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ソフトバンク事例にみる広告上の注意点 (2017/8/28 企業法務ナビ

関連ワード : 法律 消費者 

はじめに

 商品やサービスを提供するうえで、お客様に関心を持っていただくことは、顧客獲得に必要な手段です。その一つの方法として、多くの企業で行うことが「広告」だと思います。ソフトバンクは2017年7月27日、2016年11月に実施したキャンペーンにおけるウェブサイトの広告表示の一部について、不当景品類および不当表示防止法(景品表示法)第5条第3号に違反するとして、消費者庁から措置命令を受けました。以下では、ソフトバンクの事例をみながら広告をする際の注意点をみていきたいと思います。

チラシ

ソフトバンクの違反態様

(1)問題の概要
 ソフトバンク社は、平成28年11月1日から同月4日までの間、自社ウェブサイトにおいて、「いい買物の日 Apple Watch キャンペーン」の予定を表示しました。そのキャンペーンの実施要項は、「いい買物の日 2016年11月3日(祝・木)~11月13日(日) おトクドッカーン! Apple Watch(第1世代)が! スペシャルプライスで買えるのは今だけ! 本体価格11,111円 表示価格は税抜です。」などと記載していました。

 キャンペンの実施対象店舗は485店舗ありましたが、実質には306店舗にしか準備できず、在庫の数も1128台しか用意されていなかった事実が判明しました。もっとも、ソフトバンク社としては、キャンペーンのウェブサイトには、「Apple Watch(第1世代)在庫限り」「商品によっては在庫がない場合もあります。Apple Watch取り扱い店舗でご確認ください」などの注意文言を記載していたため、購入希望者には迷惑がかからないものだと考えていたとのことです。しかしながら、これらの記載は各店舗における商品の準備状況を明瞭に記載したものではなかった以上、顧客への「おとり広告」であると判断されました。

(2)問題となった事実関係

  • ウェブページで広告したキャンペーンについて、キャンペーン期間中に取扱い店舗にて11,111円で購入できるように表示したこと
  • キャンペーン内容によるとあたかもキャンペーン初日の11月3日から485の店舗にて販売されるように示したこと
  • 店舗によっては対象商品を準備できてないにもかかわらず、購入希望者に対応できる旨の表示がなされたこと

 という事実が挙げられます。これらの事実関係からソフトバンクへの景品表示法5条3号違反による措置命令(同法7条1項1号)が出されました。

景品表示法の違反広告とは

 景品表示法では、第5条で不当な表示の禁止を規定しています。大枠でくくれば、優良誤認表示(5条1号)、有利誤認表示(5条2号)、その他の表示(5条3号)に分類されます。

 ≪優良誤認表示≫とは、商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、(ア)「実際のものよりも著しく優良であると示す」もの、(イ)「事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す」表示をいいます。

 単に上記に該当する表示であるだけでは違反になりません。実質的な判断として、「不当な顧客誘引や一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」場合に、違反となります。

 優良誤認における具体的事例としては、温泉の効能があるというためには温泉法2条1項に該当しなければならず、ただ水道水を加温しただけのものを「泉質」といった表記や「天然温泉」と示していた事例

 ≪有利誤認表示≫とは、商品又は役務の価格その他の取引条件について、(ア)「実際のもの」「よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」、又は(イ)「当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」をいいます。

 こちらでも1号違反と同様に、実質判断として「不当な顧客誘引や一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」場合に、違反となります。

 有利誤認表示の事例としては、ダイエットサプリ等に多くみられますが例えば痩せるという内容のものについて、合理的な根拠が示されていないために、違反措置を取られることがあります。

 ≪その他の表示≫として、現在内閣総理大臣の指定がなされている表示は現在のところ6種あります。
(1)無果汁の清涼飲料水等についての表示
(2)商品の原産国に関する不当な表示
(3)消費者信用の融資費用に関する不当な表示
(4)不動産のおとり広告に関する表示
(5)おとり広告に関する表示
(6)有料老人ホームに関する不当な表示

