括ケア病棟の新設は『1病棟』に制限する」ことになりました。2018年度の次期診療報酬改定に向けた議論にも留意が必要です。
「7対1のみ病院」と「7対1・地域包括ケア併設病院」、経営上の明確な差は見られず
地域包括ケア病棟は、2014年度の診療報酬改定で、(1)急性期後患者の受け入れ(post acute)(2)急性増悪した在宅患者の受け入れ(sub acute)(3)在宅復帰の促進―という3つ機能を持つ病棟として新設されました。
従前の「亜急性期病床」からの転換のみならず、7対1病棟からの転換を期待して創設されたものですが、日医総研では「当初は病棟数が少ない中小病院の届出を想定していた」と述懐。2016年度の前回改定論議(中央社会保険医療協議会)では、一部の診療側委員が「大規模急性期病院が地域包括ケア病棟を併設して、民間の中小規模病院の経営を圧迫している」と強く主張し、冒頭に述べた「ICUなどを持つ病院や、許可病床数500床以上の病院において、地域包括ケア病棟の新設は『1病棟』に限定する」との制限規定が設けられました。
今般のワーキングペーパーでも、「大規模急性期病院が地域包括ケア病棟を併設して、民間の中小規模病院の経営を圧迫している」との主張を強化しています。
なお、国公立・公的病院を「7対1のみの病院」と「7対1と地域包括ケア病棟を併設する病院」などに分類し、とくに大規模な病院について経営状況を分析していますが、「7対1のみの病院」と「7対1と地域包括ケアの病院」とで、経営状況に特段の傾向(例えば、「地域包括ケアを併設するほうが有利」など)は見られません
▼国立病院:7対1のみの41病院(平均456床)では赤字幅が拡大(医業収益率は2014・15年度の年度マイナス0.2%から2016年度にはマイナス1.0%に拡大)しているが、7対1と地域包括ケアの8病院(平均359床)では、新病棟を設置した舞鶴医療センター(京都府)を除けば、黒字を維持している(舞鶴医療センターを除く医業収益率は2014・15年度にプラス1.3%、16年度にプラス0.2%)
▼労災病院:7対1のみの18病院(平均423床)、7対1と地域包括ケアの7病院(平均353床)のいずれも、2015年度から16年度にかけて医業利益率が改善しているが、「厚生年金基金の代行返上による退職給付費用の減少」という一時的要因によるものである
▼JCH0:7対1のみの15病院(平均348床)では、2015年度から16年度にかけて医業利益率が改善(15年度:プラス0.4%→16年度:プラス0.5%)している。7対1と地域包括ケアの18病院(平均273床)では、2015年度から16年度にかけて医業利益率が悪化(15年度:プラス1.6%→16年度:プラス0.5%)している
▼日赤:7対1のみの46病院(平均442床)、7対1と地域包括ケアの9病院(平均293床)【経営状況は分析されていない】
▼済生会:7対1のみの31病院(平均358床)、7対1と地域包括ケアの12病院(平均316床)【経営状況は分析されていない】
しかし日医総研では、「病床の機能分化・連携の視点から、地域の事情を踏まえつつ、民業圧迫にならないよう国・公的大規模急性期病院が担うべき機能をより明確にすべき」と主張しています。
病床機能報告や地域医療構想では「病棟単位の機能分化」を推進しながら、診療報酬については「病院単位の機能分化」を求めており、一貫性に欠けるようにも思われますが、中医協などで、「大規模急性期病院における地域包括ケア病棟の設置(新設)制限」論が強化される可能性もあり、今後の議論に注目する必要があります。
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