 具体的事例としては、(1)のケースでいえば、清涼飲料の成分表示として果汁100%の使用をしていないのに、100%と表記しているケースが該当します。(2)のケースでいえば、中国産うなぎなのにもかかわらず静岡産と表記するなどが挙げられます。また、(3)のケースについては、融資金額の利息割合について、契約書には「年率」で示されていると思ったら、「月利」としての記載だったなど、いわゆるサラ金について多く見られる事例です。さらに、(4)のケースでは、広告記載の物件情報に合致した不動産など実在しないところ、問い合わせを受けて他の物件を案内するつもりで広告に出し、問い合わせに対しては既に契約済みとなってしまったなどと言えばいいなどと考えて行ったものが挙げられます。そして、(5)のケースとしては上記「ソフトバンク事例」が該当し、⑥については、たとえば、施設内にプールがある場合で、「入居者様は誰でも自由にご利用いただけます」などと記載されていても、実質には利用料金を支払えば使えるということがあり、これが(6)ケースの具体例といえます。

 このように、一律に分類することは難しいものもありますが、簡単にいえば、「優良誤認」は、『製品』自体の誇張が該当し、「有利誤認」は『企業』自体の優位性を根拠なく示すことです。ですので、一般消費者が客観的な判断をできないような製品の誇張や企業の優位性を示すことは、「優良誤認・有利誤認」に当たりうるので注意されたいと思います。そして、広告を行ううえで顧客獲得へ大きな働き掛けとなるのは、『比較広告』だと思います。そこで、以下、比較広告についての注意点についても確認しましょう。

比較広告の違法性

 上記広告以外の方法のうち、行われがちな広告方法として注意したいのは、「比較広告」です。比較広告とは、自社と競合する企業との製品等の特定事項を比較して広告に示すことで、競業会社よりも自社の優位性等を宣伝して顧客獲得へつなげようとする広告手法です。そのなかでも特に有名な比較広告の例として、『ペプシVSコーラ』のCMがあったことが皆様のご記憶に新しいかと思います。これは他社製品よりも自社製品が優位であることを示す、上記の「優良誤認」に該当するのではないかと思われます。ですが、実際は景品表示法違反として是正が求められることなどはないようです。では、なぜ「優良誤認」に該当しないのか、以下検討してみましょう。

 景品表示法上の取扱いとして、比較広告に該当するだけでは、不当な表示として同法5条違反になるわけではありません。商品の特徴を適切に比較することを妨げ、一般消費者の適正な商品選択を阻害するものは、不当表示に該当するおそれがあるとされています。つまり、適正な比較広告であれば行うことも許され、表示することができるわけです。比較広告が適正にできることは、一般消費者に対して自社製品の客観的な宣伝をすることになり、顧客獲得のチャンスにつながるわけです。

 そこで、適正な比較広告というためには、以下の3つの要件を充足することが求められています。
(1)比較広告では主張する内容が客観的に実証されていること
(2)実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用していること
(3)比較の方法が公正であること

 これを具体的にペプシCMに当てはめて考えてみればよりわかりやすいかと思います。両者の比較方法が、ブランドを伏せて500名の顧客に飲んでもらい、どちらが美味しいかを決めてもらうというものでした。そのため、比較対象が『味』という主観的評価にも限らず、先入観を排除する形式で行われているので、ペプシ社の主張する「カロリーゼロ」の味として美味しいのはどちらなのか、という点について実証できたといえるでしょう((1)要件充足)。

 また、実証された数値や事実は、500名という市場調査において、61%の割合でペプシ社の「ゼロ」が美味しいという結果を正確かつ適切な引用で示したといえるでしょう((2)要件充足)。また、比較方法自体も先入観のないデータとして採られた結果であり、公正さが担保されているということができるでしょう((3)要件充足)。

以上より、上記「ペプシ社の比較広告」は、適正な比較広告だったといえます。このように、適正な比較広告を行うことによって、ブランドインパクトと顧客誘引を達成する理想的広告といえるのではないでしょうか。ただ、比較広告も「優良誤認」等に当たりうることは忘れずに、客観的な証拠を示せる広告内容を表示するように注意を払ってください。

コメント

 以上のように、ソフトバンク社という大手企業でも広告が規制されることもあります。一般消費者と事業者の間には製品への情報格差があるため、事業者としては消費者の購入意思を歪めない手法での宣伝広告を行わなければなりません。それが景品表示法の目的であり、規制基準として作用するものなのだと思います。是非、事業者の皆様には製品コストのなかでも大きなウエイトを占める広告費用について、景品表示法を意識していただければと思います。

提供:企業法務ナビ

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